スポーツアナリストは、日本では脚光を浴びはじめて10年くらいなので、まだ定義するのは難しい職業ですが、あえて表現するならば「選手及びチームを目標達成に導くために、情報戦略面で高いレベルでの専門性を持ってサポートする職業」であると考えます。選手個人やチームの意志決定者が必要とする情報をいかに最適な形にして提供できるか、がスポーツアナリストの主な仕事です。特にトップスポーツの現場では、データの収集・分析を元にした戦略構築が勝利を左右することも珍しくなくなり、アナリストの役割は、現代スポーツ界においてどんどん重要性を増しています。
スポーツアナリストは、選手個人やチームの勝利に繋がる情報を提供します。それらは、監督やコーチ、選手が持っている直感・経験則から導かれたものとはまた違う側面の情報で、客観的事実に基づいていることが重要です。提供した情報が選手個人やチーム全員の目標達成に貢献できたとき、大きな喜びを感じます。選手やコーチングスタッフに「アナリストからの情報が役に立った」と声をかけてもらえることは、何事にも代え難い至福の瞬間です。スポーツアナリストのやりがいは、ここにあります。
スポーツアナリストに必要な能力や資質は何か? IT機器の造詣や統計学の知識なども挙げられますが、まずは正確な「情報収集力」です。もし収集したデータが正確性に欠けていれば、当然その後の分析も意味を成しません。なので、丁寧で正確な情報を集められる力はとても重要です。そして「分析力」。指導者や選手の経験値や感覚では導き出せなかった視点を提供する必要があるからです。
さらに、「伝達力」も欠かせません。得た情報を勝利に結びつけるためには、収集して分析した情報を単に伝えるのではなく、それを最終的に選手に理解してもらい、実行に移してもらわなければ意味がありません。そのためには、指導者や選手に受け入れてもらうための信頼関係も必要です。その根底にあるのは選手個人やチーム全員と同じ目標に向かう「情熱」であることは言うまでもありません。情熱を持ち、決して受け身にならず、主体的に自ら行動を起こしてやり抜くことも、スポーツアナリストには不可欠な能力だと思います。
また「誰にも負けない何か」を備えていることも重要です。例えば、その競技に関する知識で一番になる、といったことです。自分の強みをもって選手をサポートすることで、かけがえのない存在として信頼を得ることにも通じます。有用な情報を提供する以外にも、この領域では選手のパフォーマンス向上に貢献できるという、強みや個性のようなものがアナリストには求められるでしょう。
スポーツアナリストとしてのキャリアは幅広い可能性を秘めています。例えばトレーナーと呼ばれる職業は、PT(理学療法士)、AT(アスレチックトレーナー)、S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチなど、それぞれがスペシャリストとして細分化されています。各分野での特性を極めることで、競技をまたいで活躍できる環境が整いつつあります。スポーツアナリストも、今後は収集、分析、提供と役割が細分化される可能性があります。それぞれの分野を極めることや、またこれらオールラウンドのスキルを持っていることで、様々な競技で活躍できる可能性が広がります。また、データ分析はパフォーマンス向上という側面だけでなく、ブラッド・ピット主演で映画化された小説「マネーボール」で描かれたMLB・オークランド・アスレチックスに代表されるように選手を評価する際にも重要な指標となっています。
将来的にはアナリストがチームの監督やコーチ、ゼネラル・マネージャーなどにキャリアアップしていくケースも考えられます。メディアでもトラッキングデータや詳細なスタッツの活用事例は目覚ましく増えています。今後はアナリストが解説者として活躍するケースも増えるかもしれません。そして、データはソーシャルメディアとの相性が非常に良く、インフォグラフィックなどを用いて可視化することでファンエンゲージメントの醸成に役立てることも可能です。さらに、一般的なビジネスと同様にマーケティング戦略を考える際に活かすこともできるはずです。
ビッグデータの時代、今後はパフォーマンス向上だけでなく、スポーツ界における様々な文脈でアナリストの需要は高まって行くはずです。近い将来、こうした人材がスポーツアナリストと呼ばれる日が来るかもしれません。
渡辺啓太が語る 『スポーツアナリストとは何者か?』
日本におけるスポーツでのテクノロジー活用はまだまだ黎明期です。それはスポーツアナリストの可能性が無限大に広がっていることを意味します。このチャンスをしっかりと活かすために、スポーツアナリストの職能を高め、職域を広げることが重要です。さらに、スポーツを「する」「見る」「支える」それぞれのステークホルダーにとってスポーツアナリストが必要な職業だと認められなければなりません。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年、日本の選手たちがたくさんのメダルを獲ることに大きな期待が寄せられています。この目標を果たすために、スポーツ庁をはじめとする官庁や、JOC・JPC、競技団体、現場が一丸となって強化に取り組んでいる今、スポーツアナリストも情報戦略の分野において全力でサポートし、大きく貢献することが求められます。そして2020年以降も、スポーツアナリストがスポーツ界において必要不可欠な存在となり世界に誇れる人材を育成・輩出していくこと、そして日本スポーツ界の更なる発展に貢献していくことが、日本スポーツアナリスト協会(JSAA)に課せられたミッションなのです。
一般社団法人日本スポーツアナリスト協会 代表理事
渡辺啓太
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