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2018.12.26

GAME CHANGERS

「GAME CHANGERS」 CLIMB Factory編Vol.1 「スポーツに取り組むすべての人を支えるコンディション管理を」

左から渡辺啓太JSAA代表理事、CLIMB FactoryスポーツITカンパニーの阿部洋介事業部長、高橋良輔氏

日本における現存のスポーツ産業の仕組みを抜本的に変革する人や企業、サービスを紹介していく連載企画「GAME CHANGERS」。今回取り上げるのは、株式会社エムティーアイの事業部の一つである、CLIMB FactoryスポーツITカンパニーです。

CLIMB Factoryでは、選手が体調や睡眠時間、食事、練習内容記録などの「コンディション管理」を通じてスポーツに取り組むすべてのひとをサポートするアプリ『Atleta(アトレータ)』を運営しています。競技やレベルを問わず全国の部活動の現場などに広がり、2018年夏のインターハイには同アプリを利用するチームが120チーム以上出場しました。

今回は、事業部長の阿部洋介氏と企画に携わる高橋良輔氏に対して、日本スポーツアナリスト協会(以下、JSAA)代表理事の渡辺啓太が聞き手となり、『Atleta』がどのように活用されているかや現場に懸ける想いを聞きました。

高校・大学の部活動を中心にスポーツアナリティクスのすそ野拡大に取り組む両氏と、全日本女子バレーボールチーム情報戦略担当チーフアナリストとしてトップレベルの現場に立ってきた渡辺の対話は、今何が求められているのかという課題から選手個人のデータ活用の将来像にまで話が広がりました。

部活動に寄り添うものを

渡辺 以前に一度、こちらのオフィスにお邪魔したこともありますし、2年ほど前にユーザーを大きく変える転機があったとも聞いています。クライムファクトリーさんはどのような想いで事業をされているのでしょうか。

 

阿部 元々、我々は「We respect sports」というスローガンを掲げ、データ管理をベースに、スポーツに真剣に取り組んでいる人のサポートをしたいと考えていました。当初はケガの管理でトップ選手向けのサービスを展開していて、2012年から『Atleta』の前身のサービスである『CLIMB DB(クライムディービー)』が国の事業に採用され、産学共同事業として、各競技の連盟・協会などにサービスを提供していました。

2年ほど前にターゲットを拡大し、今は主に高校・大学の部活動を対象に、パフォーマンス発揮の土台になるようなコンディション管理にフォーカスして『Atleta』を広め、1000団体ほどに使って頂いています。

元々はプロやトップ選手を対象に『Atleta』を広げ、その事例をもとに部活動や一般の方々向けに落とし込むというストーリーを描いていました。ところが実際にはそううまくはいかず、プロと部活動では求めている内容が異なることが分かりました。

プロ選手は主体的にコンディション管理に取り組むケースが多いですが、部活動レベルでは高校生が自らコンディション管理をしたい、と言うのは稀です。顧問の先生が管理をきちんとやりたいということで始めることもありますし、コンディション管理というよりはコミュニケーションも含めた全体の管理で使いたいということもあります。

クライムファクトリーの当初の想定とは違うサービスが広がっていて、部活動に寄り添うものをやっていかなければ、という感覚があります。

 

渡辺 「コンディションやデータ管理って、トップチームだからできるんでしょ」というのは私も言われたりすることで、自分事にならない距離感というのはありますよね。そこにターゲットを変えて取り組まれているということですよね。今、サービスを支える組織の規模はどれくらいですか。

 

阿部 株式会社エムティーアイの拠点にいる担当を含めて、50人ほどです。クライムファクトリーが株式会社でまだ規模が小さかった時期に入った人、その後、エムティーアイのグループ会社の時代に入った人、エムティーアイの中で異動になって来た人と大きく三つあり、様々なバックグラウンドを持った人たちが集まっています。

 

渡辺 その中で、阿部さんと高橋さんは、それぞれどんな思いで加わったのですか。

 

阿部 元々はSI(システムインテグレーション)をやっていて、官公庁に関わるプロジェクトなど、わりと堅めの仕事をしていました。好きなことをやりたいなと思った時にスポーツが頭に思い浮かび、好きなスポーツと身につけたITスキルの掛け合わせで働けるところを探して、2015年に入社しました。

 

高橋 私はJSC(独立行政法人 日本スポーツ振興センター)から、2017年に入社しました。スポーツ政策などにおける情報戦略を専門にやっていたのですが、もう少し現場に近いところに行きたいと思い、転職しました。今は、企画を担当しているので、お客様が使うサービスをどう改善していくかに取り組んでおり、やりたかったことに近いことができています。

