スポーツクラブや協会では、SNSを活用してファンとのコミュニケーションを深めることが重要だと言われています。しかし、実際にうまく活用し、ファンとのコミュニケーションを深め、新たなファンを獲得できている団体は多くありません。また、他の仕事で忙殺されてしまい十分な対応ができなかったり、担当者が孤軍奮闘している事例も少なくありません。
チームや団体はどのようにSNSに取り組んでいけばいいのか。リーグ開幕時からSNSに力を入れ、3シーズン目を迎えている「Bリーグ」からPRグループ・強化育成グループシニアマネージャーの増田匡彦氏とPRグループ広報の新出浩行氏を、倒産寸前の危機的状況から見事なV字回復を果たし、1月4日には関連ハッシュタグがTwitterトレンドで世界1位となった新日本プロレスリング株式会社からは広報宣伝部グローバル&デジタルメディアセクション課長の真下義之氏を迎え議論しました。モデレーターは株式会社博報堂DYメディアパートナーズ コンテンツマーケティング部 部長の森永真弓氏に務めていただきました。
講演の動画はNOTEで販売中です。
SNS活用のきっかけは?
まずはそもそも両団体がSNSに力を入れ始めたきっかけについて。真下氏は2012年に新日本プロレスの親会社が株式会社ブシロードとなった影響が大きいといいます。会見で木谷高明オーナーが全選手にSNSアカウントを持たせることを宣言したため、そこからSNSの活用が本格化。プロレスラー特有の各選手が持つ独特の“世界観”をアピールし、社内でもSNSが告知媒体として認知されるようになっていったそうです。
Bリーグは開幕した2016年当時から既にSNSが普及しており、TVなどのマスメディアではなかなかバスケットボールが取り上げられる機会が少ないことから「自分たちでメディアになるしかない」という思いでリーグ設立当初から力を入れていく体制を整えていました。企業を母体するチームはSNSを「リスク」と捉える傾向が強かったため、各クラブの意識を変えるのに苦労したといいます。
毎日投稿するために、どういう構造で運用している?
SNSの運用で大変なのが日々投稿するネタをどう生み出していくか。新日本では当初部署ごとにアカウントを運用する案もありましたが、「公式情報」「チケット情報」「海外向け」「新日本プロレスワールド(動画サイト)」に絞ったそうです。その分、選手の投稿をリツイートしたり、SNS上で絡むことを意識的に行っています。元々プロレスラーは自己プロデュースが基本なので発信するネタは選手が努力しており、魅せ方にも長けています。それらを活用することで選手のアカウントと新日本プロレス公式のアカウントをフォローすれば、毎日SNS上で「新日本プロレスに関する何かが起こっている」という世界観が培われていったそうです。
Bリーグも運用するアカウントはTwitterやFacebookなど各プラットフォームで1つだけ。選手個人や各クラブ、日本バスケットボール協会(JBA)や国際バスケットボール連盟(FIBA)など関連する複数のアカウントと絡むことを意識しています。
両団体とも、自分たちで発信するだけではなく、ファンを含め関わる人たちをどれだけ巻き込めるか。情報発信者が自分たちでなくても、取りまく人たちがいい投稿をしてくれれば結果として業界が盛り上がるという考えがありました。
SNSの投稿を増やすしかけ
関わる人たちの投稿を増やすため、Bリーグでは試合会場での写真撮影と動画撮影を推奨しています。メディアに対してもテレビ用の動画を短くしてSNSにアップしてもらったり、プレス向けの報道資料にその日使ってほしいハッシュタグを指定する取り組みなども行っています。新日本プロレスは権利の問題で会場での動画撮影は禁止されていますが、開場前のアナウンスで写真の投稿を積極的に促しています。
さらにBリーグは全クラブに対して月に1回SNSに関するレポートを送付。他クラブの取り組みを紹介したり、SNSフォロワー数と有料入場者数の相関関係を示すデータを掲載するなど、各クラブがよりポジティブにSNSに取り組めるような環境を整えています。
どういう人がSNS運用に向いている?
講演の最後は自身の代わりにSNS担当を任せるならどんな人がいいか、またどんな人がSNS担当に向いているのかを語って終了。真下氏は自身の経験から「編集者の経験がある人」を挙げ、ツイートする以外でも他の投稿を“拾う感覚”があることが大事とコメント。増田氏は「毎年同じ企画をやるのではなくてぶっ飛んだ企画を持ってくる人。SNS上でどうやってバズらせるかを考えられる、炎上するギリギリを攻められるような心臓の強い人がほしい」と語り、新出氏は「SNSもメディアの1つにすぎないので、マスメディアなども含め俯瞰的に見て他のメディアとどう絡めていくかを考えられる人がほしい」と語りました。
講演のグラフィックレコーディング
(レポート:豊田真大/スポーツナビ)