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2019.5.16

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【SAJ2019レポート】超一流のアスリートが求める「目的」視点のデータ分析

いかに大量のデータを活用し、高度なテクノロジーを用いた解析システムで分析をおこなっても、その内容がチームやアスリートが求める目的に沿ったものでなければ、それはアナリストや技術者の自己満足で終わってしまいます。

このセッションでは、アジア人で唯一、インディ500マイルレースの優勝経験をもつドライバーの佐藤琢磨選手をゲストに迎え、アビームコンサルティング株式会社からP&T Digitalビジネスユニット Sports & Entertainmentセクター 執行役員プリンシパルの久保田圭一氏、レースを担当するP&T Digitalビジネスユニットダイレクターの竹井昭人氏らのチームが登壇しました。日本発の総合コンサルティングファームである同社は、レースではフォーミュラカーを対象としており、インディカー、FIA-F4、スーパーフォーミュラと3つのカテゴリーに参加。独自に開発したシステムを駆使して大量のデータを瞬時に分析して提示し、チームの戦略的な判断を助けています。インディカーでは、佐藤氏の所属するチームをサポートし、この日は、ドライバーとともにいかにパフォーマンスを上げるかの取り組みを紹介しました。

講演の動画はNOTEで販売中です。

アビームコンサルティングの久保田氏

科学の世界とスポーツの世界の融合

佐藤氏は「科学の世界とスポーツの世界の融合がモータースポーツの特徴」と説明

高度な道具を使うレースにおいて、データは非常に重要であり、竹井氏らは2つの大きな特徴を紹介しました。ひとつはデータの量が非常に多いこと。インディカーでは100を超えるIoTのセンサーがあり、タイヤの内圧や車高などの車の状態や路面温度や風向など外的な環境まで細かいデータを取っています。もうひとつは、レースウィークは、準備を含めてスケジュールが非常に大変であることです。決勝の日曜日に向けて、金曜から練習に入ります。ドライバーも、技術的なミーティングが多くある中、加えてスポンサー対応やサイン会などファンとの交流も大事な仕事です。事前にミーティングを行った上で走る前の調整、走った後の調整をしますが、限られた時間を有効に使わなければならないため、短時間で使える必要があります。

佐藤氏は、ここでモータースポーツとは何かの説明を付け加えました。体重の6倍もの遠心力に耐え、1回のレースは2時間弱続くなど、フィジカル的に非常にきついこと。そして、アスリートである一方で、自動車レースは道具が占める割合が非常に大きいこと。高度な技術を使っている分、データが非常に大事になりますが、特にインディカーは全員がほぼ同じスペックを使用して、パフォーマンスが拮抗しているため、1万分の1秒単位まで細かくデータを取ります。データや分析によって方向性が変わってくるため、その作業スピードも重要で、佐藤氏は、「科学の世界とスポーツの世界の融合がモータースポーツの特徴」と話しました。

More Visible More Accessible

竹井氏が「Athlete Oriented Technology」と話してセッションを締めくくった

竹井氏は、「データ分析は手段であり、目的ではない。いかにアスリートに分かりやすく伝えるか」と強調、それを「More Visible More Accessible」と表現しました。この後、実際に使っているシステムの画像を披露してくれました。車から上がってくるデータを短時間で分かりやすくドライバーに伝えることに重点を置き、数字の羅列ではなく、図やグラフで非常に見やすく、しかも一覧できるようになっています。「ドライバーとしては、数字を追うのは区間ごとのラップタイムで、数字を追っても分からない部分で一番見るのはグラフ、さらに分かりやすくしたのがビジュアル」と佐藤氏は説明しました。

また、カーブを最速で走ったドライバーと佐藤氏の比較を、映像で行うことができるビデオアナリシスも紹介。ラップタイムを稼ぐのに、距離で行くか、スピードで行くかを判断するために使われるそうです。日本のレースではドライバーらからの質問をチャットボットが自動で答えるシステムも導入しています。「前は誰?」「山本のペースは?」などの質問に対して、このままだとこうなるという点も含めて教えてくれます。同じ内容を英語でも答えてくれます。佐藤氏は、数秒単位の判断が求められるが、計算ミス、取りこぼしなしで行われることを話しました。

竹井氏は、アナリティクスの変遷として、これまでデータをいかに集めるか、いっぱい集めるかの時代、いかに分析するかの時代があったと見ており、今後は「いかに早く見せるか、いかに分かりやすく見せるかの勝負になる」と語りました。そのため、同社はロボットが自動でアニメーションを作るシステム、音声回答システムなど複数の特許も取得し、活用しています。竹井氏は、「アナリスト思考ではなく、アスリートに使ってもらってナンボ。言うなれば、Athlete Oriented Technology。それがパフォーマンスを上げることにつながる」と話して、締めくくりました。

(レポート:早川忠宏)