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2016.10.21

コラム

JSAA OPEN SEMINAR vol.4『「観戦力」を高める』開催レポート[前編]

佐々木クリス氏

2016年10月5日(金)、渋谷タコベルにて、JSAA OPEN SEMINAR VOL.4を開催致しました。今回は、「「観戦力」を高める」と題して、WOWOW様のご協力の下、Bリーグの開幕で注目を集める「バスケットボール」をテーマに、スポーツをより楽しむために必要な、「観戦力」について考えるセミナーを開催しました。

今回は佐々木クリス氏のセッション「NBA2016ファイナル総括-アナリストの視点から-」について、レポート致します。

スタッツがスポーツ分析に役立つ理由

まずセッションの冒頭で、佐々木氏はスタッツを把握する理由として、主に4点あると語りました。

1点目は、「分析や経験則を裏付けるハードエヴィデンス(証拠)として」です。スタッツを証拠とすることで、分析や経験則の正しさや確度の高さを証明出来るのです。

2点目は、「Eyetest(目視)では分からなかった事象に光を当てるため」です。目視だけでは、目の前で起こった事象の原因を説明出来ない事があります。原因を究明するために活用するのが、スタッツなのです。

3点目は、「選手の行動の裏にある「心理」を読む」ためです。選手やチームがなぜこのプレーを選択したのかを、スタッツという指標を基準に判断することで、逆に、選手やチームがプレーを選択した根拠を知ることが出来るのです。

4点目は、スタッツはプレーヤーでなくても、プレー経験がなくても、スポーツへの理解を深める事が出来る「共通言語」だということです。

NBAファイナルを読み解くための指標

佐々木氏のNBA2016ファイナル予想は、4勝1敗に近い4勝2敗でウォリアーズの勝利という予想でした。チーム力の差から考えると4勝1敗だが、レブロン・ジェームズがいるので4勝2敗と予想した、とのことでした。

佐々木氏がNBA2016ファイナルを読み解くための指標としていたのは、「グッドショットとは何か」です。

佐々木氏は、グッドショットの事を「ディフェンスの影響を受けないで放たれたショット」だと説明してくれました。例えばフリースローは、成功率が75%であれば、2本入れるチャンスがあれば、75%×2本=1.5得点が期待できると考えられるというわけです。

グッドショットを測る指標

佐々木氏はグッドショットを測る指標を、2点紹介してくれました。

1点目は「キャッチ&ショット」の成功率です。バスケットボールでは、パスを受けてシュートを打つ事を、「キャッチ&ショット」といいます。キャッチ&ショットで放たれた3ptsシュートの成功率を比較した場合、レギュラーシーズンだと、キャブスは38.5%(NBA5位)、ウォリアーズは42.9%(NBA1位)でした。ところが、プレーオフの数値を比較すると、キャブスは46.8%(1位)、ウォリアーズが41.1%(4位)とキャブスの数値が上がっている事が分かりました。

2点目は「PITP(Points in the Paint:ペイント内のショットで獲得したポイント数)」です。PITPの比率を比較すると、レギュラーシーズンだと、キャブスは41.0pts(NBA22位)ちなみに失点は40.8pts(6位)でした。一方、ウォリアーズは、44.6pts(9位)ですが、失点は45.1pts(25位)です。ところが、プレーオフの数値を比較すると、キャブスの得点は35.0pts、失点は37.9pts。一方、キャブスは、得点は42.4pts、失点は40.8pts。ウォリアーズは、PTTPからの失点がレギュラーシーズンと比較して、4.3ptsも減少しています。

ディフェンス力を測る指標

ディフェンスに関するスタッツとして紹介したのが、「コンテスト」と「リングプロテクション」です。

「コンテスト」とは、相手のシュートに対して、手をめいっぱい伸ばしてディフェンスした回数の事を指します。レギュラーシーズンでは、キャブスは57.1回、ウォリアーズは66.2%ありました。「リングプロテクション」とは、ゴール付近(正確にはゴールから約5フィート以内の防御)の失点率の事を指します。

