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2019.4.24

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【SAJ2019レポート】ラグビーにおけるパフォーマンスアナリティクス

2019年はラグビーワールドカップイヤーです。新たな戦いに向けて、ラグビー界全体ではどのようにアナリティクスを取り入れているのか。Catapult社のスポーツサイエンティストとして活躍し、多くのラグビーチームへのサポートを行ってきたゴードン・レニー氏がその一端を紹介し、Catapultビジネス開発マネージャーの斎藤兼氏が通訳兼コーディネーターを務めました。

講演の動画はNOTEで販売中です。

データを取るまでのプロセスとは

ラグビー界での豊富な実績を持つレニー氏がデータ取得のプロセスを紹介

Catapult社はGPSを使って選手の走行距離やスピードを計測し、データをもとに選手の疲労や負荷を管理するシステムとノウハウを持っています。最近はトラッキング以外に、映像分析やコンディション管理のシステムも導入しているそうです。これまでの実績からサッカー界で多く活用されているイメージが強くありますが、ラグビー界にも貢献を続けています。

まずは、データを取得するプロセスについて。最初にコーチや選手から要望を聞き、想定される状況のデータを取得できるかテストしていきます。Catapult社には80名以上のスポーツサイエンティストやエンジニアが世界中にいるため、さまざまな検証を繰り返すことが可能となています。テストの結果に対して再び現場からのフィードバックをもらい、再び検証、修正というサイクルを繰り返していきます。精度が高まり、満足いく結果が出たものは商品へと落とし込み、実際にフィールドで活用してもらう流れになっています。

Catapult社の目的は、世界中のスポーツチーム、そしてアスリートのパフォーマンスを高めていくこと。目的達成のために、サポートしていくことを第一に考えています。Catapult社がラグビーのサポートを開始した2006年はデータを収集するだけにとどまり、そのデータはただの“数字”にしかすぎなかったそうですが、近年はその数字が何を意味するのかが分かるようになり、情報として活用できるようになっていったそうです。

「情報を理解し、どんどん“知識”に変えていった」というレニー氏は、ラグビーにおいて、攻撃と守備のポジションでは明らかに走行距離が違うことをまず理解しました。そして“数字”を理解することで“知識”に変え、何が成功を導いているのか、何が失敗に終わっているかを分析していきました。

トレーニングを行うときに指導者や選手が求めるのは、試合に向けて準備をすること。レニー氏はデータが具体的に何を意味しているのか“知識”として提供することは、大きな意味を持つと言います。

データの特性を知ることで選手の適性を見極める

通訳兼コーディネーターを務めた斎藤氏

スポーツアナリストは1つの数字を出すだけではなく、さまざまな切り口から数字を分析してコーチにフィードバックすることが大切になります。 レニー氏は続いて、「守備のほうが攻撃よりも難しい」という、あるコーチの仮説を分析した事例を紹介してくれました。

分析の結果、守備の時は選手の走行距離が長く、攻撃の時は選手の走行距離は短いけれど、より走る「強度」が高くなっているということが分かったそうです。この分析結果から、各ポジションの選手に求められる要件を具体的にしたことにより、選手の適性がどのポジションにあるのか、また試合に向けどんな準備が必要なのかといったフィードバックが可能になったといいます。

さらに、選手に伝える際には数字だけではなく、なぜその結果が出たのか理由を伝える必要があると続けます。レニー氏は「データ」と「映像」を掛け合わせることにより、なぜその場面でスプリントをしたのかを視覚的にも見せて伝えるようにるようになったそうです。

Catapult社では現在、フィジカルデータの数字や映像だけではなく、最終的には睡眠やメンタルなどを含めた選手のコンディションの全体像まで分析したソフトを提供するようになっています。今後は選手自身が入力する睡眠などの主観的なデータと、数字上の客観的なデータを掛け合わせてフィードバックしていく予定だといいます。これらの総合的なデータから、指導者には選手が練習に参加可能なのかを判断し、選手に伝えることができる。またそのソフトはトレーニングのスケジュールを選手、スタッフ全員が共有するシステムとしても活用できるそうです。

Catapult社が今後さらに提供できるデータとは?

業界をリードするCatapult社の次なるビジョンとは?

Catapult社ではここまでの15~20年間、GPS機能を活用して選手のグラウンド上の動きを分析することに特化してきました。米国、そしてロシアの衛星コンステレーションにアクセスのあるGPS機能では、今までに比べてより豊富なデータを取得できるセンサーやジャイラスコープ(角加速度を検出する計測器)がさらに活かされるようになるとレニー氏は語ります。

取得するデータポイントが増えることにより、選手がボールを何回運んだのか、タックルしたのか、スクラムが何回あったのかなどを細かく分析できるようになります。そしてそれらのデータは、試合の強度が最も高まったのはいつなのかという 「モメンタム」を 理解することにもつながります。さらに、選手が倒れ込み、プレーに関わって時間帯についても数値を出すことが可能となります。これらは指導者が知りたがっているけれど、現状ではまだ数値化できていないものです。

パフォーマンスアナリティクスが進化していくことにより、これまで主観的でしかなかった、「試合の勢い」や「選手の頑張り」などが分かってくるようになります。データの可能性は計り知れませんが、同時にその増え続ける数値を分析し、フィードバックできるシステム作りの重要度も増すばかりです。2019年ラグビーワールドカップでは新たなテクノロジーが選手やチームにどのような影響力を与えているのか。そんなアナリティクス観点からも大会を楽しめるのではないでしょうか。

(レポート:新川諒)