Pick Up Analysts

2017.11.1

自ら「データを持ってる人」になることが、スポーツアナリストになる第一歩

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第12回は「巧みなワザやコツの可視化」をテーマに、スポーツ選手のパフォーマンスを定量的に評価する研究に取り組んでいる、永野智久氏(&SPORTS 代表、慶應義塾大学非常勤講師)に聞きました。

欲しいデータがあれば自分でハードウェアを作ってもいい

-現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。

慶応大学在学中に人間工学の研究室に入ったのがきっかけです。研究室に人の視線を測る装置があったので、人がスポーツしている時、どこを見ているのか調べてみたいと思い、研究を始めました。人が「いつ」「どこで」「何を」見たかで、プレーヤーの意図が分かるのではないかと考えました。

また、研究を始めた頃、創業直後のデータスタジアム社でスポーツデータを入力するアルバイトを始め、スポーツのプレーデータに触れる機会が増えました。大学院に進んだ後も研究を続け、教員になり、「データ獲得法」という講義を担当することになり、データスタジアムの担当者をゲストに呼んだりしているうちに、「スポーツ」と「データ」を組み合わせた仕事が増えていきました。そもそも研究する立場だったので、実験をしてデータを取るのが当たり前の環境ではあったのですが、実際の競技現場でのリアルなデータにはなかなかリーチできるものではありません。

 

-アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

主観的に目で見ているだけでは気付かなかった事象を発見した時です。

 

-これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

どんなデータが計測されるかは、自分でコントロールできないので、いつも大変です。

例えば、監修・実験を担当した、NHKスペシャル「ミラクルボディー」でサッカースペイン代表のイニエスタやシャビのデータを計測した時は、限られた時間の中で出来ることをやらなければならないため、臨機応変に対応する必要がありました。そのための予備実験も入念に時間をかけて行いました。

研究も、実際の試合も、仮説の通りには進みません。研究結果は、データが揃って、質と量が伴い、再現性がなければ発表できませんので、発表出来るような結果が出るまで、現場では臨機応変に対応し続ける事が求められます。

 

-スポーツの分析に欠かせない情報やツールは?

ハードウェアとして、目線を計測するアイトラッキングシステムやGPSデバイスをよく使います。ハードウェアからCSVのような生データを吐き出して、Excelを使って簡単に加工しています。

より詳しく分析するときは、「IBM SPSS」や「R」のような専門的な統計ツールを使ったり、専門家に協力を依頼します。計測しているデータの量はそこまでビッグデータではないのですが、データを加工するのは大変な作業を要することがあります。

アイトラッキングが出来るハードウェアには、外向きのカメラと内向きのカメラがついています。外向きのカメラが被験者の視野を記録し、内向きのカメラが目の動きを記録しています。目の動きを計測する時は、事前に目がどのように動くのかハードウェアに読み込ませます。これを「キャリブレーション」と呼び、実験中は事前に測定した基準値を元に計算させています。今はハードウェアが進歩して、キャリブレーションも簡単になりました。

ただ、今後ハードウェアを使ってこれまでにない必要なデータを計測したい人は、「自分で計測するためのハードウェアを作れなければ、欲しいデータがとれない」という事も起こり得るかもしれません。

 

スポーツアナリストは「情報で相手の心を動かす仕事」

-自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

チームや競技によって違うと思いますが、チームの中で現象を定量的に、客観的に、可視化して伝えていく仕事だと思います。チームによって役割は異なると思いますが、人と人をつなぐポジションだと思います。

 

-自分が他競技(サッカー以外)のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

テニスのようなネットスポーツ、攻撃と守備が交互に入れ替わるスポーツの分析をやってみたいです。あるいは、全く競技になっていない鬼ごっこのような競技のアナリストでしょうか。鬼ごっこで自然に発生する駆け引きの回数といったデータなどを分析することで、他の競技や生活に活かせる汎用的なデータが計測できないか考えたことがあります。

 

-現在の仕事に就いてなければ、何をしていた?

愛媛の実家の仕事を継いだり、愛媛のサッカーチームをサポートしていたかもしれません。愛媛FCやFC今治はいつも気になりますね。

 

-今後の目標、夢は何ですか?

今後は少年少女や親も含めて、グラスルーツでデータを気軽に活用出来る環境を作りたいと考えています。トップアスリートはデータを使える環境が整いつつありますが、グラスルーツは伸びしろがあります。他には、多くの子どもたちが、大好きなスポーツを通して、将来、ハッピーになれるスキルや、仕事(学業)で発揮できるスキルを、自然に学べる場を作るような活動をしていきたいです。

 

-どんな人がアナリストに向いている?アナリストに必要な資質は?

我が強くない人です。そして、伝える相手の視点に立って、相手の欲しい情報を提供できて、情報で相手の心を動かす仕事なので、ビジュアルでも、数字でも、相手の心が動く情報を提供することが必要です。

 

-どうしたらスポーツアナリストになれるのか?

データスタジアムさんに聞いてください(笑)。それは冗談ですが、データスタジアムさんでなくても、まずは自分で行動して、データに触れられるチームに所属したり、自らデータを計測して「データを持ってる人」になる事が、スポーツアナリストになるための第一歩だと思います。

 

(インタビュアー:西原雄一)

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アナリストプロフィール

アナリスト

永野智久 氏

&SPORTS 代表、慶應義塾大学非常勤講師

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科にて博士号(学術)を取得。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)にて10年間教員を務め2015年10月より現職。研究室からはJリーガーも輩出。専門はスポーツ心理学、人間工学。「巧みなワザやコツの可視化」をテーマにスポーツ選手のパフォーマンスを定量的に評価する研究に取り組んでいる。これまでNHKのスポーツサイエンス番組も多数監修(ミラクルボディー「スペイン代表編: シャビとイニエスタ」のプレーや「中村俊輔選手の卓越した戦術眼」を科学的に分析)。またいくつかの大学にて「スポーツのデータサイエンス」という講義を担当し、スポーツアナリティクスの教育活動にも従事。日経ビジネス、Yahoo!ニュース個人(スポーツ)、サッカー専門誌にも分析記事を寄稿。

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