2016年3月18日(金)、データスタジアム株式会社様のセミナールームにて、JSAA OPEN SEMINAR VOL.3を開催致しました。今回は「速報MIT SSAC!米国スポーツアナリティクスのトレンドを追う」と題して、3月11日、12日にボストンにて行われたMIT Sloan Sports Analytics Conferenceにてスポーツアナリティクスのトレンドを体感してきたメンバーが、終了1週間後というタイミングで最新情報を報告。
パネリストは、株式会社野村総合研究所の石井宏司氏、データスタジアム株式会社の金沢慧氏、そして日本スポーツアナリスト協会理事の森崎秀昭の3名。モデレーターは日本スポーツアナリスト協会の小倉大地雄が務めました。第3回目を迎えた今回もスポーツ業界のトレンドに敏感な80名ほどの方々が集まり、会場は熱気に包まれました。
今回のセミナーの模様を前編/後編の2回に分けてレポートします。 (文:西原雄一)
MIT Sloan Sports Analytics Conference(SSAC)とは?
日本初のスポーツアナリティクスカンファレンスとして2014年からスタートした『スポーツアナリティクスジャパン』。そのモデルとなったのが、マサチューセッツ工科大学スローンビジネススクールが主催する、「MIT Sloan Sports Analytics Conference(以下SSAC)」です。
SSACは2007年からスタートし、当初は175名だった参加者も10年目を迎える現在では3,500名の定員に対して、キャンセル待ちが出来るほどのマンモスイベントに成長しました。しかし、これまで日本国内ではその全容は詳しく紹介されていませんでした。そんなSSACに今年は日本スポーツアナリスト協会のメンバーも初めて参加しました。
最初に、モデレーターの小倉が、SSACがどのくらいの規模のイベントなのか、説明しました。
SSAC2016には参加者3,900名が32ヶ国から集まりました。参加者の属性としてスポーツ関連企業がおよそ300社、320以上の教育機関、130以上のチーム、リーグ、競技団体が参加する、アメリカのスポーツアナリティクス関連では最大規模のカンファレンスです。
SSAC2016のことは、SNSでも大きく取り上げられました。ハッシュタグ「#SSAC16」でのソーシャルメディアへの投稿数は15,000を超え、全米のTwitterのトレンド入りを果たしたほどです。また、ネイト・シルバーのセッションはFacebookにてライブストリーミング配信され、その閲覧数は53,000を超え、SSAC2016全体のソーシャルメディアでのインプレッション数は、6,000万を超えたそうです。SSACというイベントにどれだけ関心が高いのか、こんな数字からも分かります。
SSAC2016にはパートナーが3団体、スポンサーが24社協賛しています。期間中には32のパネルディスカッション、35のスライドセッション、8つの研究発表セッション、8つのワークショップが開催されました。
日本においてスポーツアナリティクスに関するイベントと聞くと、パフォーマンスに関するセッションばかり開催されているイメージが先行しますが、SSACでは、パフォーマンスに関するセッションだけでなく、マーケティング、マネジメント、メディアなど、多種多様なセッションが行われていました。
SSACで何が行われているのか?
