10月15日、味の素ナショナルトレーニングセンターで行われた5回目の勉強会では、現役アナリストを中心とした37名の方々にご参加頂きました。今までテーマにしていなかったラグビー、サッカーという「フィールド系競技」に焦点を当て、ラグビー日本代表分析担当としてご活躍中の中島正太氏、そして、サッカーのアナリストのパイオニア的存在である森本美行氏にご講演頂きました。
講演テーマ:伝える力 〜5W should be important like 1H〜
「伝える力」がなぜ必要か。
自分はちゃんと伝えているようで他人に伝わっていない、ということはよくあることです。膨大な情報やデータを扱うアナリストは、この罠に陥りやすい状況にあります。どんなに良い分析結果が出ても、選手やコーチのアクションに繋がらなければ、全て意味を成さないことになります。アナリストにとって、「伝える力」は生命線と言えるかもしれません。
今回、長年スポーツデータの収集、加工、分析の事業化と、自らプロサッカーチームのアナリストとしても第一線を歩んできた森本氏より、ご自身の経験も踏まえ、「伝える力」について紐解いて頂きました。
「伝える力」のKey factors
伝える力をつけるために必要なKey factorsとして、以下の5項目を挙げ、一つ一つをしっかり考えていくことの重要性をスポーツシーンと一緒にご説明頂きました。
・Why(何のために)
・What(何を=情報)
・When(スピード/タイミング)
・Where(どこで)
・Who(誰に)
Why(何のために)
『己を知り、相手を知れば、百戦して危うからず(孫子)』という言葉があります。分析は己と相手を「知る」手段でもあります。継続的に強いチーム(個人)にするには、常に自身の現状を知り、自らの改善のための計画を立て、さらに対戦相手の分析い、対策を立てて試合に臨むことをルーティン化することが求められるとのことです。
Why(何のために)
テクノロジーの発展に伴い、今や手に入るデータ量は膨大なものとなりました。森本氏が例に挙げたサッカーの分析では1試合では平均2,000〜2,500以上のプレーデータがあるとのことでした。それらのデータを、目的に合わせて組み合わせると、情報は無限大に拡がっていくそうです。
森本氏は、今まで出会ってきた指導者の中で、分析にとても熱心な指導者の陥りやすい傾向として、自分の準備した詳細かつ多くの情報を選手たちに丁寧に伝えたくなってしまいがちだといいます。指導者がメモを見ながら話すほどの量の情報で、選手がメモしきれないほど多くの情報を、どうやったらピッチレベルで実践出来るのか想像する必要があります。伝えるべき情報の優先順位をつけて、選手がその情報を元にアクションを起こしやすい情報を提供する必要があります。そのために十分検討しながら、時には事前に膨大な時間をかけて用意した情報を勇気を持って「捨てる」ことも必要になるのです。
When(スピード/タイミング)
情報には鮮度があります。対戦チームに新く入ってきた選手、新しい監督の下での戦術についての情報はとても対策を取る上でとても参考になりますが、それ以前のシーズンの情報は時として無駄なものとなってしまいかねません。
また、情報を伝えるタイミングもとても重要だと言います。試合直後の疲れた状態で、長い話を聞きたい選手はなかなかいないでしょう。情報を伝えるタイミングを試合日程や現状の順位、選手の疲労度、メンタル等の状態などを考慮する必要があります。
Where(どこで)
情報を伝える場所については、普段あまり意識しないことかもしれません。しかし、伝えたい情報の重要度やチームの置かれている状況、選手の状態を考えて、場所を選ぶことによって伝わり方の効果を引き出すことができると言います。例えば、チームの連敗が続き雰囲気が良くない時は、あえて青空の下で気分転換を兼ねてミーティングをしたり、リーグ優勝目前で緊張感を持ってもらいたいときは、立派なホテルの会議室を借りるなど、環境をうまく使うことも重要だとのことです。
Who(誰に)
「Know howも大事だが、Know whoも重要だ」と森本氏は述べています。伝えたい人の性格や立場、置かれている状態によって、同じ情報だとしても言い方や表現も変える必要があるといいます。
この後、森本氏が現在関わっているチームの事例について、情報収集から伝えるまでのプロセス(図)とKey factorsの5項目とを照らし合わせながらご紹介頂きました。扱っているデータもとても膨大でしたが、それをどのように分析し、選手とコーチに伝えているのかとてもわかりやすいご説明を頂きました。
最後に、分析について「残念ながら、試合に勝つための万能薬も、魔法の薬も存在しない。最も重要な事は相手を恐れないで自分の力を発揮する事で、そのためには、自分と相手の能力をよく知っておくことがとても大事」とのお話で締めくくられました。
今回の勉強会では最多の参加人数となり、質疑も活発に行われました。スポーツ現場でのコミュニケーション方法や、データ分析結果の解釈の仕方、どこまで情報を伝えれば良いのか?といった質問も出て、日々悪戦苦闘を繰り返しながらも、パフォーマンス向上のために現場に携わっているアナリストの方々のお悩みやご意見を伺うことができました。今後もこのような会を重ねながら、より多くのスポーツで必要とされるアナリストについて共に考えていけたらと願っております。
次回について、2014年12月21日に『SAJ2014 -スポーツアナリティクスジャパン2014-』と題し、日本初となる”スポーツアナリティクス”のカンファレンスを主催致します。開催概要及び参加申込みは日本スポーツアナリスト協会の公式HPをご参照下さい!