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2019.4.10

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【SAJ2019レポート】テクノロジーの活用はアマチュア野球選手の能力向上にどう生きるのか?

近年さまざまなツールの出現により、進化の一途を辿る野球のデータ活用。プロだけではなく、アマチュアの現場でもタブレット端末でデータを取得するなど、活用する環境が整ってきています。SAJ2019では、アマチュアの現場でデータを活用して動作改善や戦術への適用を行った方々の事例を基に、ディスカッションを展開しました。「俺のコーチはユーチューブ」という選手たちが出てくる時代に、指導者らデータを分析する人たちの役割とは何か。実際に選手たちと日々向き合い、データ分析を基にフィードバックする方々が、テクノロジーを活用することが能力向上にどう生きているのか議論しました。

スピーカーとして登壇したのは朝日大学経営学部講師/元慶大野球部助監督の林卓史氏、北里大学一般教育部講師の永見智行氏、筑波大学大学院人間総合科学研究科コーチング学専攻の八木快氏。モデレーターはデータスタジアム株式会社フェローの金沢慧氏が務めました。

潤沢なデータを指導者はどう選手に伝えるのか

「一番ダメなのは、自分の複製を作ること」と語る林氏

セッションは、金沢氏が「選手と指導者がどのようにコミュニケーションを取っているのか」という質問を投げかけるところから始まりました。

球速だけでなく、回転数などボールの細かなデータが「Rapsodo(ラプソード)」などのツールによって取得可能となったことにより、選手と指導者のコミュニケーションはこれまで以上に重要になってきています。

「自分は日本一のコーチである」と信じてやまなかった林氏は、投げ方を選手たちにどれだけ教えても「踊りの稽古」のようで上達が見えにくかったといいます。手や指先の動きを教えるよりも、選手たちがどんな球を投げているのか計測した数値で見せることにより、選手たちの理解度が深まったと現場での経験を語ります。

林氏は経験談を1つ語ってくれました。コントロールに苦しんでいた投手がある日、「コントロール(のコツ)をつかみました」と言ってきたので数値と照らし合わせると、実際にどんな変化があったのかを明確に分析する事ができたそうです。それは相手打者に対して何が効果的だったのかを知ることにつながったといいます。数値を分析することで「低めに投げろ」や「コントロールを意識しろ」といった曖昧な指導をせずに済んだと振り返ります。

「一番ダメなのは、自分の複製を作ること」

過去や自分の体験談から語るのではなく、選手がどうなっていくのか、どうなって欲しいかを継続的に示し、入り口と出口を提供することが選手たちを自由にさせるというのが林氏の考えです。一方で入り口と出口は分かっているけれど、自分で歩こうとしない選手には教えようがないとも指摘します。

選手たちにデータを理解してもらうためには?

永見氏は投手の投げるボールの回転、軌道を分析・研究している

永見氏からは「データを見せた時の選手のリアクションやそのフィードバックはどんなものか」という質問が林氏に投げかけられました。

林氏は「計測値と結果が連動していると選手が理解できた時」に一番興味が高まるといいます。結果を見て、指導者側も計測値の意味を実感としてアップデートされる場合もあるようです。

データの活用そのものを研究している八木氏からは「計測値を理解した投手に対して相手打者の反応は変わってくるのか」という質問が投げかけられました。

林氏は、相手打者がよりボール球を振るようになり、ストライク球を見逃す打者が増えてきたといいます。計測値を把握する前の段階では、コントロールに自信がない投手はボールを「置きに」いってしまい、それが甘く入って打たれるケースも多かったそうです。

データをどう活用するのかは個人差があります。計測値が悪い選手はデータをあまり活用しようとせず、ブルペンで投げている時も毎球データを読み上げられることを嫌います。そういう選手は改善が見られず、興味を持つ選手の方がよくなっていった傾向があったそうです。

出場機会の少ない選手が成果を出すためには

フィードバックについてピンとくる選手とこない選手の違いとは?

永見氏はボールの回転などを分析するだけでなく、計測した数値を選手にフィードバックする役割も担っています。永見氏の経験によると、選手はフィードバックの意味を理解できたとしても、練習に応用できないことが多いといいます。

さらに、データを理解して、数値の意味を理解できるタイプがエースとなり、出場機会の多い選手になる傾向があるそうです。その理由は、データを振り返る事のできる「実戦経験の多さ」にあります。ゲーム形式での登板が少ない投手は結果を追求する事ができず、投げ方やフォームを追求しがちですが、それを変えてくれるのがラプソードのようなツールだといいます。

試合で投げなくても打たれやすいボールなのか、抑える事ができるボールなのかということが分かり、投球フォーム改善だけの指導から脱却できるためです。そのため、現在はそれらのデータを活用する指導法が求められるといいます。

八木氏(右)はデータの「活用の能力」が問われるという見解を示した

膨大なデータが提供されている時代では「活用の能力」が問われると八木氏はいいます。データの活用度は選手によってさまざまですが、活用度が高い選手はレギュラークラスが多いといいます。成功体験の数、そして好投手との対戦の蓄積が活用度を高めていきます。特に好投手との対戦時こそ、成功や失敗を積み重ねることによって選手の中でのデータの価値が変わってくるのではないかと推測していました。

今後のテクノロジー活用について

モデレーターを務めた金沢氏

林氏は今後欲しいテクノロジーについて「コントロール」「配球」「球の見えづらさ」「打ちづらさ」「気持ち」など現在は感覚的で数値で表せていないものが計測できればいい。ただ、これらが発明されても、結局は選手がデータを必要と感じるかどうかで活用度は変わってくると見解を述べました。

指導者が少ない、規模が小さいアマチュア野球だからこそ、能力のバラつきを少しでも埋めるためにデータを必要とする人が増えていく。そうなれば、さらに発達するテクノロジーの価値を理解し、活用して能力向上に生かされる場面が増えてくるのではないでしょうか。

(レポート:新川諒)