2015年2月26日(木)18時より日本大学三崎町キャンパスにて、JSAAオープンセミナーvol.1が開催された。生憎の雨の中、教室いっぱいに集まったのは総勢90名。バックグラウンドは多種多様ながら、今回テーマとなった「バスケットボールにおけるIT×データの今と未来」に興味関心を持った感度の高い参加者によって、教室は熱気に包まれていた。
第1回目となった今回のセミナーでは前半に講義形式の情報提供、後半にはパネルディスカッションが行われた。前編/後編の2回に分けてレポートする。
斎藤千尋氏「NBAにおけるIT×データ活用の最新事例」
まず登壇したのはNBA.com日本版にも寄稿されているバスケットボールライター斎藤千尋氏。NBAのスタッツに関する豊富な知識を備え、自他共に認める「バスケマニア」である斎藤氏は、「スコア」、「アシスト」、「リバウンド」などのいわゆる「ベーシックスタッツ」と勝利に影響する数字を探求する「アドバンストスタッツ」の違いを示し、2003年頃からバスケットボールにおけるマネーボールがスタートしたことを紹介。そして2013年、SAP社から技術提供を受け、NBAは過去60年分全てのスタッツを無料閲覧出来るstats.nba.comを一般公開し劇的にファンが得られる情報量が増えたことを紹介しました。そのスタッツデータはなんと4,500兆パターンにも上るそうです。
更にNBAが昨シーズンから導入したSportVUというシステムはその有用性を加速させました。NBAは昨シーズンから30チーム全てのホームアリーナでハーフコートに3台ずつ合計6台のカメラを設置し、各プレーヤーの位置情報を毎秒25回記録しています。SportVUによってコート上の全ての動きがデータ化されトラッキングデータがリアルタイムで集積され、90秒以内にレポートとして各チームに配信されるようになりました。そしてファン向けにもSportVUで取得し加工されたデータがstats.nba.comで公開されるなど、NBAが提供するデータ量と即時性は劇的に変化しているのです。(参照:“How SportVU technology works” The Boston Globe 03/30/2014)
斎藤氏はまとめとして、SportVUのパフォーマンスとビジネス両面でのインパクトについて語り、「膨大なデータの山の中から宝を見つけ、プレーに落とし込むためにもアナリストの重要性が増している」とパネルディスカッションへ向けての提言を示してくれました。
末広朋也氏「日本代表におけるIT×データ活用方法」
続いて登壇したのは、男子日本代表チームテクニカルスタッフとしてゲーム分析に従事する末広朋也氏。国際大会では、体格差で劣る日本代表が勝つためにどのようなデータを扱っているのか、またそのデータから得たものをいかに日々のトレーニングで実践して行くか、ということが話題の中心となりました。
やはり従来の「ベーシックスタッツ」だけを見るのではなく、「アドバンストスタッツ」を見て、各選手のプレーの質から強化ポイントを洗い出す作業に重点が置かれているそうです。ベーシックスタッツのみでは見えて来ない、選手の貢献度などもアドバンストスタッツを見ることで評価が可能となります。更にスタッツだけでは出て来ない情報をSports Codeを使って地道に集計し検証するのもテクニカルスタッフとしての重要な仕事だそうです。具体例として挙げられたリバウンドのプレーでは、映像を基に「ハードコンタクト」、「ソフトコンタクト」、「ボールウォッチ」の3種類に大きく分類し、検証しているそうです。単純なスタッツのみでは現れないひとつひとつの「プレーの質」をこうした作業によって立体的な情報に昇華していることを紹介してくれました。末広氏はまとめとして、チームを勝利に導くために必要なデータを集積し、それをいかに現場に活用していくかという部分がアナリストに求められていて、マンパワーとマシンパワーの両面から高める必要があると語ってくれました。
以上2名から情報提供をレポートしました。次回はこの後行われた白熱のパネルディスカッションの模様をレポートします!