日本代表が史上初のベスト8進出を果たすなど、大きな盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会。今回のW杯では“にわかファン”とも呼ばれた、新たにラグビーに関心を持った人たちも話題になりました。では、“にわかファン”たちはどうすれば大会後も競技に関心を持ち続けてくれるのでしょうか。
スポーツ総合サイト・スポーツナビのデータを基に、元ラグビーW杯組織委員会チケッティング・マーケティング局長の宮田庄悟氏、東京オリンピックでラグビーのスポーツマネージャーを務める東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の松尾エイミ氏を招いてスポーツナビ株式会社アナリストの柳下真慧氏、プロダクト企画部部長の大迫拓郎氏が議論しました。
ラグビーW杯期間中の訪問者は91%が新規
まずは大迫氏と柳下氏がスポーツナビで行ったラグビーW杯特集の概要とサイト訪問者の属性を紹介。大会中は想定をはるかに上回る数値を記録したこと、そしてサイト訪問者はW杯開幕前1カ月はまったくラグビーのページを見ていなかった新規層(=にわかファン)が91%だったといいます。
柳下氏が、昨年のSAJ2019でも紹介した「スポーツ観戦のきっかけ別 新ファンセグメント」を説明すると、宮田氏、松尾氏を交えた議論に発展。これまでのラグビーファンは「近親者の影響」「経験者」「地元愛」といった観戦のきっかけがほとんどでした。しかし、今回のラグビーW杯では「ONE TEAM」が流行語になるほどの「話題性」があり、“笑わない男”稲垣啓太選手のような個性豊かな「選手」のファンが増えたこと、リアルタイムで試合を観戦することができたためジャッカルのような専門用語やラグビー自体の「ゲーム性」にも注目が集まったことで、多くの新規ファンを獲得できたのではないかと分析しました。
加えて、宮田氏は4年前のW杯イングランド大会の躍進も大きかったのではないかとの見解を述べました。ラグビーW杯2019組織委員会のデータを示し、五郎丸歩選手らを擁して南アフリカを破るなどの活躍を見せた2015年から認知率が大きく上がった事例を紹介しました。
競技の普及に必要な“ファンのグラデーション化”
続いて、2019年に行われた主な国際大会と比較しながら議論を深めていきます。サッカーのアジアカップ(1月)、バスケW杯(8月)、バレー女子W杯(9月)を例に挙げ、新規率の比較や大会後、国内リーグにも興味が続くのかを議論しました。スポーツナビのデータによると、“にわかファン”にも程度の差があり、国際大会の期間中に10日以上サイトに訪れた新規客は、その後も3割程度はファンとして定着したそうです。
宮田氏はこうした現象を“ファンのグラデーション化”と表現し、ラグビーファンがこれまでのように一部のコアなファンとそれ以外に分かれるのではなく、興味や関心の度合いがグラデーション化した状態が重要だと語りました。
“にわかファン”はどうすれば定着するのか
スポーツナビでは、今回のラグビーW杯で“にわかファン”と定義したユーザーに意図的にラグビーの情報を多く見せるテストを行ったところ、通常よりもより多くラグビーの情報を閲覧する傾向が出たそうです。これらのテスト結果を受け、松尾氏は「ラグビーW杯で増えた“にわかファン”はどうすれば定着するのか?」という問いに対し、「情報を発信し続けること」と「情報と機会を提供すること」が重要だと回答。今年の夏、東京オリンピックで開催されるラグビー(7人制)競技を統括するスポーツマネージャーとして競技の魅力をアピールしました。
大迫氏も「情報を発信し続けること」の重要性を再認識し、メディアとして競技のさらなる発展に貢献していきたいと述べ、講演を締めくくりました。