近年、トップスポーツの強化・育成の現場ではテクノロジーの導入が加速しています。しかし、メンタルデータの取得と可視化、その利活用は難しいとされてきました。このセッションではファジアーノ岡山とSPORTS TECH TOKYOがメンタルトレーナー伴元裕氏と協働し、フィンランド発のスタートアップ「Omegawave」のデバイスを活用した実証実験を紹介。伴氏と岡山のフィジカルコーチ・奥村拓真氏を迎え、モデレーターの白石幸平氏が、実験で得られた知見を共有し、データによるメンタルトレーニング革命の可能性を探りました。
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メンタルトレーニングの課題とは?
まずは伴氏がメンタルトレーニングとは、「認知や行動を強化することで、望ましい心身の状態を再現し、実力発揮を促す科学的な心のプロセス」のこと、と定義を説明しました。そしてメンタルを鍛える際の課題として、「心身のコンディションを可視化しにくく、選手の主観や感覚に委ねるしかなかった」ことを挙げました。
スポーツの現場に携わる奥村氏からすると、メンタルの重要性は認識しているものの、具体的な改善のアドバイスができず、選手自身のパーソナリティーに委ねてしまう部分が多かったといいます。
今回の実験では「Omegawave」を用いて心身のコンディションの可視化に取り組みました。「Omegawave」を使うと、脳波の状態や交感神経と副交感神経のバランスなどを計測することができます。
実証実験の内容
今回のプロジェクトは、「コンスタントに実力発揮できるようにすることを目的に、集中力の向上と緊張水準のコントロールを主観と客観の双方から可視化し、選手自身がそれを再現できるようにすること」をゴールに設定したそうです。
ファジアーノ岡山ユースチームの選手たちを対象に、毎日「Omegawave」で数値を測定し、「瞑想」や「ベストパフォーマンス分析」「振り返りと言語化」「WOOP(目的、目標、フォーカス、阻害要因と対策の整理)」に約半年間取り組みました。
波形が安定するとプレーも・・・
トレーニングの結果、どのような成果が得られたのか。ある選手の脳波を見ると、トレーニング開始時は乱れがちで波形がまったく安定しなかったものの、トレーニング終盤にはかなり安定していたそうです。その過程を振り返ると、序盤はトレーニング内容に半信半疑だったため改善が見られませんでしたが、コツをつかんでからはどんどん数値が安定していきました。
奥村氏によると、この選手は数値が改善した頃からパフォーマンスも上がり、「Omegawave」を用いたトレーニングの重要性を口にするようになったといいます。監督やコーチの感想を聞いても、ポジティブな反応が得られました。
メンタルの強さを測ることは可能な時代に
今回の実験の結果、メンタルを可視化し、トレーニングによる成果をあげることができました。伴氏は、これまであまり特徴がないとされていた選手が「Omegawave」で高い数値を記録し、「心の特長を形で示し、認識させてあげることができた」点をポイントに挙げました。
奥村氏は「メンタルの整った状況、立ち返るべき場所を知ることの重要性を学んだ」とコメント。伴氏は「何に意識を向けていくべきか。そこにはまだまだ人が介入して整理していかなければいけない。テクノロジーが“見える化”したものをよりよくするためには人の手が必要」と総括しました。
足の速さや力の強さのように、メンタルの強さも測ることができる。そんな時代の到来を感じさせるセッションでした。
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