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2018.2.19

GAME CHANGERS

「GAME CHANGERS」 スプライザ編Vol.2 スポーツアナリティクスの裾野拡大へ 渡辺啓太がスプライザ・土井寛之氏と対談

渡辺啓太とスプライザ・スプライザ・土井寛之氏

日本における現存のスポーツ産業の仕組みを抜本的に変革する人や企業、サービスをゲームチェンジャーとして紹介していく新連載企画。第二回も株式会社スプライザの代表取締役・土井寛之氏に話を聞いています。

第一回はこちら

今回は日本スポーツアナリスト協会代表理事の渡辺啓太が聞き手となり、アマチュアスポーツ界のデータ活用状況や裾野拡大に必要なことを深堀り・議論しました。全日本女子バレーボールチーム情報戦略担当チーフアナリストとして最前線で活躍してきた渡辺と、データ活用の裾野を広げるために尽力されている土井さんの対談は、スポーツアナリティクス市場の「共創」を目指すJSAAにとってヒントとなる話が数多くありました。

アマチュアスポーツの現場で感じた「スポーツの価値」

渡辺啓太

渡辺 私はトップのカテゴリーを見ているので、チームや相手を分析する目的は「勝つこと」です。アンダーカテゴリーの場合、例えばバレーボールであれば「自分で紐解く力」「自ら考える力」を身につけさせるというような観点が必要になってくると思います。選手に考えさせるという意味では、映像を使ってコミュニケーションを促す「SPLYZA Teams」のようなアプリはすごく相性がいい。育成世代での活用が増えてきているのではないでしょうか?

 

土井 おっしゃるとおりです。子供たちとのコミュニケーションにおいてどれだけ的確な情報を与えたとしても、それが一方通行だとその10%ぐらいしか吸収できないというデータがあります。子供たちのモチベーションの差も影響しますよね。それはスポーツに限らない話で、学校の授業をイメージしてもらうと分かりやすい。授業を受けてもまったくできない子もいれば、すぐに理解して高得点を取ってしまう子がいる。そういう事実がありながら、指導の現場ではどうしても一方通行のコミュニケーションになりがちです。

「SPLYZA Teams」は学校の先生が編集や分析にかけられる時間が限られるという課題を聞いたので、生徒にも分析をやってもらうような作りにしました。すると渡辺さんがおっしゃたような効果が感じられました。スポーツで考えさせる場合、答えがないものを考えることになります。だから、問題集の後ろを見て答えを知ることもないし、答えを覚えておけばいいということでもない。

 

渡辺 求められる力が受験科目とは全然違うものですよね。

 

土井 答えのない問題を考えて改善していく力が身につきますし、しかもそれをチームでやる。これは社会に出たときにすごく必要な力になってきます。そうするとプロやトップアスリートになるごく一部の子供たちだけではなく、それ以外の子供たちが社会に出たときにもすごく価値がある経験がスポーツでできることになります。一方通行のコミュニケーションで終わってしまうと、そのチャンスの芽を摘んでしまうことになるんですよ。スポーツには素晴らしい価値がある。

「スマホで簡単にできるツール」が大前提

「SPLYZA Teams」の画面。PCでも使えるが、スマホが前提の設計となっている
「SPLYZA Teams」の画面。PCでも使えるが、スマホが前提の設計となっている

 

渡辺 私たちスポーツアナリストの目線で見ると、トップカテゴリーで使っているツールはなかなか育成年代やスポーツ愛好者に広がっていかないという課題があります。ツールの価格や使いこなすためには習熟が必要などいくつか高いハードルがあると思っているのですが、スプライザさんのツールはそのハードルが低い印象があります。低価格(「SPLYZA Teams」は月額4,800円~)ですし、スマホで使えるなど、アマチュアスポーツを対象にした設計になっているからこそできたことだと思います。

あとは作業を分担できるという発想がすごいと思いました。トップスポーツ用のものはアナリストとかコーチが使うものとして設計されている印象ですが、土井さんの発想は複数で作業を分担して、例えば分析に60分かかっていたものを、6人が10分ずつやればいいじゃないかみたいなアプローチですよね。その結果、作業を選手それぞれがやることで気付きや学びが増えるという副産物もあったと。それは私たちの中からは生まれなかった発想ですね。新しいテクノロジーの使い方というか、まったく違うアプローチがあるんだなと思いました。

 

土井 私たちはとにかく「スマホで簡単にできるツール」というのが大前提でした。トップで使われているようなツールも使ってみましたが、アマチュアスポーツを考えたとき、その機能はとてもじゃないけれど全部は入れられないと思いました。(トップのツールは)前提としているのがパソコンの大きな画面なので、それを「スマホ」で使うためにはかなり簡素化する必要もありましたからね。

 

渡辺 土井さんの中で、「映像を編集するアプリを作る」という考えはなかったんでしょうか。現在の映像にタグ付けをして、見たいところをすぐ頭出しして見られるようにするという「SPLYZA Teams」の機能は自然な発想からできたものでしたか?

