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2018.3.13

コラム

【MIT SSACレポート】スポーツビジネスの幅の広さとあふれる活気
MIT Sloan Sports Analytics Conferenceとは?

Starting a Biz - Robbins-Carter-ARod-Silver-Steele - ESPN Images Andrew Geraghty
Starting a Biz – Robbins-Carter-ARod-Silver-Steele – ESPN Images Andrew Geraghty

2018年2月23、24日の両日、アメリカのボストンで世界最大規模のスポーツカンファレンス、MIT Sloan Sports Analytics Conference(MIT SSAC)が開かれた。スポーツ業界においてその重要性を増しているアナリティクスについて、幅広いスポーツ関係者がスピーカーを務め、パネルディスカッションやプレゼンテーションなどが行われた。このイベントから発せられる様々な議論や事例は、世界のスポーツ界の最新トレンドであり、日本のスポーツ界の未来を予測する上でも貴重な情報となる。日本スポーツアナリスト協会からは3年連続の参加となり、今回は渡辺啓太代表理事らがボストンを訪れた。12回目となった、マサチューセッツ工科大学(MIT)ビジネススクールの学生グループが主催するこのイベントをレポートする。

12年目で3500人以上が参加、オバマ前大統領が目玉

MIT SSAC が2007年に始めて開催された時は、MITのキャンパス内に会場が設けられ、参加者は175人だったという。年々規模を拡大し、主催者発表によると、12回目の今年の参加者は3500人を超え、一般参加なら885ドル(約9万4000円)と決して安くはないチケットは完売。約1割が海外からの参加者で、35カ国を数えた。

600を超える団体から参加し、受付で渡された出席者リストを見ると、NBA, NFL, MLB, NHL, MLSなどのリーグおよびチーム、また、大学(院)の学生の参加者が目立つ。その一方で、メディアやアナリティクスなどの関連ビジネス、そして日本との大きな違いは、金融や経営コンサルティング会社に所属する参加者も見受けられることだ。パネルディスカッションにも、スポーツ産業における投資や起業をトピックにしたものが複数あり、成長産業の一つと見られていることがわかる。

パネリストや発表者の顔ぶれも実に幅が広い。今回の最大の目玉は、バラク・オバマ前米大統領。バスケットボールやゴルフをプレーし、全米が盛り上がる大学男子バスケットボールのトーナメントでも予想的中率が非常に高いことが紹介されるなど、スポーツに詳しいことでも知られる。第一日の午後に行われたオバマ氏のセッションは、撮影やSNS投稿を一切禁止する異例の環境で行われた。しかし、スタンディングオベーションで迎えられる人気ぶりで、データの重要性や米国スポーツ界の課題などについて、時折ジョークを交えながら饒舌に語った。

その他には、経営層から、GM、指導者、元選手、現役選手に加え、研究者、ストレングスコーチやアスレチックトレーナー、競技周りやスポーツビジネスの現場の一線で活躍している人ばかりで、一つのテーマに沿って違う立場からの見方を交わした。

28社を獲得したスポンサーとの交渉、チケット販売、パネリストとの調整、当日の運営などはビジネススクールの学生グループ65名が行う。リーダーの一人、シーン・シンガー氏は「9か月間、準備に費やしてきた。努力とエネルギーを多く学ぶことになった」と言う。

8部屋で同時並行、ハッカソンや就職活動も

会場のボストン・コンベンション・アンド・エキシビション・センターは、日本で例えると東京国際フォーラムのような巨大なイベント施設だ。そのうちの2フロアを使用し、主に8つの部屋に分かれて、様々なイベントが同時並行的に行われる。

パネルディスカッションを行う部屋は3つあり、一番広いところは2000人以上を収容。この3部屋で、37のパネルディスカッションが行われた。数百人を超える参加者からの質問は、セッションタイトルのハッシュタグをつけてTwitterで集められる。メインスポンサーであるスポーツ専門メディアESPNのキャスターや他の媒体の記者らが務めるモデレーターは、それをiPadで見ておりスムーズに進む。

