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2016.10.22

コラム

JSAA OPEN SEMINAR vol.4『「観戦力」を高める』開催レポート[後編]

2016年10月5日(金)、渋谷タコベルにて、JSAA OPEN SEMINAR VOL.4を開催致しました。今回は、「「観戦力」を高める」と題して、WOWOW様のご協力の下、Bリーグの開幕で注目を集める「バスケットボール」をテーマに、スポーツをより楽しむために必要な、「観戦力」について考えるセミナーを開催しました。

今回は、NBAアナリスト・WOWOW NBA解説を務め、スポナビライブのBリーグ開幕特番にも出演された佐々木クリス氏、Bリーグからは経営企画部マネージャーの斎藤千尋氏、バスケットボール男子日本代表チームテクニカルスタッフの末広朋也氏の3名によるセッション「パネルディスカッション〜バスケットボールの観戦力の高め方〜」について、レポート致します。モデレーターは、千葉洋平(一般社団法人日本スポーツアナリスト協会)が務めました。

スタッツを伝える上で大切にしていること

佐々木氏による熱いNBAファイナル総括を受けて、セッションは佐々木氏に対する「解説者として観戦者へ伝える時に、何を大切にされていますか?」という質問から始まりました。

佐々木氏は、スタッツを用いて解説する時、「画面の向こうに今日初めてバスケットボールを観ている人がいる」という事を心がけているのだそうです。ただ、初めてバスケットボールを観ている人にばかり気を配ってしまうと、細かいスタッツを用いた解説が出来なくなってしまうので、細かいスタッツは分からないだろうと出し惜しみするよりはどんどん出していった方が視聴者は喜んでくれる、と語りました。

一方、チームの現場ではどのようにスタッツに興味をもってもらっているのでしょうか。バスケットボール男子日本代表チームテクニカルスタッフを務める末広氏は、映像は選手に観せることはあるものの、スタッツを提供するときは、コーチを経由して提供しているそうです。

また、スタッツを提供する時に心がけているのは、チームの課題に即したスタッツを提供することだそうです。バスケットボールの国際大会は連戦で、時には10日間で9試合といった日程で試合をこなさなければなりません。他国に勝つためのデータを具体的に提供するように心がけるだけでなく、簡単にデータを提供出来るようにスタッツを作っている、と語りました。

Bリーグが導入した「Synergy」とは?

そして、9月に開幕してから注目を集めるBリーグの斎藤氏からは、セミナーの当日発表された、NBA、NCAA、海外のリーグの1,500以上のチームで採用されているバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」について、説明して頂きました。

Synergyの導入のメリットとして、斎藤氏が一例として語ったのは、外国人選手の起用法です。Bリーグ(B1)では、1試合最大6人と外国人選手のオン・ザ・コートの数が決められており、対戦クラブごとに試合前に任意に申請・設定します。同時に出場できる「オン・ザ・コート」はクォーターごとに設定します。どのように外国人選手のオン・ザ・コートの人数を決めればよいかは、データで導けるのではないかと、斎藤氏は語りました。

データから考えるNBAとBリーグの違い

Synergyを活用するメリットとしては、他にもあります。NBAで採用されている事もあり、NBAの選手とBリーグの選手のデータが同じ分析システムで記録されているので、外国人選手の獲得時の参考にすることが出来ます。もちろん、単純には比較出来ませんが、NBAとBリーグを比較することも可能になりました。

「データから考えるNBAとBリーグの違い」について、佐々木氏、末広氏、斎藤氏それぞれ「単純な比較は難しい」と語りつつ、3者の視点で語ってくれました。

末広氏はPACE(バスケットボールの試合中にどれだけ攻撃権を得られたかを示す指標)をチェックしてみたいと語りました。Bリーグは40分、NBAは48分という試合数の違いはありますが、NBAの平均のPACEは40分に換算すると80回程で、日本代表だと70回ほどだそうです。ただ、末広氏はPACEが多ければレベルが高いバスケットボールが出来ているというわけではないが、PACEを軸に、様々なスタッツについて分析していきたいと語りました。

