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2024.3.21

コラム

【JSAA新理事インタビュー】廣澤聖士、木村和希それぞれが考えるJSAAの未来像とは?

昨年6月10日で10期目に突入した日本スポーツアナリスト協会「JSAA」。その活動を更に進化させ、推進するため、新たに2名の理事が加わりました。新理事としてJSAAに加わった廣澤聖士氏と木村和希氏がJSAAと関わるようになったきっかけ、そして今後JSAAが目指すべきところとは?次代を担う二人の理事に聞きました。

JSAAに関わることになったそれぞれのストーリー

– まずはじめにJSAAに関わることになった経緯を聞かせて下さい。理事になるということを意識するタイミングはありましたか?

廣澤:

最初の関わりは大学院の先生が紹介して下さってSAJ2014に参加したことですね。そこでSportscodeの存在を知り、その翌年フィットネスアポロ社さんが実施した学生向けのスポーツアナリスト体験セミナーに参加したところ、インターンすることになったんです。当時取り組んだフィギュアスケートを題材にした分析がJSAA理事の千葉さんの目にも留まって繋がりができたというのが最初のJSAAとの出会いでしたね。その後、2018年のMIT SSACに参加したときにJSAAの渡辺さん、千葉さんともご一緒する機会があって、帰国後の報告会にお招きいただきました。2020年にJSAA内に立ち上げられた調査研究委員会に参画したところから、本格的にJSAAの活動に関わり始めました。

委員会に関わり始めた当初、理事として関わることは全く想像していませんでした。ただ、委員会活動の中で千葉さんが組織としての新陳代謝という話をされていて、委員会をリードする覚悟を持ち、少しずつ意識するようになっていきました。

 

木村:

自分もどこからが活動になるのかというところはありますが、関わりの一番最初はSAJ2015に聴講者として参加させていただいていたところからですね。当時は大学3年生でした。その後、大学院に進学しながら千葉ジェッツでの仕事を始めました。そして、2018年にはPick Up Analystに取り上げていただきました。それからオープンセミナーに登壇させていただく機会をいただくなど、JSAAとの関わりが深くなっていったという流れです。その間、理事になることなんて全く想像していなくて、遠い存在でしたね。笑

廣澤理事がJSAAとの関係を深めるきっかけのひとつとなったSSAC2018報告会の様子

 

– JSAAが発足した2014年当時とスポーツ界の環境はどう変わったと感じていますか?

廣澤:

スポーツ界と言うととても大きいのですが、スポーツアナリスト文脈で言うと間違いなく認知度が高まり、広まってきたという印象は持っています。メディア露出やイベントなど関連するコンテンツや企業、情報も増えてきていると思うので、私が2014年当時学生のときに「スポーツアナリストになりたい」と思っていたけど、どうしたらいいのかわからなかった時代に比べると、ロールモデルになる人、表に出ている人というのは間違いなく増えたと思っています。

大学や専門学校でもスポーツアナリティクスを扱うコースは少しずつ増えてきています。私が学生だった10年前には扱っているコースはほとんどなかったですね。そう言う意味ではアカデミックの領域にも進出してきている印象はあります。今の学生世代は同じ志を持った仲間が横にいるという環境なのかなと思います。

 

木村:

自分は学生だったこともあり当時の環境を正直あまりわかっていないということを踏まえてお話すると、スポーツアナリストが日常になったというか、当たり前になったなというのを感じています。スポーツ界全体でそういう流れがあって、自分がバスケット界に入ってきて5〜6年経っている中で、バスケ界でも後を追うように当たり前になってきたというのが大きな変化なのかなと感じています。

大学院の面接の時にある面接官の先生に「卒業して何をしたいの?」と聞かれたんです。「スポーツアナリストになります」と答えると色んな先生方に「お金稼げないでしょ?ご飯食べて行けなくてもいいの?」と厳しいお言葉をいただいた記憶が鮮明にあって、そういう時代だったなと思います。それが今や、そういう大学がスポーツアナリストを育てようと変わってきているので、教育環境という面でも変化を感じています。

 

これからJSAAが取り組むべきこととは?

– 理事に就任し、これから着手していきたい企画や取り組みはどんなことでしょうか?

