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2018.2.1

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【SAJ2017レポート】 THE GAME CHANGER 〜トラッキングデータが起こしたスポーツの変革〜

スポーツビジネス大国アメリカでも常に業界をリードしているMLB。このMLBに革命をもたらしたフラッグシップメディア『MLB Advanced Media』のCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)として、トラッキングシステム『STATCAST』の開発など数々のイノベーションを仕掛けてきたJoe Inzerillo氏。スポーツビジネスどころかメディアの在り方まで変えてしまったMLBAMは、いかにしてゲームチェンジャーとなったのか。SAJ2017の基調講演で、その知られざる秘密の一端が明らかになりました。

革新的なトラッキングシステム『STATCAST』

もともとMLBAMは、2000年にメジャー30球団のチケット販売をオンライン上で統合するために設立された企業です。その後、モバイルアプリである『MLB At Bat』や後述する『STATCAST』などを開発。Joe Inzerillo氏は、現在MLBAMからスピンアウトし、ストリーミング配信サービスに注力したBAMTECH MediaのCTOに就任しました。

ではそのMLBAMの名を轟かせた、革新的なトラッキングシステム『STATCAST』とは一体どんなものなのでしょうか。

STATCASTのコア技術である「軌道を追いかける機能」は、もともとミサイルのトラッキングを行うレーダーパネルのシステムを応用した技術でした。しかし、この技術を基礎とし選手のデータを蓄積していくことで、単なる数値が選手の真の能力や、それに付随した物語を生み出す要素へと進化しました。

STATCASTで集計される一次統計は肩の強さ・脚の速さといった単純なものですが、二次統計となると、選手の移動距離やボールの捕球確率までデータとしてみることができます。まだ導入されてはいないものの、未来のSTATCASTは、選手の身体における関節の動きをトラッキングし、打撃・投球・守備で各々がどのように動くかを予測することも可能だと、Joe Inzerillo氏は語ります。

こうした革新的なトラッキングシステムの導入は、何も野球だけでは無いとJoe Inzerillo氏は語ります。すでに、NHL(ナショナルホッケーリーグ)でも上からカメラで撮影し、パックや選手の位置を測定出来るシステムが導入されています。

例えば、ゴールを守り、失点を防ぐ役割を担うゴールテンダーの最も守りにくい場所とされる脚の間を狙ってオフェンスがショットを打とうとしている瞬間、選手やパックをトラッキングすることで、選手がそれぞれ何を見ていて、各々の動きにどれほどの効果があるか、STATCASTを使えば測定出来ます。

レフェリーにデータの客観性を提示する

データは選手の真の価値を引き出すだけでなく、試合結果を覆してしまうこともあります。Joe Inzerillo氏が例として挙げたのはプロボクシング。2012年のマニー・パッキャオ 対 ティモシー・ブラッドリー第1戦目です。この試合はティモシー・ブラッドリーが勝利したのだが、メディアやプロモーターが判定に異を唱え勝敗に疑惑の残る「ボクシング史上最悪な判定の一つ」と言われた試合です。

BAMTECHでは、この試合をあらゆる角度から撮影し、赤外線カメラとAIにて分析を行いました。パッキャオとブラッドリーの表面温度を測定し、12ラウンドの中で二人の温度がどう変化しているか、客観的データを計測したのです。

赤外線カメラにて撮影されたサーモグラフィーの画像では、赤色に近いほど温度が均一であることを示します。一方で、青色に近いものは温度が低下していることを表しているのだが、ボクシングというスポーツでは「血流が悪く、皮膚で内出血が起きている」状態と推測出来る、とJoe Inzerillo氏は語ります。

実際に二人の画像を比較すると、パッキャオは終始赤色を維持していたが、ブラッドリーは最終ラウンドに近づくにつれて徐々に冷たい色へと変化していることが判明。 少なくともデータの上ではパッキャオは勝利していた、という驚きの結果が分かったというのです。

『THE GAME CHANGER』との題に相応しい変革をSTATCAST、及びトラッキングシステムは巻き起こしました。Joe Inzerillo氏は最後に「私の目指しているゴールは、レフェリーに対してデータの客観性を提示出来ることです。今日お見せしたボクシングのデータは公開していないが、今後は野球だけでなく、ボクシングでも活用出来るようにしていきたい」と、変革の展望を語り、プレゼンテーションを締めた。

(レポート:石橋和也)