 

土井 編集ツールを使っている方々に話を聞いたのですが、いくら情報の埋め込みが早いとしてもビデオファイルをいじると時間がかかる。それを聞いたので、ファイルにする必要はないだろうと。私も1度サッカーの試合で作業をやってみたのですが、スマホだとめちゃくちゃ大変で、すごく時間がかかるなと(笑)。だからいくらスマホにそういう機能を入れてもユーザーはやらないと思いました。当事者が作業するわけですし、そのスポーツを知らない人が操作するわけではないですから。そういう発想で、その機能はばっさり切りました。とにかくユーザーが「簡単だね」というところから使い始めて、どうしてもその機能が必要だということになれば、あとから追加すればいい話だと思っています。

スポーツアナリティクスの活用は新たな広がりを見せている

渡辺 トップカテゴリーでも選手に情報を伝え、うまく使ってもらう難しさを感じています。若い世代はより難しさを感じるのではないでしょうか。リテラシー教育にはどんな工夫が必要だと思いますか。

 

土井 上手く活用しているチームは、作業を選手がやるだけにとどまりません。分析結果を元に、選手からコーチ陣にプレゼンするやり方を採用しているチームがあります。まず、各プレーが「Good」なのか「Bad」なのかを選手同士が評価する。でも、チームには「どう戦うのか」という目的・目標があり、そこの認識がズレたりするので最初は評価基準に差が出てしまう。そこで選手からコーチにプレゼンをさせ、フィードバックを繰り返す。これを3~4カ月使うと、基準のすり合わせができるようになったそうです。

 

渡辺 それは面白いアプローチですね。現在は大学生や高校生がメインターゲットだと思いますが、どの年代まで使ってほしいという思いはありますか?

 

土井 最近は中学生年代でも少し使われ始めています。小学生はスマホを持っているのが親御さんなので、親御さんとコーチ陣でやりとりをしてもらっています。分析とまではいきませんけれど、タグ付けをしておいて振り返りをしやすくしておくイメージですね。

これはカテゴリーというか競技レベルの話になりますが、最近は問い合わせ内容が変化してきているんです。営業が1人だけなので、どうしてもスポーツで全国大会を目指しているような学校を中心にアプローチしていますが、中高でICT(情報通信技術)教育というのが広がっていて、決してスポーツの強豪校ではない学校からの問い合わせが増えています。学校としてタブレットやパソコンを導入し、インターネット環境を整えて授業をやっているのですが、スポーツや部活に関するアプリケーションがないということで相談を受けます。

 

渡辺 それは気になりますね。学校に入学する際にタブレット端末が配られるイメージでしょうか。

 

土井 入学するときに買うんです。そこには授業で使うアプリが入っていて、私たちのアプリも学校で使うタブレットに入れてもらって使う形になります。先日も(東京都の)広尾学園で講習会をやったのですが、中学の女子バスケットボール部と高校の女子バレーボール部に加えて筝曲(そうきょく)部が参加してくれました。筝曲部は琴の演奏を集団でやるということで映像確認のニーズがあり、参加してくれました。

「分析」に代わるキャッチーな言葉を

スプライザ代表取締役・土井寛之氏

渡辺 筝曲部の子たちは発想力がすごいですね。そうやってうまく使っている子たちがいる一方で、スポーツ界では「高校生の年代で分析を持ち込むな」というか、もっとピュアにスポーツをやらせたいという思いを持っている人がいます。テクノロジーを入れたがらない人たちというか、ネガティブ反応はありませんか。

 

土井 私は「分析」という言葉に問題があるのではないかと思っています。これが例えば「振り返り」ならどうでしょう。学校の勉強は復習をしないと絶対に身に付きませんよ。

 

渡辺 確かに。言葉は大事ですよね。

 

土井 スポーツで試合は「テスト」です。テストで100点ならいいですが、でも実際には間違えている部分がある。だったら改善するために間違えたところ、自分がミスしやすいところを意識して、そこを重点的に勉強した方が点数を伸ばすことにつながりやすい。これはスポーツに限らない話ですし、先生たちに話を聞いたら勝たせたいと言いますよね。振り返ることは成長のためにも必要なことですから。

「分析」という言葉は硬すぎると思います。営業に行っても「うちは『分析』なんて(できない)」みたいな反応をされます。けれど、皆が当たり前にやっている「振り返り」を合理的にやりましょうというだけの話ですからね。

 

渡辺 「分析」に代わるキャッチーな言葉を見つけたいですね。

 

土井 アナリティクスをそのまま翻訳してしまったために難しくなりましたね。一般の人に話すと少し拒絶反応があります。スポーツをやっている瞬間は感覚的に考えずにやらないといけないので、(分析と言われて)感覚的に難しく感じてしまう部分があるんだと思います。でもスポーツアナリティクスには絶対にスポーツの価値を上げる可能性があると思いますよ。

 

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)