廣澤:

調査研究委員のメンバーとして関わり始めたこともあり、アカデミックな領域とのコラボレーションというのはやっていきたいと思っています。「アカデミックの知見を現場に還元したい」という方は他にも結構多いと思うのですが、現場ならではの視点とか現場から想起される分析の考え方をアカデミックのコミュニケーション方法でアカデミック領域の人たちに提言するということをやっている人はそう多くないと思っています。なので、私はその部分を担っていきたいと考えています。現場で使われている分析の考え方は、アカデミック領域でも示唆を与えうるものだと思っていて「現場ならではのデータ活用や分析の方法」を理解してもらったり、お互いのコミュニケーションの場を確立したいですね。アカデミック側に現場の考え方を浸透させる方向の視点を大事にしたいですね。

現場からアカデミックへのベクトルでコミュニケーションが出来る人は多くないと思っているので、多少なり現場を知っているバックグラウンドを活用してJSAA理事としてもスポーツアナリティクスの発展に研究という側面から寄与できればと思っています。

また、自分の専門競技がフィギュアスケートで、審美系の競技のアナリストはあまり多くないと思うので、こうした競技でもアナリティクスを発展させていきたいという思いもありますね。

 

木村:

元々JSAAはスポーツアナリストの方々によって発足した組織で、最初は勉強会から始まったと聞いています。それがどんどん大きくなっていって、色んな組織とか外部環境を巻き込んで成長してきたと思います。スポーツアナリストがつくるコミュニティであったりとか、自分が現役アナリストであるからこそそういった横のつながりをつくることや、もう一回以前のような勉強会というのをつくっていきたいなと思っています。やはりスポーツアナリストが一番活躍できるような業界のための日本スポーツアナリスト協会にしたいと感じています。そこが自分がJSAA理事にお声がけいただいた理由だと思っているので、そこが自分に求められていることなのかなと思っています。

現役のスポーツアナリストの方々のつながりをより深めていく、現役の方々のコミュニティを構築することで、これまでスポーツアナリティクスというのを海外から輸入していたところがあると思うんですけど、どこかのタイミングで日本から世界に輸出できるようなフェーズに行きたいというのが今後の展望としてはありますね。

アカデミック側に現場の考え方を浸透させる方向の視点を大事にしたいと語る廣澤理事

 

– スポーツアナリティクスに興味を持つ人、関わる人を増やしていくために何が必要だと考えていますか?

廣澤:

中の人が外向きに活動していくことが大事だと思っています。冒頭で露出も増えているという話をしましたが、界隈で働いている方々が一つの集団となって外向きにコミュニケーションをしかけていくということは必要だと思っています。私は研究としてのコミュニケーション方法をとりますが、それぞれがそれぞれの得意とする領域でのコミュニケーション手法で繋がれることが大事だと思っています。それぞれの領域における「お作法」とも言えるものかもしれないですね。

それから広告塔になるようなアナリストを継続的に生み出していかなければいけないと感じています。スターアナリストと呼べる人材を育成して、輩出して、しっかりとブランディングしていくことも必要かなと思っています。

 

木村:

私自身、プロのスポーツアナリストとして活動しているので、自分たちプロのスポーツアナリストとして働いている人が一番先頭を走って、より良い世界を見せていく。新しいことにチャレンジして、新しいものを生み出していくことによって、結果的に勝利に貢献したり、優勝に貢献したりすることでスポーツアナリティクスに興味を持つ人が増えていけばいいなと思っています。

Bリーグの世界でプロのスポーツアナリストとして第一線で活躍し続ける木村理事は2018年にPick Up Analystでピックアップされた

AIがスポーツアナリストの業界に与えるインパクト

– ひとつ変化球な質問ですが、AIの普及がスポーツアナリストの業界にどんな変化をもたらすと思いますか?

廣澤:

汎用的な作業の自動化はどんどん進んでいくと思います。生成系もそうですけど、何かを調べたり、プログラミングで作業を自動化したり、システム化したりも一つだと思いますが、そういう汎用的な作業の自動化はどんどん進んでいくと思うので、そこは他の業界とも変わらず、こうした技術を自分の仕事の中に取り入れていくというのは必要だと思います。一方で、アナリスト特化の専門的な作業の自動化というのは今のところびっくりするような大きな変化はないのかなとも個人的には感じています。これから先どう変わっていくのか楽しみなところではあるのですが、AI・ビッグデータについては10年前から期待値が高かった中で、10年経った今でもアナリストの仕事が別のものになった肌感覚はありません。わかりやすい例として、データの入力作業は大雑把には自動化できるかもしれませんが、スポーツアナリストはかなり細かい粒度でデータ取得をしているので、そこまでは代替していない認識です。ですので、専門的な部分でAIがスポーツアナリストの仕事やスポーツアナリティクスを大きく変える。というところまでの変化は実感がないというのが率直なところで、今後に期待したいです。

業界という捉え方をすると、産業として見たときにスポーツ業界はまだまだ他の業界と比べて魅力が少ないと思っています。例えば企業側がスポーツアナリスト向けのAIをつくろう、スポーツで儲けてやろう。というモチベーションではないと思うんです。