また、Competitive Advantageと名付けられた2部屋では、主に現場のアナリティクス担当者が自らの実績や経験談を発表したり、スポンサー企業の担当者がサービスを紹介するなどして、31のプレゼンテーションを実施。加えて、学術的な研究発表が行われる部屋、データ分析ソフトなどのワークショップを行う部屋、eスポーツなどのコンテストを行う部屋もひとつずつある。ハッカソン、スポーツビジネスのケース分析のコンペ、スタートアップ企業のプレゼンも行われた。学びを得る場であるのみならず、自社の商品やサービスを発表できる場でもあり、各種のコンペで実力をアピールする場にもなっている。

セッションは丸2日間、午前8時から午後6時までの10時間に渡って、次から次へと行われる。10分ほどの休憩時間に参加者は、行きかう人をかわしながら足早に移動する。

参加者の中には、スーツ姿で履歴書のケースを手にした学生の姿が目に付く。「ドリームジョブ」とも呼ばれるスポーツ業界への就職希望者にとっては、リーグ、チーム、関連ビジネス等の様々なキーパーソンが一堂に会し、直接話すこともできる非常に魅力的な空間だ。主催者もキャリア関係のセッションを設け、就職活動の場とも位置付けている。5年前にこのイベントで夢のチャンスをつかんだ学生が業界の一員として帰ってきたという話もあるという。

また、就職活動に限らず、参加者の交流を促すためのイベント専用SNSがあり、写真やコメントを投稿したり、名簿を検索してコンタクトを取ることもできる。ロビーのそこかしこで、ディスカッションや商談、交渉が行われていた。様々な交流によって新たな結びつきが生まれ、それがさらなるスポーツビジネスの拡大を呼び込んでいるように感じられる場だ。

スポーツ産業の現在地を反映、未来も議論

今年のテーマは、「Talk Data to Me – focus on communicating analytics-powered insights to drive impact on & off the field」。セッションでは、「フィールドの中でも、外でもデータに基づいて意思決定をすることが重要だ」「データを基にコミュニケーションを取り、同じ方向を向いていこう」などと異口同音に語られていた。

各競技において、戦術的なアナリティクスが語られるのはもちろんのこと、一歩進んで、ドラフトやチーム作りといった編成におけるアナリティクスに絞って語られるセッションもあった。ビジネス面のアナリティクスも半数ほどを占め、チケッティングやファンへのリーチなどに加え、起業や投資、オーナーシップなど「データを活用した経営とは何か」にまつわるものが多かったのは、スポーツ産業の現在地を反映している。

また、勢いのあるeスポーツについては、もはやスポーツの一つとして当たり前に取り上げられ、プレーヤーのアナリティクスとチームのオーナーシップをテーマにしたセッションがそれぞれあった。今、何が起きているのかを話すセッションだけでなく、「合法的ギャンブルがスポーツを変える」「スポーツにおけるOTT(Over The Top=動画・音声などのコンテンツ・サービス)の未来」「AIは答えなのか」など、未来を語るセッションも行われた。

こうしたセッション以外に、様々なコンペや企業の展示ブースもある多彩な内容で、一人ですべてをじっくり見ることは不可能だ。したがって、何を中心に据えるかによって、個々が得られるものに違いが出る。その得たものをディスカッションする人たちも熱を帯び、会場に活気を生んでいる。

(レポート:早川 忠宏)

 


2018年3月29日(木)に、当協会のオープンセミナーと、株式会社ユーフォリア様が主催するカンファレンス「丸の内スポーツラボ」が共同で、今回の参加者たちが登壇して報告会を開催します。各セッションの内容や現地で感じたトレンドなどを話しますので、ご興味のある方は是非ご参加下さい。申し込みはこちら