続いて、日本スポーツアナリスト協会理事の森崎が、SSACというカンファレンスで何が行われていたのかを説明。
SSACの朝は、なんと7:30から始まります。会場に行くと、ベーグルとコーヒーが飲めるスペースがあり、関係者が朝から集まって交流を深めていました。SSACというカンファレンスに対する期待感が、参加者の行動からも伝わってきました。
セッション会場の外には、スポーツアナリティクスに関する分析結果をまとめた「Research Paper」が掲示されたり、スポーツアナリティクス関連企業のブースが多数出展されたり、今までのSSACの歴史を振り返るパネルが掲示されていたりしてどのエリアも賑わっていました。
SSACに出展していた企業は、世界各国から来ており、データのヴィジュアル化、コンディション管理、傷病予防、パフォーマンス分析、身体データ解析、トラッキングデータ分析、チケッティング、スケジュール管理などのスポーツとテクノロジーに関連する様々なシステムやサービスが展示されていました。中でもウェアラブル機器を提供している企業が多く、中には、デバイスを頭に装着して、脳に微弱電流で刺激を与え、中枢神経から筋肉の活動を促進するという機器を展示している企業もありました。この企業は、設立2ヶ月ほどのスタートアップながら既にベンチャーキャピタル等から9億円以上の資金調達を行い、陸上の男子。アメリカの最先端科学はここまで来たのかと衝撃を受ける製品だったことは間違いなく、リオデジャネイロ、平昌、そして東京ではこのようなテクノロジーを駆使したメダル争いが繰り広げられるのかもしれません。
そして、夜には「Cocktail Reception」という交流会の時間が設けられ、朝から晩まで、会場内の至るところで、セッションの登壇者やスポーツ関係者と気軽に交流を深めることが出来ます。
SSACというカンファレンスには、スポーツを進化させるためのアイディアや議論を深めるための工夫が、会場の至る所に仕掛けられていて、来場者を飽きさせないようしています。つまり、SSACとは「スポーツの未来を考え、議論する場所」でもあるのです。
SSACが発展した背景を読み解く
続いて、なぜ、SSACはこれほどまでに人々の注目を集めるカンファレンスへと成長したのか。SSACがどのように発展を遂げたのかという点について、ここ2年間連続でSSACに参加した株式会社野村総合研究所の石井宏司氏から説明がありました。
SSACがこれほどまでに注目を集めるカンファレンスへと成長した背景として、石井氏は「時代背景」「スポーツ産業とIT産業」「なぜMIT Sloanが?」という3つの観点から解説しています。まず、「マクロな時代背景」として、ブロードバンドやスマートフォンが普及し、世界的に若者のライフスタイルや価値観が変わってきたことが挙げられます。こうしたライフスタイルや価値観の変化に伴い、多くの人が集まってライブで体感するコンテンツに対するニーズが高まっています。したがって、ライブで体感するコンテンツとして、スポーツに注目が集まっているというわけです。
スポーツビジネスについては、こうした時代背景もあり、急速に成長を遂げてきました。しかし、米国国内ではスポーツ産業は成熟しつつあると石井氏は語ります。したがって、ヨーロッパも含めた海外展開を考えるリーグ、チームが増えつつあるというわけです。
また、IT企業は、スポーツとの結びつきを急速に強めています。SAPがサッカードイツ代表をサポートし、ワールドカップ優勝に貢献したことで、IT企業とスポーツチームとの取組は、一躍注目を集めるようになりました。マイクロソフトはレアル・マドリーと提携したり、2015年に開催されたラグビーワールドカップのITシステムを富士通がサポートしたりと、今まで結びつかなかった「ITとスポーツ」の結びつきが、強まっているのです。
そんな時代背景とスポーツ産業の実情を踏まえて、ビジネススクールであるMIT Sloanとしては、実効性が高く、かつ成長産業を見据えた取組を実践していることを、内外にアピールする必要がありました。そこで始まったのが、SSACというわけです。
SSACは2007年に第1回を開催しました。始まった当初はスポーツビジネスカンファレンスとして実施され、アナリティクスのセッションはあまり多くありませんでした。しかし、3回目の2009年からESPNの協賛が始まり、タイトルに「スポーツアナリティクス」という言葉が明記されるようになります。ここから、少しずつ現在の形式に近づいていきます。
SSACというカンファレンスは、石井氏によると「3つの機能」を持っているそうです。
1つ目は、「人材育成・交流」です。スポーツビジネスのナレッジの共有、学生にビジネス経験を積ませる、リクルーティング、そしてイノベーション機会の創出が出来る場として、SSACは機能しています。
2つ目は、「ビジネス促進」です。自社のビジネスのマーケティングの機会、ビジネスアイディアの獲得といった、スポーツビジネスを促進させる場として、SSACは機能しています。
3つ目は、「産業の変革促進」です。石井氏によると、SSACというカンファレンスは、他のカンファレンスとは違い、現状の問題に対する「答」を提示するのではなく、新たに問題を提起する「問」を作る場になっていると語ります。様々な立場の人達が、それぞれの意見を基に「問」を作りだし、スポーツを通じてどんな未来を創り出していくか、参加者全員で考える場所。それがSSACというカンファレンスが持っている機能なのです。
後編ではJSAA OPEN SEMINAR vol.3で語られた米国スポーツアナリティクスのトレンドをレポートします。