アナリストレベルでのタグ付けの自動化もAI的には結構難しい問題設定で、アナリストならではのタスクの代替も実用化という点ではまだハードルが高いのではと感じています。現状では企業が投資して取り組むほど優先度の高いものでもないと思います。ただ、そこを少しずつ変えていきたいですよね。

 

木村:

渡辺さん(JSAA代表理事)がスポーツアナリストの作業を語るときに「収集」、「分析」、「伝達」という話をよくされていますが、まさにこのサイクルがある中で、AIがどのフェーズに入っていくか、というのが普及することで変わってくるところかなと思っています。今の時点ではやはり「収集」のフェーズでAIがかなり入ってきていると思います。これまで自分たちがカメラを回して撮影していたものがAIカメラで撮影するようになったり、自分たちで採ったデータが自動で集計されたりというフェーズに入ってきていて、それがどんどん次のフェーズとして「分析」するところが今まさに増えてきているのではないかと感じています。

今、AIで一番難しいとされているのが「伝達」です。AIが導き出した答えをどう使うのか。この「伝達」の部分にはまだまだ課題がある一方で、その辺りが今後変わってくるとスポーツアナリストとして「収集」、「分析」、「伝達」をやっていたのが、AIを全てのフェーズで活用できる時代になってくるのではないかと思います。そうなるとスポーツアナリストの仕事として、一歩先に行っていなければいけないと思っています。結局、AIによってデータ収集の量が増えたときに、それを分析できるようにその時点ではなっていないといけないと思っていて、AIによって分析の質が上がったときに、それを読み解き、伝達できるようになっていなければならないと思っています。

逆にもう一歩「AIが伝達する」フェーズまで来ると、私はまた「収集」のフェーズに戻ると思っています。次にどういうデータを収集すれば良いか?という仮説を立てられるか、スポーツアナリストとしてAIより一歩先に行くということが大事なのかなと思っています。そうなれば、AIは自分たちの仕事を助けてくれるツールとして扱える。並走してしまうとアナリストの価値がなくなってしまうのではないかと感じています。

スポーツアナリストとしてAIより一歩先に行くということが大事と語る木村理事

今後のJSAAを担う2人が描くJSAAの未来像

– 最後に新理事としての意気込みと「今後JSAAをこうしていきたい!」という野望を聞かせて下さい。

廣澤:

スポーツとデータ分析、アナリティクスに関して様々な側面でJSAAに問合せや連携の依頼が来るような組織にしていきたいと思っています。そしてやはり世界に向けて発信していく側になるというのは大事だと思います。

例えばMIT SSACに単なる視察に行くのではなくて、登壇者として声がかかるような組織になっていくことが野望ですかね。競技ごとのノウハウでは世界的にも日本が先行しているところもあると思いますし、海外にも発信をするような組織を目指していくことが必要なのではないかと感じています。

 

木村:

自分よりも年下の世代など若い方々や現役のアナリストの方々をもっともっと巻き込んで行きたいなというのがありますね。先ほども話したように、現役のスポーツアナリストの方々のコミュニティを構築することで、これまで海外から輸入していたスポーツアナリティクスに関する情報をどこかのタイミングで日本から世界に輸出できるようなフェーズにしていきたいというのは野望としてありますね。

また、これまで自分がスポーツアナリストとしてこうなりたいと思っていたことは、今バスケット界では比較的達成出来ています。Bリーグでは半数以上のチームがアナリストやビデオコーディネーターという役職で専門的な人材を採用しています。関わる人を増やすという目標については、結構今の段階では達成されつつあるのかなと思っています。それがどんどん外の世界と繋がる、スポーツ以外の業界と繋がるということは今後必要になってくるのかなと思っています。スポーツ業界はPDCAサイクルがかなり速く回る世界だと思っていて、その業界で得た知見などを違う業界とどうコネクトしていくことで新しいものを生み出すような取り組みにもチャレンジしていきたいですね。

(インタビューアー:小倉 大地雄)

 


 

JSAAは昨年廣澤聖士氏、木村和希氏の2名を理事に加え、現在は理事5名体制で活動しています。それぞれが本業を持ちながらの活動ですが、引き続きスポーツアナリスト及びスポーツアナリティクスの認知拡大に努め、スポーツアナリストの活躍の幅を広げ、その社会的価値を向上させるべく活動して参ります。

JSAAが運営するオンラインコミュニティ「JSAA Lab」には現在500名近い方々にご参加いただいています。ご興味ある方は是非「MEMBERSHIP」をご確認の上、ご登録下さい。また、JSAAとの事業共創や連携などにご興味のある企業・団体の方もコンタクトフォームにてお気軽にお問い合わせ下さい。