21世紀に入り早20年。この間、音楽を視聴するためのプラットフォームは多様化してきました。「CDやDVDで視聴する」のが主流だった時代から、YouTubeやApple Music、Spotifyなど「オンラインで視聴する」のが主流の時代へと変遷し、CD売上チャートが持つ意味合いも大きく変化しています。
このセッションでは、株式会社阪神コンテンツリンク ビルボード事業部 部長である礒崎誠二氏、日本スポーツアナリスト協会 代表理事である渡辺啓太氏、モデレーターとして音楽ジャーナリストである柴那典氏が登壇しました。
多様化する音楽消費行動を複雑なデータを紐解くことで、より現実に即したヒットチャートを世に提供する『ビルボードジャパン』の取り組みから、スポーツ業界の次なる10年へのヒントを模索するセッションとなりました。
音楽とスポーツ
「音楽とスポーツ、どんな話になるのかな」と渡辺氏は期待を述べて、セッションがスタートしました。全日本女子バレーボールチームのアナリストとして活動していた渡辺氏は、自らの経験からラリーポイント制への移行によってデータ尺度の見直しが必要であったと述べ、音楽業界についても同様に、状況に合わせた複雑な評価が必要なのではないか。と語ります。
柴氏は音楽とスポーツの共通点として「ライブエンタテイメント」を挙げ、共通する課題として魅力がなければいけない。ファンをどうやって増やしていくか。と自身の見解を述べました。
総合ソングチャートJAPAN HOT100とゲームチェンジャー
磯崎氏からは、2008年にCDとラジオの2つの指標からスタートし、現在はDLやMV、STRMなど、8つの指標で算出される総合音楽チャートの説明がされました。そして、この2つの指標が8つに増加したことに関連して、2010年代のゲームチェンジャーたちについて話が続きました。
まず、例に挙げたのはCDセールスを極限まで押し上げた存在として『AKB48』。これに対して、柴氏は、「AKBまではCDを複数枚買う文化はなかった」と補足しました。次に、共有されるビデオストリーミングをセールスのトリガーとした『三代目 J SOUL BROTHERS』、ダウンロード発のヒットを加速させた『米津玄師』、ストリーミング発のヒットメーカーの誕生として『あいみょん』と指標に即した例を挙げていきました。ヒットという観点から、それに計測する指標が次々と変化している。ゲームチェンジャ―の例を通じて、磯崎氏と芝氏は音楽業界の10年間のヒットの変遷を様々な指標を根拠として説明しました。またストリーミングの普及により、1曲でお金を稼ぐことが可能となり、ビジネスモデルが大きく変化していると述べました。
渡辺氏はこの話を受け、音楽業界のおけるヒットはスポーツ業界では勝ち方、戦い方とイコールではないかと語り、その例として試合を挙げ、試合自体に観客が入っても、その試合数が少ないこともある。と述べました。
10年後に向けて
渡辺氏から、スポーツ業界では、新しい“指標”自体が複雑なものだと、浸透させることが難しいという課題がある中、複雑な総合音楽チャートをどうのように浸透させたのか。という質問が投げかけられました。
これに対して、磯崎氏は変化の激しいCD売上のチャート(オリコン)に疑問を持っていたメディアの理解を得たところからスタートした。理解や浸透には、「なるほど」と感じてもらえる部分が必要であると述べました。また、顧客からもチャートの裏側を知りたい。というニーズがあったことも影響しているのではないか。と補足。柴氏は、話題に裏付けがないと納得が得られない。ビルボートはその裏付けを算出した。と説明しました。
10年間で大きく変化を遂げた音楽業界の例を受け、正に激動の中にあるスポーツ業界の10年後、2030年が今から楽しみになるセッションでした。
(レポート:山田遼)