FIFA(国際サッカー連盟)が2006年に行った調査において、日本の男子“ユース”サッカー選手数は世界でも上位の8位。調査から12年後、当時のユース選手数では勝る日本に対し、その数が何分の1にも満たない他国がロシアワールドカップで結果を出しました。「効率的な選手育成」のために、日本は何をすべきなのでしょうか?
日本サッカーを世界レベルへと引き上げるためのヒントを見いだすべく、ユニークな取り組みを行っているいわきFCより、チームドクターである齋田良和氏と、パフォーマンスコーチを務める株式会社ドーム ドームアスリートハウスの鈴木拓哉氏をお迎えし、株式会社ユーフォリアの宮田誠氏をモデレーターに、データ管理の側面から議論していただきました。
彼らが導き出した答え、そしてその先に求める意識とは…。
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Prevent first injury!
怪我の最大のリスクファクターは何か?
それは「受傷歴」であると、齋田氏は語りました。一度捻挫をした人は、また同じところを捻挫しやすい。「受傷歴」をつくることこそが、継続的に強度の高いトレーニングを行うことを妨げてしまう、最大のリスクファクターです。
いかに最初の受傷をつくらないか。どんな治療をするかではなく、怪我をする「前」の状態をデータ管理してfirst injuryを予防することこそが、「効率的な選手育成」につながるのです。
疲労度の数値化と、境界を越えた情報共有
データ管理の対象に、いわきFCでは「疲労を数値化する」ことに着目。尿比重や長座位前屈など、数値化が可能で、再現性が高く、かつ練習前に選手が簡単に短時間で計測できる5つの項目でモニタリングを実施しました。
定期的な計測で数値化されることにより、疲労度の増減が“可視化”され、怪我の予測が可能となったといいます。そして、そのデータに基づきトレーニングの負荷や種類を調節することで、怪我のリスクを避けながら、より強度の高いトレーニングに継続的に耐えうるフィットネスの向上を生んだのです。
集めたデータはチームドクターなどのスタッフはもちろん、選手も全員が閲覧可能となっています。世界では「Injury Survey」というシステムで、国やクラブを超えて怪我の情報をデータベース化して共有しており、2018年にはその活動と熱意が認められ、いわきFCも加入が認められたそうです。
その最大のメリットは、自チームで起きた怪我が世間一般の事例と比べることができ、その発生シチュエーションなどの情報をもとに、次のシーズンのトレーニングや怪我の予防に役立てられることです。「これが日本でもスタンダードなシステムになれば、サッカー界の大きな成長につながるのでは」と齋田氏は述べました。
遺伝子から分かる選手の特性
性差や成長曲線といった要素に加え、選手のトレーニング負荷をさらに最適化するために行われているのが、遺伝子解析です。「ACTN3」という、3つに分類される筋肉を構成する遺伝子をもとに、パワー系か持久系かを分類し、さらにどの程度の負荷で最も反応(Respond)が良いのかを個人単位で予測。その結果、トレーニングの強度やボリューム、頻度の差別化ができ、全員をResponderにするアプローチが可能となっています。
成功ではなく「成長」をサポートする
「良い指導者は必ずしも勝利者ではない」
支える側が最も重きを置くべきは「選手個人の成長」であると、彼らは語りました。選手個人の特徴にフォーカスし、それぞれの長所を伸ばし、怪我を予防し、弱点を補いながら、また長所を伸ばしていく。世界有数のユース選手数を誇る日本だからこそ、データに基づき、個別に効率化・最適化されたトレーニングにより、その才能を埋もれさせない環境を作り出すことが重要なのです。
そのためには「グローバルな視点を持って、ローカルに行動する」。選手を取り巻くすべての人を巻き込みながら、国やクラブを越えて広い視点で連携をしていくことが、日本のサッカー界、そしてスポーツ界を変えていくだろうと、齋田氏の熱い思いとともにセッションは締めくくられました。