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2018.2.8

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【SAJ2017レポート】米国メディア業界に起こる地殻変動 〜世界最大のスポーツ×ICT企業の正体〜

2016年8月、MLBAM傘下のBAMTECH Mediaはウォルト・ディズニー社に買収されたというビッグニュースが流れ、大きな話題になりました。

このニュースを受けて、SAJ2017で行われた、「米国メディア業界に起こる地殻変動 〜世界最大のスポーツ×ICT企業の正体〜」というセッションでは、BAMTECH Media・CTOであるJoe Inzerillo氏をスピーカーに迎え、これまであまり語られてこなかった、MLBAM/BAMTECH急成長の正体を解明するべく、日本球界のデジタルおよび事業戦略を牽引してきた、株式会社スポーツマーケティングラボラトリー代表取締役である荒木重雄 氏が切り込みました。

ビデオコーディネーターとしての経験からSTATCASTが生まれた

パネルの序盤では、Joe Inzerillo氏の経歴について、質問を投げかけられました。

Joe Inzerillo氏は、1987年にシカゴ・ホワイトソックスの球団職員としてキャリアをスタートさせました。彼は大学でコンピュータ科学を先行していたこともあり、当時は球団で誰もやる人がいなかったビデオコーディネーターを一人で担当していたそうです。

このキャリアは、彼のその後のビジネスアイデアへと大きな影響を与えました。ビデオコーディネーターとして大量の試合映像を取り扱ったからこそSTATCASTは生まれ、現在彼がCTOとして注力しているストリーミング配信サービスへと繋がっていったのだと、Joe Inzerillo氏は語りました。

『速度』『角度』『予測飛行距離』

だが、「セイバーメトリクスもまだ一般化していない時代に、MLBAMが各球団を巻き込んでサービスとして成立させることに高いハードルがあったのではないか」と荒木氏は問いかけます。

Joe Inzerillo氏は、「野球の現場、そしてビジネス。両方のマネージャーたちから理解を得ることがまず大切だった」と述べつつ、蓄積したデータが、どのように商品化できるのか、そしてその価値をどのようにして伝えるか、というポイントに苦心したそうです。

野球とデータを組み合わせた、MLBにおけるメディアビジネス変革において、彼が最初に収集したのは『速度』『角度』『予測飛行距離』の3つのデータ。これらを前述したマネージャーだけでなく、観客にも提示することで、データが試合を強烈に物語る重要な要素へとパッケージングすることが、可能になったそうです。

BAMTECHとディズニー社と組んだ真の狙いは?

セッションの話題は、MLBAMの事業戦略からBAMTECHとディズニー社の関係性へと移り、荒木氏からは、「ディズニー社と組んだ真の狙いは?」という直球の質問が投げかけられました。

Joe Inzerillo氏の答えは、「我々と相性が良いから」でした。

ディズニー社はスポーツ専門チャンネル『ESPN』を保有しているが、衛星放送の解約者は年々増加。ブルームバーグ社の報道によると、今年の米国内チャンネル加入者数は2003年以来最低の水準である8,800万人にまで落ち込んでいます。この影響もあり、ディズニー社はインターネット回線を通じたコンテンツ配信を行えるOTT(オーバーザトップ)サービスの強化を図っていたため、BAMTECHとの相性は抜群に良いと考えているそうです。

また、Joe Inzerillo氏は、「過去のマーベル社の買収などからわかるように、ディズニー社がコンテンツカンパニーであり、BAMTECHの意志が尊重されるだろうという思いもあった」とも語りました。

BAMTECHは日本に来るか?

終盤、荒木氏からの「日本のスポーツビジネスはどう変革していけば良いか?」という質問に対して、Joe Inzerillo氏は、「スモールスタートからはじめることが重要だ」と、彼自身の経験を踏まえつつ、持論を述べました。

MLBAMは チケットの販売サービスから始まったが、モバイルアプリの開発、STATCASTの導入、ストリーミングサービスへの展開と段階を踏んでビジネスを拡大しています。

「日本の市場では、特にデジタルの権利を一元化して行くことが難しいように思われる。だが、今後ストリーミングで試合を見る観客は増えるはずであり、そうした顧客に対して直接コンテンツを販売できるような“誰もが投資すべき”場所を作り上げていくべきだ」と述べたJoe Inzerillo氏。

荒木氏の「BAMTECHは日本に来るか?」という最後の質問には、笑いながら「やると思います。魅力あるコンテンツがあれば、テクノロジーをぜひ提供したいですね」と答え、セッションを締めました。

(レポート:石橋和也)