佐々木氏は、「Bリーグはまだ開幕したばかりだから分からない」と前置きした上で、FIBA(国際バスケットボール連盟。この場合は国際ルールで運営されているバスケットボール)とNBAの違いについて、自論を語りました。

佐々木氏によると、FIBAのバスケットボールはファストブレイクとハーフコートバスケットで攻撃が構成されているけれど、NBAはファストブレイクとハーフコートバスケットの中間である、ショットクロック12秒の間にシュートを放つことが多く、攻撃のパターンに違いがあると考えています。攻撃のパターンの違いを踏まえて、Bリーグがどんなバスケットボールをさせたいのか、各チームがどう戦うのか注目したいと語りました。

斎藤氏は、Bリーグというデータを提供するコンテンツホルダーの立場としてやるべきことは、もっとデータをファンに対して公開していく事だと語りました。

斎藤氏は、データは貯められているが、出し切れていないと課題を挙げました。データをもっと積極的に公開していくことで、選手の査定や、映像と連動させる事で、映像の付加価値も高めていきたいと語りました。

どのスタッツを見れば、面白い試合かどうか分かるのか?

セッションの後半には、会場のファンから質問がいくつか寄せられました。

 

まず、佐々木氏には、「これだけ詳細な解説が出来るまで、どのくらいの期間がかかった?」という質問が寄せられました。

 

佐々木氏は、BJリーグでプレーしていた時期があるのですが、その間に2年間同時通訳として、WOWOWの仕事に関わっている間に、自分だったらこう解説すると考え、現場に携わらなければ学べなかった事を学べたと語りました。そして、自身が英語と日本語とバイリンガルだったことで、NBAが提供しているスタッツや、英語でしか読めない情報への理解を深めることが出来たのは大きかったと語りました。

 

また、「どのスタッツを見れば、面白い試合かどうか分かるのか?」という質問に対して佐々木氏は、「どんな試合も、ボックススコア(得点数、アシスト数、リバウンド数といった基本的なスタッツ)を見るだけでも面白い」と語った上で、スピーディーで、迫力ある攻撃が見られるファストブレイクや、3ポイントシュートは、観客が盛り上がる場面なので、数が多ければ、観客が盛り上がる場面が多かった試合だと言えるかもしれないと語りました。

 

斎藤氏は、自身は元々データに関する記事をNBA.comに連載していたこともあるので、「もっと喋りたい」と語りつつも、攻撃回数を測る「PACE」と「フリーのシュートの成功率」を挙げました。

 

末広氏は、ターンオーバーからの得点は、ファストブレイクにもつながる事が多いし、観客が盛り上がる場面なので、注目してほしいと語りました。また、末広氏は、ダンクシュートなど普通の2ポイントシュートより、チームに勢いを与える得点を数値化していくのは難しい、と語りました。

 

増えていくデータをどう活用すべきか

データを測定するシステムや、解析するシステムの進化によって、手元で確認出来るデータは増えていくはずです。しかし、どんなに確認出来るデータが増えても、手元にあるデータがどのような指標であり、どのような意味を持つのか理解していなければデータは無駄になるだけでなく、間違った理解を促進してしまう可能性があります。

 

日本スポーツアナリスト協会としては、今後もOPEN SEMINARを通じて、データを活用してよりスポーツを深く理解してもらうための活動を続けてまいります。今後の日本スポーツアナリスト協会の活動にご期待ください。

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なお、今回のイベントにご協力頂いたWOWOW様が、2016-17年シーズンのNBA開幕を記念したパブリックビューイングのイベントを行います。今回のイベントでも登壇された佐々木クリス氏も出演されます。ぜひこちらもご参加ください。

日時:10/26(水)開場 18:30 開演 19:00

カード:ニックスvsキャバリアーズ

場所:KITSUNE

備考:試合終了後には豪華グッズプレゼント抽選会も有り

詳細はこちら

出演:佐々木クリス、長澤壮太郎、吉年愛梨、B.LEAGUE選手2名ほど

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