第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。
第5回は、バレーボールアナリストの渡辺啓太(日本バレーボール協会)に聞きました。日本スポーツアナリスト協会の代表理事でもある渡辺が、アナリストになったきっかけやアナリストとしての心構えを語ります。
やることに終わりがない
−アナリストになったきっかけを教えてください
高校生のとき、バレーボールの国際大会を見に行ったら海外のチームがベンチにパソコンを持ち込んでいるのを見て、データ分析に興味を持ちました。最初は所属していた高校で自分なりのスコアブックを作り、紙で分析をしていました。その後もバレーボールとデータに関わることがやりたいと思ったので、そういった基準で大学を選びました。大学に入ってからも、1~2年生の頃はExcelにデータをまとめていましたね。当時はプロが使っているような高級なソフトが欲しいなんて言えませんでしたから。
日本代表のアナリストになったのは2004年、大学3年生のときでした。全日本女子バレーチームは2000年のシドニーオリンピック出場を逃したこともあり、その頃はなんとしてもオリンピックに出なければいけない状況でした。当時の柳本晶一監督がチームを作る際に、大学の先生がメインのアナリストをやっていたので、そのサポート班として呼ばれたのが代表に入ったきっかけです。
−アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?
「チームが目標としている成果を達成し、そこに自分が少しでも貢献できていると感じることができたとき」です。
これはアナリストとしてというより、選手を一番近くでサポートさせてもらうスタッフとしてやりがいを感じた瞬間ですが、リオオリンピックでは選手がオリンピックという舞台で自分の持っているもの、今まで積み重ねてきたものを発揮できるよう、応援メッセージをまとめた映像を作りました。選手たちにとって一番近い存在が家族だと思ったので、家族一人ひとりにお願いの手紙を出して、応援のメッセージボードを手作りで作ってもらったんです。オリンピックでは選手たちが持っている力をなかなか発揮できていなかった中、映像を見せたあとのアメリカ戦では選手たちが全力でぶつかった感じが見えたので、自分にできる最大限のことをやったなという満足感はありました。
−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?
やることに終わりがないことです。例えばバスに乗っている10分間でも映像を見ていれば何か相手の弱点に気付くかもしれないし、チームの修正点にも気付けるかもしれない。そういう限界がないことが大変だなと思います。
大会前にどれだけ準備ができているのかによって、大会中にできる分析の範囲が決まります。大会前にはひと通りの準備を終え、アウトプットの型ができていることが重要なんです。大会中は常に最新の情報が発生しますし、情報量もたくさん入ってくる時期なので、大会中も準備が大変です。大会が終わってからはきちんと反省をしなければいけないですし、それが翌シーズンの指針や選手選考にも関わります。そこまでやってアナリストとしての仕事をまっとうするという感じなので、どれも大変です。
−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?
ツールは「データバレー」ですね。「データバレー」は他のツールとは違い、バレーの分析に特化しています。例えばセッター分析で言うと、セッターがトスをどこに上げたのかがビジュアル的に分かりますし、分析のメニューも専用のものが豊富に整っています。
欠かせない情報として数字はたくさんありますが、それ以前に監督やチームがどういうマインドを持っているか。何を目標に、何をアナリストに求めているのか、そういうすり合わせができていることが必要だと思います。コーチでも担当分野によって求めるものが違いますし、まずはそれらのニーズに100%応えること。そこにいかにプラスαの情報を付け加えられるかどうかが重要だと思いますね。
アナリストの価値を認めてもらえるスポーツ社会に
−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?
「選手たちを目標達成に導くために、情報面で高いレベルでの専門性を備えたサポートをすること」ですかね。私は監督や選手たちに対しては「社長秘書」のような感覚を持っています。意志決定者に必要な情報をいかに最適な形にして提供できるか。情報でいかに貢献できるかだと思います。
−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?
バレーボールと同じ、ネットを挟む競技であれば知識などを転用しやすいかもしれないですね。ただ、個人競技のアナリストもやってみたいです。チームスポーツだと支援する範囲が広いので、サポート内容が成果に直結しないこともあります。個人競技であれば、すべて結果に直結しますし、1人が求めていることに全力を注げるので、そういう点で個人競技にも魅力を感じます。
−アナリストになってなければ、何をしていた?
スポーツアナリストでなければ、他の業界のアナリストをやってみたいですね。情報を武器に人や企業を助ける仕事をしてみたいです。データを見るぐらいしか能がないので(笑)。
データの見方については、昔は与えられたことに応えるので精一杯でしたけれど、今はその先を考えて新しいものを考えたり、少し広い視点で物事を見ることができるようになりました。
−今後の目標、夢は何?
多くの人たちがスポーツアナリストになりたいとか、アナリストになってよかったと思えるような世界を作ることが私のミッションだと思っています。
トレーナーやメディカルスタッフであればスポーツの世界で生涯生きていく人がいますし、そういった前例があります。スポーツアナリストにはそれがない。自分がずっとトップランナーで走り続けて前例を作れればいいと思っていましたけれど、それだけでは足りない。だからJSAA(日本スポーツアナリスト協会)を作りました。アナリストの価値を認めてもらえるようなスポーツ社会にしたいです。今後もスポーツアナリストとしての職能を磨いていきたいですし、磨けるような環境や機会を準備していきたいですね。
自分が貢献できる「尖ったもの」を
−アナリストに必要な資質は?
アナリストの仕事には終わりがありませんし、終わりは自分で決める職種です。なので、「主体性を持って考え、自ら行動を起こしてやり抜く力」が必要だと思います。チームやアスリートの役に立ちたいと思う「熱いハート」だったり、プロフェッショナルであるかぎりはどんなリクエストに対しても「NO」と言わないことも重要ですね。限られた中でも最善を尽くして期待に沿うもの、期待以上のものを返すことが大事ではないかと思います。
それは私がずっと心掛けていることですし、後輩にも伝えていることです。自分にしか示せない価値が何なのかを分かっていないと、存在意義がなくなってしまいますからね。
−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
アナリストの領域はコーチに近いと思います。ですが、コーチや監督にはない視点や能力で選手のパフォーマンス向上に貢献できることが必要だと思います。
私はバレーボールの知識ではだれにも負けない、1番になろうと思いましたし、コーチとは違う何かを持っていないとアナリストにはなれないと感じました。何かひとつでいいので他の人にはない、自分が貢献できる「尖ったもの」を作ればいいのではないかと思います。
(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)
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