渡辺代表理事(左)に、『Atleta』の機能を説明する阿部洋介氏(中央)と高橋良輔氏(右)

渡辺 提供しているサービスについて、少し詳しく聞かせてもらえますか。

 

阿部 アプリの『Atleta』は、コンディション・食事管理を中心に、トレーニング管理などを行うことも可能です。体重、体脂肪率、睡眠時間、身体の痛み、練習の振り返りなどを入力します。また、食事内容を入力することで食事から摂取した栄養素がグラフで表示され、何が足りないのかなど栄養バランスをチェックすることも可能です。

その他に、チームのスケジュール管理や連絡ボードも見られますし、コメントやメッセージのやり取りもできます。スタッフ側は、選手が入力したものを一覧で見られるので、一人ひとりに寄り添った練習メニューを考えたり、練習ノートの代わりに毎日のトレーニングの感想などをコメントで見ることも可能です。

 

高橋 気になる部位の痛みの度合い、頭痛といった内科的な症状も入力できます。自分のチームで取りたいデータがあれば、カスタマイズもできます。

営業はアナリスト

渡辺 『Atleta』は、コミュニケーションにも使えるというのがユニークですね。高校生が継続するには何かポイントがあると思うのですが。

 

阿部 色々なケースがあります。厳しい規律を課す監督の指示のもと選手が入力しているケースもあれば、サービスを導入する段階で選手たちに選択させ、「自分たちで決めたことは責任もって続けなさい」というケースもあります。

続けるポイントは二つあると思います。

一つは人的サポートです。我々の営業担当は、「アプリつくりました。使ってもらっています。おしまい」ではないです。入力されたデータから必要に応じてレポートを作成し、担当チームのコンディション管理をフォローします。考察も含めたトータルのサービスで、単なるセールスマンではなく、もはやアナリストやコンサルタントに近いです。

もう一つは、啓蒙活動です。日々の過ごし方を改善しましょうと言っても、成果は見えにくいので、関連する情報やこのサービスの必要性を発信することが重要です。定期的なユーザーのフォローも啓蒙になりますが、一度にたくさんの人が集まるところで使い方をシェアされるのも効果があります。

2018年10月にはCLIMB Factoryカップを鳥取で行い、参加チームに対して、管理栄養士による食育セミナーと元Jリーガー2名によるコンディション管理セミナーを実施しました。元Jリーガーは2名とも弊社の社員として活躍していて、元プロ選手の実体験に基づく話は大変反響がありました。

 

高橋 入力されたデータに対してフィードバックが得られることが大切です。コンディション管理は目的ではなく手段で、何のためにやるのかを理解してもらうことが重要だと考えています。例えば、なぜ睡眠時間を長く取ることが必要なのか。選手が成長することが目的なので、そのためにデータを蓄積するプラットフォームが必要です。

営業担当は、担当チームのデータを基にフィードバックを行っています。データを振り返って次のアクションを起こし、その反応を見てレポートの形をチームごとに変える、などと細かな改善を繰り返しています。それを支える企画チームとしては、反応が良いレポートについては、機能としてアプリに加えることも考えます。

ユーザーの「こう直して下さい」をどうとらえるのか

渡辺 トップチームの場合は、我々のためだけにこのようにつくって欲しいと細かく、素早くカスタマイズしてもらうのがサービスだったりしたのですが、部活動の現場からの要望はバラバラですよね。そのあたりは、どういう軸をもって調整するのですか。

 

高橋 ユーザーは強豪校から一般校まで様々で、あるチームの要望に合わせて機能を追加すると、別のチームでは希望通りに使えなくなるということもあります。導入いただいているチームからの「こう直して下さい」という要望を、その通り叶えることがそのチームの課題解決に繋がらない可能性もあるので、そのチームの課題や本質的に何を求めているのかを察してサービスを改善していくことが必要です。

ユーザーの声に耳を傾けて改善することはもちろん大事ですが、一方で言われたことをそのまま形にするのではなく、期待以上のことをやらなければ受け入れられません。今の延長ではなく、少し先を見る必要性を感じています。こちらからソリューションを提案していけば、それでチームがより良くなり、広まることがあるかもしれません。

「部活動で頑張っている人をサポートしたい」という最終的な目的地は見えていますが、そこに至るルートというか、判断の軸になるものは試行錯誤中です。

 

