Pick Up Analyst

2016.10.14

スポーツアナリストは「なりたいと思えばなれる」

池袋晴彦

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。

第4回は、リオデジャネイロ五輪で複数のメダルを獲得した卓球日本代表を支えた池袋晴彦氏(独立行政法人日本スポーツ振興センター)に聞きました。

メダルを獲った時は重みを感じた。ほっとした。

−アナリストになったきっかけを教えてください

京都の中学校で教員をしていましたが、先が見えるというか、このまま行くのはどうかと考えたのと、もう少しスポーツの勉強をしたいなと思い、辞めて、2012年4月からスポーツマネジメントを勉強するため上京し、筑波大の社会人大学院に入りました。

ロンドン五輪に向けた日本スポーツ振興センターのマルチサポート事業(現在のハイパフォーマンスサポート事業、メダルの獲得が有望な種目に対し、集中的に専門的な支援を行う事業)の一員として、筑波大の先輩が日本卓球協会の医科学委員会にいて、その補助のような仕事をアルバイト的にやることになりました。その数か月後には、卓球の映像分析担当ということで、運よくロンドン五輪にも行くことができました。改めて、2013年7月から、リオデジャネイロ五輪に向けた同事業が始まり、卓球男子の映像担当として契約しました。流れというか、タイミングがよかったと思います。

−アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

リオデジャネイロ五輪で水谷(隼)選手が銅メダルを獲得した時でしたね。ロンドン五輪での試合も見ていて、その後の祝勝会に呼んでもらった時に、たまたま水谷選手と同じテーブルだったんですよ。女子が銀メダルで盛り上がっている中で、(メダルが獲れなかった)水谷選手を含めた男子の残念そうな雰囲気は対照的でとても記憶に残っています。遠征で一緒の時間を過ごすことが多かったですし、モチベーションビデオを作成したときに2008年の北京五輪でも負けているのは知ったので、その分、メダルを獲った時の重みを感じました。ほっとしたというか、本当によかったなと感じました。

−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

他競技のアナリストの方は寝ないで頑張っているという話をよく聞きますが、私は五輪期間中もちゃんと寝ることができました。むしろ、五輪の前になるべく上位のシードを得るためのポイントを計算する期間が大変でした。卓球の世界ランキングは、上位の選手に勝てば大きく増え、下位の選手に負ければ大きく減るポイント(レーティングポイント)と、大会の成績でもらえるポイント(ボーナスポイント)、棄権した際のペナルティポイントの3種類の合計で決まりますが、その1試合ごとの計算をエクセルで表をつくって、やりました。最終的には監督が(選手を)大会に出す、出さないの判断にも関係しますので、必死でした。

団体の出場国のすべての選手が関係したポイントの算出方法で、特に男子団体でメダルを目指すには、第4シード以内を確保することが重要で、5位に転落する可能性もあったので、日本の選手だけではなく、ライバル国のドイツ、韓国、ポルトガル、香港の選手の分も計算しなければなりませんでした。ロンドン後は、ずっと第2シードを狙っていたのですが、結果的には第4シードを取ることができました。

−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?

ソフトウェアはスポーツコードを使っています。映像にデータを紐づけていきますが、今のところ、一つのラリーで入力する情報はそれほど多くなくて、何球目に決まったか、サーブの出し方の3つの分類、サーブのコースの9つの分類、レシーブの4つの分類、得点の推移という程度です。どれが多いというような数字を出力して見ることもできますが、選手やコーチは数字で見るよりは、映像をずっと通しで見て気付いたことを大事にしているようです。メモを取りながら見ている人もいます。30分程度の試合であれば、10分くらいで見られるように編集しています。

スポーツアナリストは『準備のための準備をする人』

−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

難しいですね。自分の役割をアナリストと名乗ることには少し抵抗があります。映像を編集したり、探して集めて渡したりするので、どちらかというと、ビデオコーディネーターに近いような感じです。モチベーションビデオを作成したりもします。

アナリストの定義を敢えて言うなら、ラグビー日本代表アナリストの中島(正太)さんが言っていましたが、『準備のための準備をする人』でしょうか。卓球においてだと、選手や監督、コーチが準備しやすいように、映像を用意して渡しています。ちょっとでもいいイメージで、もしくは、ちょっとでも不安を取り除いて、試合に臨んでくれたらいいなという気持ちでやっています。ほんのちょっとかもしれませんが、大舞台になるほど、そのちょっとが大きいと感じます。

