
日本スポーツアナリスト協会が「トップリーグバレーボールチームにおけるアナリストの実態調査」の結果を公表
一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(代表理事:渡辺啓太、以下JSAA)は、公益社団法人SVリーグ(旧 日本バレーボールリーグ機構)の協力を得て、バレーボール国内トップリーグに所属するGM、アナリストを対象とした「トップリーグバレーボールチームにおけるアナリストの実態調査」を実施しました。同調査に関する集計結果を公表します。
今回の調査は、日本のスポーツアナリティクスの発展に寄与するため、アナリストの業務や取り巻く環境の現状を把握することを目的として実施しました。SVリーグへの移行対応が本格化する前の2022-2023シーズン時点におけるVリーグ(V1、V2、V3の男女計57チーム)所属チームのGMおよびアナリストを対象にGoogleフォームを使用して実施しました。調査は①GM向け、②アナリストグループ(集団)向け、③アナリスト個人向けの3種に分けて実施し、全57チーム中56チームのGM、35チームのアナリストグループからの代表回答(チーム内で1回答)、39名のアナリスト個人より回答を得ました。
若手中心で専門職としての定着化が進むバレーボールアナリスト
まず、バレーボールアナリストは20代が約7割を占め、20代前半と後半がほぼ半数ずつとなっており、若手を中心とした構成となっています。性別は男性77%、女性23%で、雇用形態は無期雇用の正社員が約3分の1、残りは有期契約社員や業務委託が多くなっています。チームあたりのアナリスト人数は1~2名が一般的で、大きな人員不足感を示す回答は見られませんでした。チーム内での呼称は「アナリスト」にほぼ統一されている一方で、コーチ・マネージャーとの兼務でアナリストの役割を担うケースも見られました。

試合分析を軸に広がるアナリストの業務とその役割認識のギャップ
バレーボールアナリストの業務内容について、試合期およびオフシーズン期の二つのタイミングに分けて整理しました。その結果、試合前後の映像撮影やデータ入力、対戦相手分析、試合中のリアルタイム分析などは、9割以上のアナリストが毎回行う共通的業務として定着していることが明らかになりました。一方、分析結果のプレゼンテーションや、練習メニュー作成、動作分析、選手査定などは、6割程度が担う発展的業務と位置付けられています。また、シーズン前の強化方針策定やシーズン後のレビューについては、アナリストは自らの業務と捉える傾向が強い一方、GM側では必ずしもそう認識されておらず、役割認識に差が見られました。

アナリストに求められる中核スキルと比較的重要なスキル
また、バレーボールアナリストに求められる知識・スキルについても、GMおよびアナリスト双方の認識を整理した結果、データバレーなどの分析ソフトの操作スキル、戦略・戦術に関する競技知識、統計解析に関する知識は、両者ともに「とても重要」とする割合が80%を超える中核的スキルであることが明らかになりました。また、コミュニケーション能力やパフォーマンス評価に関する知識、IT全般の知識も比較的重要なスキルとして位置付けられています。一方で、GMはデータバレー以上の高度な映像編集スキルをより重視する傾向があるのに対し、アナリストはバイオメカニクス(動作分析)に関する知識・スキルをより重要と捉えており、両者の視点の違いも確認されました。

評価は姿勢重視、採用と役割定義には課題も
アナリストの評価については、GMの多くが「取り組み姿勢」を筆頭に「チームへの貢献度」「分析スタッフとしてのスキルの発揮度」「協調性」を重視していることが明らかになりました。一方で、アナリスト側では、自身のスキル発揮が十分に評価されていないと感じている回答も一定数見られ、評価軸に対する認識の差が確認されました。また、採用面では、職務記述書等を用意していないチームが過半数を占め、採用時に何を基準に評価すべきか分かりにくいというGM側の課題も浮き彫りになっています。紹介を通じた採用が多い一方で、アナリスト側からは「どのチームが募集しているか分からない」という声も多く、人材の流動性や透明性に課題がある状況といえます。

アナリストにとどまらない多様な志向と、キャリア形成の支援環境
キャリア形成の観点では、現役アナリストが将来的に就きたい役職・職業としては、「アナリスト」を継続したいとする回答が最も多い一方で、「チーフアナリスト(統括的)」や「コーチ(テクニカルコーチを含む)」、「監督」など、分析を基盤に指導・意思決定側へ関与したい志向も多く見られました。また、「教員」や「ゼネラルマネージャー」など、チーム内外で専門性を生かしたキャリアを志向する回答も一定数確認されました。一方で、GMは成長機会を提供していると認識しているのに対し、アナリスト側では十分とは感じていない傾向があり、キャリアの見通しや成長機会の可視化が課題となっています。アナリストを専門職として継続的に育成するためには、多様なキャリアパスを前提とした支援環境の整備も求められます。

今回の調査では、トップリーグバレーボールチームにおけるアナリストの実態に関して、GMとアナリストの両面からその現状と認識を知ることができ、JSAAとしても貴重な調査となりました。リーグと連携したことによりほぼ全チームのGMやアナリストから回答が得られ、非常に有意義なデータとなりました。JSAAでは今後も、調査対象や手法をさらに精査し、他競技でも継続的に調査を進めて参ります。調査によって得られた知見は、アナリストの育成や環境整備等に活用し、アスリート支援環境を発展させることで、スポーツの社会的価値向上に寄与していきます。
一般社団法人日本スポーツアナリスト協会 -「トップリーグバレーボールチームにおけるアナリストの実態調査」ダウンロードは以下より。
ダウンロード▶︎トップリーグバレーボールチームにおけるアナリストの実態調査
調査概要
- 調査時期: 2023年9月23日~2023年12月5日
- 調査対象: 調査時点でVリーグ(V1、V2、V3の男女計57チーム)に所属するチームのGM:ゼネラルマネージャー相当の役職者(アナリストの採用実務担当者)、およびアナリスト。
- 調査主体: 一般社団法人 日本スポーツアナリスト協会 調査・研究委員会 (本調査担当メンバー:下関 元、廣澤 聖士、藤原 稜、渡辺 啓太)
- 調査方法: Googleフォームによるオンラインアンケートを旧 日本バレーボールリーグ機構より対象チームへ配布。
- 回答数: 全57チーム中56チームのGM、35チームのアナリストグループからの代表回答(チーム内で1回答)、39名のアナリスト個人より回答。
日本スポーツアナリスト協会(JSAA)について
日本スポーツアナリスト協会は、競技の枠組みを超えたスポーツアナリストの連携強化及び促進を図る団体として、2014年6月に設立されました。スポーツアナリストの有する職能を理解し、育むことで、アスリート支援環境を発展させ、スポーツの社会的価値向上に寄与することを目的としています。ビッグデータの時代、スポーツ界にも必ず必要となる有能なアナリスト人材の確保・育成にも取り組み、またスポーツアナリストとしての職域拡大を目指します。
Website: http://jsaa.org X: @JSAAorg Facebook: @jsaa2014 お問合せ: http://jsaa.org/contact