渡辺 ユーザーからはどんな声がありますか。

 

阿部 先生からは「選手のセルフコンディショニングの意識が高まった」とか、コメントや身体の気になる部分の書き込みから、コミュニケーションが増えたという声を聞いています。声を掛けるきっかけになるネタが『Atleta』の中にある状態を作れています。

 

高橋 例えば、50人いる部員全員に監督から声をかけることは難しいですが、コンディションデータを確認し、誰に声を掛けるべきなのかを考える上で参考にしている方もいるようです。

部活動で取り組んできた様々な経験は言語化されるべき

渡辺 多くの高校生が日々入力し、膨大なデータがたまっていると思いますが、集まったデータをどう使うのかは、トップレベルでも課題になっています。データを使いこなすのがアナリストですが、クライムファクトリーさんの考えるスポーツアナリストとはどんなものでしょう。

 

阿部 我々のメンバーでは営業担当がそれに当たると思っています。取得したデータの活用法を示すことや、その解釈を伝えることでチームに何らかのメリットを与えられる人だと考えます。営業は各々が自分の強みを生かしてユーザーと相対しています。それを標準化させてしまうのはどうかと。

 

高橋 『Atleta』に溜まっているデータ、例えば、食事に関するデータは何百万とあるわけですが、それを社内で活用することももちろんですが、スポーツ界に還元できる方法があるのではと考えています。コンディション状態に応じて何らかの食品レコメンド(推奨)を出すなどが、アイディアとしてあります。

将来的にはデータの価値を見出していくことも、アナリストができることになってくると思います。他にも例えば、ある特定の身体の部位の違和感を継続して入力している選手がいた場合、アプリ上でそれを検知して「どういう動きをすると痛いですか?」とアプリ上で追加質問をし、そのやりとりをもとに、近くの病院を薦めるなど、コンディションデータをもとに他の機関と連携していく可能性も考えられます。

 

渡辺 今のお話を聞いて思ったのですが、選手個人のデータ蓄積が高校時代にスタートする分、若年代から全部溜められているわけですよね。このプライバシーの高いデータをアスリート個人として管理し、例えば、ケガに対してこれだけ備えられていますというのは、選手の市場価値を高めることにもなりますよね。今、高校から大学に進んだ時などに、『Atleta』を使っていて、そのデータを継続して使うというのはできるのですか。

 

高橋 要望に応じて柔軟に対応しています。2019年3月が、『Atleta』を始めて2度目の卒業シーズンです。長い人は2年使っていて、せっかく取り溜めたものが、卒業時に「はい、さようなら」では実にもったいないです。

まずは、3年間の歩みを冊子などにまとめて紙媒体で提供することを検討しています。卒業後に所属するチームで監督と話す時に、これまで取り組んできたことが可視化でき、コンディション歴や既往歴としても使ってもらうことを考えて良いのではと思っています。

 

阿部 部活動で取り組んできた様々な経験は言語化されるべきで、それが『Atleta』の中に蓄積されていることで、「僕の3年間は、これです」とうまく伝えられればいい。卒業後は必ず次のステップに進むので、そのような形を実現していきたいです。『

 

渡辺 選手個人のデータが高校、大学、企業やプロと、ずっと蓄積できてスムーズに引き継げることは、御社だけではなく、スポーツ界全体の課題としてあるんじゃないかなと思います。取り組みたいこと、将来の展望がたくさんありますね。最後の質問になりますが、我々も啓蒙活動はセミナーなどいろいろ取り組んでいるのですが、JSAAに期待することはどんなことでしょうか。

 

阿部 「スポーツアナリストって何ですか?」と言われて、パッとイメージが湧かないとか、難しい肩書きというイメージをまだ持たれることが多いように思います。そこのハードルを下げてほしいです。なんか大変そうだな、ではなく、例えば、どういうルートをたどればスポーツアナリストになれるのかを示すとか。

 

渡辺 おっしゃる通り、最近「スポーツアナリストになるには、どうしたら良いんですか?」という質問をよく受けるようになって、入門セミナーなどを始めましたが、そのあたりは、まだあまり示せていないことの裏返しかもしれません。皆様方のお力も借りながら、そういった活動は進めていきたいと思います。今日はお時間を頂き、ありがとうございました。

 

阿部・高橋 ありがとうございました。

 

(取材・文:早川忠宏)
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JSAAでは2019年1月26日(土)にSAJ2019-を開催します。会場には、CLIMB Factoryのサービスが見られるブースも設けられます。