−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

ないですね。大学4年まで自分でも卓球をプレーしていましたし、普段接している選手はトップクラスで、日本代表のコーチ陣も全日本優勝経験者というクラスで、何でも聞くことはできますが、それでも卓球についてわからないことがあります。卓球のデータ分析もまだまだ発展途上で、例えば、競技の非常に重要な要素である、ボールの回転や軌道に関する分析はまだ手を付け始めたばかりです。もし、メジャーリーグのようにボールのトラッキングの分析が詳細にできるようになると革命ですね。体の使い方の分析ももっとできます。卓球ですらこうなのに、他競技はできないですね。

−アナリストになってなければ、何をしていた?

教員を続けていたでしょうね。中学1年生から3年生というのは、すごい成長を見届けられたので、やりがいは非常にありました。辞めて東京に出てきた時も、免許が失効しなければ、また教員採用試験に合格すればいいと思っていました。今でも、教え子とはつながりがあって、私がメディアで取り上げられた時には、『その道で頑張っているんだ』などと反応があったりします。担任ではなかったのですが、授業で教えていた子が水泳選手として成長して強豪大学に入って、ナショナルトレーニングセンターで会えた時はとてもうれしかったですね。

−今後の目標、夢は何?

リオ五輪までは、何が何でもメダルを獲るという目標でやってきました。(日本代表男子の)倉嶋(洋介)監督も『メダルを獲るのは夢じゃない。宿命だ。このメンバーで歴史を変えよう。メダルを獲得すれば将来、このメンバーで男子初のメダルを獲得したとずっと語り継がれるはずだ』と試合の始まる前日のミーティングで言っていました。とても印象に残っていますし、感動しました。

ライバルと見ていたドイツや香港は倒して、中国も思った以上に慌てさせたと感じました。ここから上がる坂道はより急になると思いますが、これからは本当に、『中国を倒す』ということを目標として言えるのではないでしょうか。私自身は契約が2017年3月で切れるので、今(取材は2016年9月に実施)はなんとも言えませんが、何らかの形で、中国を倒すことを少しでもサポートできれば、と思っています。

スポーツアナリストは『なりたいと思えばなれる』

−アナリストに必要な資質は?

コミュニケーション力だと思います。競技の分析ができるのは仕事として当たり前で、監督や選手が本来のパフォーマンスを発揮できることが最終目標。その間で、自分の言ったことを受け入れてもらえるような能力がないと厳しいですね。アナリストは難しい研究内容や医科学的な分析を、若い選手たちに分かりやすく伝えることが求められます。

私が入った時は前任者もいなかったので、練習の時に球拾いをしたり、「暇なんですか」とか、いじられたりもしながら、選手に映像担当の人としてきちんと認識してもらうのに一年はかかりました。卓球の場合、十代の選手も多くて難しいところもあるのですが、教員の仕事を通じて、そういう年代の人とのコミュニケーションに慣れていたのは、役に立った面もあるかもしれません。

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
なりたいと思えばなれる、と私も思います。検索してこのサイトにたどりついているような人は、すでに足を踏み入れていますよね。セミナーや講習会の情報を調べていけば、私たちのようなアナリストに接することもできます。ぜひ、そういう学生に助けてほしいです。それから、アナリストを経て、コーチになる人が出てきてもいいですし、コーチになりたい人もアナリスト的な知識は持っておいた方がいいと思っています。コーチが自分で分析用のソフトを扱い、映像の分析という方法を含めて、いろいろなアプローチをすれば、よりよいコーチングができると思います。

(インタビュアー:早川忠宏)

アナリストプロフィール

アナリスト

池袋晴彦 氏

日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス分析スタッフ/日本卓球協会情報戦略グループ

2006年筑波大学体育専門学群卒業、2014年筑波大学大学院人間総合科学研究科健康スポーツマネジメント専攻修了。小学校6年より卓球を始め、大学卒業まで競技経験がある。大学卒業後、京都市立の中学校に保健体育科の教員として勤務。卓球部の顧問でもあった。2013年から現在まで、日本スポーツ振興センターハイパフォーマンスサポート(旧マルチサポート)事業パフォーマンス分析のスタッフとして、卓球日本代表チームに向けた映像分析サポートを担当。練習場では、高速度カメラを使用してピン球の回転の撮影を行うこともある。

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