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2019.3.6

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【SAJ2019レポート】日本サッカーにおけるアナリストの「これから」を考える

日本代表やJクラブなどのプロ、大学高校などのアマチュアを問わず、近年、日本のサッカーの現場では、アナリストの存在価値が高まりをみせています。また、世界のサッカーは日々進化を遂げており、アナリストもまた時代の流れに合わせた進化が求められています。

SAJ2019では、Jリーグのフットボール本部で育成・強化部に所属する髙野剛氏、日本サッカー協会で日本代表コーチと東京2020オリンピック日本代表コーチを兼任する和田一郎氏、そして、モデレーターにデータスタジアム株式会社フットボール事業部アナリストの久永啓氏を迎え、日本サッカー界におけるアナリストのこれからについて語りました。

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時代と共に変化するアナリストの役割

時代と共に変化するアナリストの役割を説明するモデレーターの久永氏

冒頭、久永氏はサッカーもテクノロジーの発展やデータの活用など時代とともに競技のルールが変化しており、アナリストの役割も以前のように、次の対戦相手の試合をスタジアムに観に行くことだけではなく、チームに帯同し、リアルタイムでアドバイスを提供する役割にシフトしていることを説明。このリアルタイムの情報が「ピッチ上の判断に重要な影響を与えるもの」と捉え、試合結果をも左右すると情報の価値を語りました。

和田氏は、スタッフとして帯同した2018年のロシアワールドカップについて言及し、FIFAのルール改正により、スタンドとベンチのスタッフ間でのインカム通信や、コメント付き静止画のやり取りが許可されていたという事例を紹介しました。これにより、日本代表のグループステージ突破が懸かった第3戦のポーランド戦は、刻々と変化する状況の中、分刻みに情報が飛び交う非常に厳しい試合になったといいます。

サッカー日本代表のデータ分析

ロシアワールドカップにも帯同した和田氏(中央)がサッカー日本代表のデータ分析を説明

和田氏は、スポーツアナリストに求められる素養の中で「軸」という視点について、2010年南アフリカワールドカップを戦った岡田ジャパンの事例を紹介しました。

和田氏は人の目による検証が必要であり、それは今後も変わらないと強調

当時の岡田ジャパンでは、ヨーロッパのトップチームやサッカー協会等を参考に、キーワードである「走り勝つ」を実現するため、ワールドカップ予選突破後のオランダとの親善試合(2009年9月)から、データトラッキング技術を導入したそうです。当時は、ピッチの中の動き全てがデータで表現され、入手した膨大なデータを専門家に依頼して分析、アドバイスをもらうという方法を取っていました。

そして、データ分析の際に重要なことは数字の本質をつかむこと、質の高いデータを取れるかは、人の目による検証が必要であり、それは今後も変わらないと強調します。

ヨーロッパにおけるデータの活用とアナリストに求められる能力

国際経験が豊富な髙野氏はヨーロッパでアナリストに求められる能力を解説

続いて髙野氏は、ヨーロッパにおけるデータの活用とアナリストに求められる能力について語りました。髙野氏がコーチングスタッフを務めたイングランド・プレミアリーグのサウサンプトンFCでは、試合を見て感じたことの答え合わせのためにデータが活用されていたそうです。見た目ではハードワークをしていない印象の選手が、データを見ると実はチームトップ3の走行距離を記録し、チームに大きく貢献していた例を紹介してデータは人の目に見えないものを示してくれる大事な要素であると語ります。

ヨーロッパでは、データは経営判断においても重要な意味を持っているそうです。肌感覚を重視した判断を下し、その検証を行う目的でデータを用いる指導者と、選手の価値を見るためにデータを用いる経営者の間に立ち、データに基づいて証明する力がスポーツアナリストには必要であるとの見解を示しました。

スポーツアナリスト育成の環境作り

途中から登壇した小井土氏。多くのアナリストを輩出する筑波大学の環境を語った

久永氏は、スポーツアナリストの「これから」を考える視点として、現在、高校サッカーにおいてもデータ班が組織されたり、SNS上の集合知により試合のデータ分析が行われている事例を紹介しつつ、個人だけではなくグループでも分析が行われるようになっているといいます。また、アナリストになるルートについては、現在、J1全18クラブ中16クラブにアナリストが在籍しており、うち11名が筑波大学出身であることに触れ、何か秘密があるのではないかと問いかけました。

そして筑波大学蹴球部の小井土正亮監督が登壇。小井土氏は、「野心と目的意識を持ち、情熱ある仲間たちと切磋琢磨(せっさたくま)し、監督の厳しい基準に試される環境が筑波大学にはある」と語りました。

久永氏の所属するデータスタジアム株式会社でも、意図的にそのような環境を作り、アナリスト育成講座などを実施しています。今後は、体系的なスキルの獲得や、キャリアのルート整備など、アナリストになる前のことからなった後まで、ステップアップや互いに高め合う場を整えていかないといけないと語ります。

一方、UEFAではより「リーダーの育成」に主眼が置かれていると、髙野氏は言います。その根底には、プロライセンス保持者は世界を先駆していく存在でないといけないという考えがあるそうです。また、重要なのは、過去の経験を使って議論を発展させる力であり、現場に入れば、経験を積みながら、周囲のコーチングスタッフと議論しつつ学び、アナリストとして成長していくというのがプロとしての環境であると述べています。

今後のスポーツアナリストの発展に向けて

スポーツアナリストの発展に向けてのポイントは「グループとしてどう高めていくか」

最後のまとめとして、久永氏は各個人で学んできたアナリストを、未来を拓くためのグループとしてどう高めていくかが大事であると語りました。髙野氏からは、世界を追い越していくために自身の経験を活用してほしいとのコメントがありました。小井土氏は、筑波大学の刺激的な環境に言及し、皆で育てていくのが大切であり、環境を作るのが大人の仕事であると述べました。

和田氏は、自身が初めてヨーロッパに分析に行った際にスタッフに言われた今後のコーチやアナリストに不可欠な3要素、(1)サッカーの専門知識(2)コンピュータリテラシー(3)語学について説明し、外国人枠が撤廃され、よりコミュニケーションの重要性が増した当時のヨーロッパの状況が、今後日本でも起こりうると予測します。

そして、先を見通す重要性を強調し、自分にしかできないこと、アナリストにしかできないような力を集結させていってほしいと述べました。最後に、日本人の「分析の緻密さ」という強みを活かすべく、初めて分析スタッフ3名体制で臨んだロシアワールドカップの例に言及しつつ、しっかりと皆で準備し、スポーツ界を盛り上げたいといい、自身も少しでも貢献したいという力強いコメントでセッションを締めくくりました。