JSAAではスポーツアナリストの育成を目的とした学生コンペティションを例年開催しています。本セッションではJSAAの事業推進ディレクター(育成担当)を務める株式会社Jリーグデジタルのデジタル戦略担当オフィサー濱本秋紀氏をモデレーターに迎え、2018年11月に行われた「JSAA Analytics Challenge Cup(通称:アナチャレ)2018~スポーツビジネス分析官コンペティション~」で発表されたデータ分析結果や施策提言アイデアを紹介。
その後、デジタルマーケティング業界で活躍されている株式会社シンクロ代表取締役社長の西井敏恭氏、株式会社Jリーグデジタル コミュニケーション戦略部 部長の杉本渉氏、横浜マリノス株式会社 マーケティング本部 FRM事業部 部長の永井紘氏とともに、Jリーグの事例を紹介しながら,データ分析でスポーツファンを増やすための実践的な方法について議論しました。
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アナチャレの活動をご紹介
まずはアナチャレについて。今回で4回目を迎えたアナチャレは横浜F・マリノスの協力を得て、データ分析と現地フィールドワークからJリーグの集客施策の提案を行っていただきました。過去最多となる50チーム弱から応募があり、ユニフォームの購買に着目したファンの離脱率を下げる施策や、ファン同士のつながりを作るためのマッチングアプリなどが提案されました。
当日の審査員を務めた永井氏は自身の仮説と「異なるデータが得られた」と語るなど、学生たちのプレゼンは現場の方々にもヒントとなるような内容であったことをご紹介いただきました。
マーケティングにおけるJリーグのデータ活用の現状は?
続いてはJリーグのデータ活用状況についてマリノスの事例を永井氏が説明。マリノスではデータベースを持っていなかったため、2012年からプロ野球、パ・リーグの事例を参考にデータベースを整備したそうです。ファンクラブやチケット購入など顧客のIDを統一した結果、その人が何回スタジアムに来場しているか、ECサイトで何を購入しているのかなど、データを活用してユーザーを“可視化”できるようになりました。
杉本氏はJリーグが村井満チェアマンの就任した2014年以降、デジタル分野に積極的に投資していることを説明。2016年以降はJリーグIDを中心にチケット購入、オンラインストアの購買履歴、アプリ、スタジアムのwifi接続を活用してユーザーの動向を分析できる環境が整ってきているそうです。
データ活用で分かること、できる施策
では、得られたデータをどう活用するべきなのか。西井氏は自身の取り組む野菜宅配サービス「Oisix(オイシックス)」の事例を紹介。マーケティングでは「新規のファンが足りない」「リピート率が低い」といった大枠の話をしがちですが、実は1回来たユーザーが2回目に来るタイミングの離脱率が最も高いこと、そしてサービスを3回利用するとほぼファンとして定着するという事例を説明しました。
スポーツでも同様の傾向があり、永井氏は来場者の満足度を調査すると、初回から90%以上となるなどかなり高い数値が出るものの、そこでアプローチできないとなかなか次の来場につながらない状況があることを明かし、データが取れるようになったことでユーザーに対して2回目、3回目の来場を促す施策を個別に打てるようになったことをポイントに挙げました。
Jリーグでは、新規顧客を増やすための施策や、2回目の来場を促す施策など、細分化されたターゲットに対して、各クラブやリーグで試行錯誤を繰り返しているフェーズに入っています。
まさに「Innovation in Action」
最後に杉本氏、永井氏、西井氏がそれぞれリーグ、クラブ、デジタルマーケティングのプロと異なる立場から「データ分析でファンを増やす秘訣」を総括。杉本氏は「この分野はまさにSAJ2019のテーマである『Innovation in Action』。さまざまな解決策を走りながら考えている状況です。秘訣はこれ、とはっきりと言えないけれど、一歩一歩解決している状況なので、そういう目線で楽しんでほしい」と語り、永井氏も「秘訣があれば教えてほしいぐらい試行錯誤し、データを活用してPDCAサイクルを高速で回している。ミスを恐れずいろいろとチャレンジしていきたい」とコメント。
西井氏はデータ分析ができる環境が整ってきた次の段階として、「あのサイドバックは足が速い」「パス精度が高い」など、「魅力を適切に伝えるコンテンツをしっかりと作っていくとファンが増えていくと思う」と見解を述べ講演を締めました。
講演のグラフィックレコーディング
(レポート:豊田真大/スポーツナビ)