この「リングプロテクション」のスタッツで、佐々木氏が注目したのは、ウォリアーズのドレイモンド・グリーンとキャブスのケビン・ラブです。ケビン・ラブの2015-16年プレーオフのリングプロテクションは、65.2%。これは、プレーオフに出場した選手の中で最低の成績です。一方、ドレイモンド・グリーンは38.1%。これは2015-16年プレーオフ4位の成績で、ファイナルでは史上最高の数値でした。

ドレイモンド・グリーンとケビン・ラブ。この2人のファイナルでのプレーが、結果的には勝敗を大きく左右しました。

佐々木クリス氏

NBAファイナルを振り返る

では、NBAファイナルを振り返ってみたいと思います。

第1戦、第2戦は、ウォリアーズの圧勝でした。この2試合は、ウォリアーズのディフェンスが効果的に機能しました。

また、第2戦では、キャブスはターンオーバーからの失点が35本あり、合計51失点計上しています。攻撃が上手くいかない事からミスを犯し、ターンオーバーから自滅してしまいました。

第3戦は、キャブスが1勝をもぎ取ります。この試合は、ケビン・ラブが第2戦の脳しんとうの影響で欠場しました。しかし、ケビン・ラブの欠場によって、キャブスの攻撃のテンポが早くなり、プレーオフで好調だった「キャッチ&ショット」の回数や3ptsの回数が増えます。第3戦では、キャブスの方が、ウォリアーズより、3P成功数で3本上回りました。

第4戦は、ウォリアーズの圧勝で、3勝1敗と王手をかけます。しかし、この試合でレブロン・ジェームズとドレイモンド・グリーンが小競り合いを起こし、ドレイモンド・グリーンが第5戦で出場停止になってしまいます。この試合で起きた小競り合いが、ファイナルの結果に大きく影響しました。

第5戦は、レブロン・ジェームズとカイリー・アービングが共に40pts以上を挙げる大活躍で、キャブスが勝利をおさめます。2人共、UFG,CFGともに50%以上を記録したのですが、特にカイリー・アービングはUFG,CFGともに70%を超える成功率を記録しました。

第6戦は、ドレイモンド・グリーンは復帰しましたが、流れは変わらず、レブロン・ジェームズの40pts以上の活躍もあって、キャブスが勝利。ついに3勝3敗のタイに持ち込みました。

そして、第7戦。勝ったのは、キャブスでした。勝負を決めたのは、カイリー・アービングの3ptsでした。佐々木氏がシリーズのポイントだと語っていた「グッドショット」の機会を最後の最後に作り、モノにしたキャブスが、NBAチャンピオンに輝いたのです。

「アナリスト泣かせ」だったNBAファイナル

佐々木氏は今回のNBAファイナルを振り返って、「アナリスト泣かせ」のファイナルだったと語りました。NBAファイナル(4戦先勝シリーズ)が1勝3敗の状況になったケースはこれまで32回(2016年ファイナルが33回目)あったが、そこから第7戦に持ち込んだチームはわずか2チームのみ。そして逆転勝利を収めたケースは一度もありませんでした。スタッツだけでは、すべてを把握出来ないファイナルだったといえます。

ただ、冒頭でも佐々木氏が伝えていましたが、スタッツを基に分析することで、分析や経験則を裏付け、Eyetest(目視)では分からなかった事象に光を当て、選手の行動の裏にある「心理」を読むことで。より深くスポーツを楽しむことが出来る。その事を改めて教えてくれたセッションでした。

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なお、今回のイベントにご協力頂いたWOWOW様が、2016-17年シーズンのNBA開幕を記念したパブリックビューイングのイベントを行います。今回のイベントでも登壇された佐々木クリス氏も出演されます。ぜひこちらもご参加ください。

日時:10/26(水)開場 18:30 開演 19:00

カード:ニックスvsキャバリアーズ

場所:KITSUNE

備考:試合終了後には豪華グッズプレゼント抽選会も有り

詳細はこちら

出演:佐々木クリス、長澤壮太郎、吉年愛梨、B.LEAGUE選手2名ほど

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次回は、佐々木氏のセッションの後に行われた、「パネルディスカッション〜バスケットボールの観戦力の高め方〜」について、紹介します。