日本における現存のスポーツ産業の仕組みを抜本的に変革する人や企業、サービスを紹介していく連載企画「GAME CHANGERS」。今回取り上げるのは、HudlやSPORTSCODEといったスポーツアナリストが試合の分析を行うのに欠かせないツールについて、日本における販売、普及とユーザーサポートを担っている有限会社フィットネスアポロ社。
HudlとSPORTSCODEの開発、発売元のHudl社はアメリカ・ネブラスカ州に本社を持つ。社名の由来でもあるHudlは、コーチと選手間の戦略・戦術的相互理解を深めてチームを勝利に導くための、スポーツビデオ分析・共有のためのクラウドサービス。元々はアメリカンフットボールの動画共有サービスとして開発され、アメリカのフットボールチームの実に96%以上で使われている。さらに現在はサッカー、バスケットボール、バレーボール、ラクロスの専用アプリケーションを持つだけでなく、それ以外のあらゆるスポーツを含め、利用しているチームの数は16万を超える。
一方SPORTSCODEは、オーストラリアのSportstec社が開発した映像情報を元にしたゲーム分析、評価を行うことの出来るビデオ分析システムだ。ここ20年足らずの間に、世界中のエリートスポーツチームに急速に広まった。一例をあげると、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAでは30チーム中29チーム、プロサッカーではイングランドのプレミアリーグに属する20チームのすべてで使われている。2015年にHudl社がSportstec社を買収した後は、Hudl社の製品として提供されている。
記憶に新しいFIFAサッカーワールドカップロシアに参加した32カ国中、優勝したフランスを含む21カ国がHudl社のソリューションを使っていたという事実からも、スポーツの現場に欠かせないサービスであることがよく分かる。
フィットネスアポロは、2018年からはアンダーアーマーの日本総代理店としても知られる株式会社ドームともパートナーシップを結び、Hudl社製品の日本における普及活動を続けている。その一つとして、スポーツアナリスト向けに毎年1回「ユーザーカンファレンス」と題して、最新情報やビジョンの共有を行っている。
Vol1では、2018年6月30日に開催した「2018 Hudl スポーツコード カンファレンス」のHudl AsiaのTim Rouse氏のセッション、「Hudl Vision: Capture and Bring Value to Every Moment in Sports」のレポートを紹介する。
アスリートやチームを助け、支えるためのツールを提供する
Rouse氏はセッション冒頭でHudlのミッションについて紹介した。Hudlは「アスリートやチームを助け、支えるためのツールを提供する。」というミッションを掲げている。全てのサービスや製品は、このミッションに基づいて開発が進められている。
ミッションを踏まえ、Hudlのソリューションは以下の6項目を満たせるように開発が進められている。
- Capture(解析用映像の取り込み)
- Data Production(映像から解析用データ作成)
- Reporting & Delivery(解析レポート作成)
- Distribution(レポートやデータのチームへの伝達)
- Analysis & Coaching(解析&コーチング)
- Commercial(チームの収入につながる)
Rouse氏は、ビデオを「見せる」ことのメリットとして、「ビデオはうそをつかない。若い選手にはビデオを使うほうが効果的。ビデオは話して伝えるより、改善すべき点をきちんと伝えることができるし、SPORTSCODEでは見せるべきビデオを簡単に作れる」と語った。
Rouse氏は、「全てのチーム、全てのコーチで戦術が違う」と前提を述べた上で、「ビデオから引き出すべきデータは、チームによって異なるが、SPORTSCODEはカスタマイズしてデータを作れるだけでなく、レポートもチームごとにカスタマイズできる」と語った。
データや動画をチームに共有するにあたって大切なのは、リアルタイムで提供することだ。バレーボール、ラグビーに続いて、FIFAワールドカップロシアでは、FIFAが指定したタブレット経由でのデータ提供が始まるなど、リアルタイムによるデータ提供は、今後ますます勝敗を左右するはずだ。
Rouse氏は、「SPORTSCODEを使えば、ビデオを試合中にパソコンに取り込んで、すぐに試合に影響を及ぼすデータを作れるし、優れたコーチはデータに基づいて戦術を変更できる。さらにHudlを活用すれば、素早くチーム内に共有し、動画へのコメントを通じて、チーム内でコミュニケーションを円滑にすることもできる」と語った。
スポーツアナリストの作業時間を削減するためのアップデート
Hudlのオフィスがあるアメリカのネブラスカには、250人以上の開発者のチームがおり、Hudlのソリューションは次々とアップデートされている。
Rouse氏はセッションの後半で、直近アップデートされた新たなソリューションについて語った。印象に残ったのは、Hudlがソリューションをアップデートしているのは、スポーツアナリストが映像分析にかかる時間を削減し、本来やるべき問題解決に費やす時間を増やしたいと考えているからだ。
例えば、「Hudl Assist」というソリューションを使うと、ビデオをアップロードすれば、24時間以内にレポートを返してくれる。2018年後半にはレポートを返してくれる項目もアップデートされる予定だ。スポーツアナリストは撮影した動画に対して、情報をタグ付けして、素早く見られるように工夫しているが、タグ付けには手間と時間がかかる。Hudlはアナリストの手間を減らし、本来やるべき分析に時間を割けるようにしたいと考えているのだ。
「Hudl focus」というサービスは、現在はバレーボールとバスケットボール専用だが、据え付け型のカメラを作り、4台のカメラを使ってフィールドのどこで試合が行われているかを自動で判断するソリューションだ。他には、撮影した映像から自動で、選手、審判、ボールの動きをトラッキングするシステムも開発を進めている。カメラなどの撮影機材をソリューションとして提供するのも、スポーツアナリストの作業工数を削減したいからだ。
Rouse氏のセッションからは、Hudlが「アスリートやチームを助け、支えるためのツールを提供する。」というミッションに忠実に開発を続けていること、そして何より、スポーツアナリストの助けになるソリューションを開発しようとしている事がよく分かった。
次回はドイツ・ブンデスリーガ2部のザンクト・パウリのアナリスト、Andrew Meredith氏のセッションをレポートする。
画像:有限会社フィットネスアポロ社ご提供
(レポート:西原雄一)