Pick Up Analyst

2018.1.17

映像で見てもらって、解釈を引き出したい

平野 加奈子

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第13回は、リオデジャネイロ五輪女子ダブルスでの金メダルを始め、近年、世界大会での活躍が目覚ましいバドミントン日本代表を支える平野加奈子さん(日本スポーツ振興センター)に聞きました。

 

-アナリストになったきっかけを教えて下さい

スポーツを支える仕事をしたかったので、卒業後の進路として、地元に帰って体育教員になることを漠然と考えていました。大学4年で選手を引退した後、2010年の秋に、教員という選択肢にはどこか納得できないところがあったものの、実家に帰って非常勤講師の願書を提出しました。ところが、提出して筑波に帰ってきた翌日、所属していたバドミントン部の吹田監督から日本代表のビデオ係を探しているという話を聞きました。言われてすぐ「やってみたい」と思い、親にも電話して伝えました。すべての遠征に同行できる人とも言われていたので、ロンドン五輪までの2年ほどで、いろいろな経験ができればいいな、というくらいの考えでした。

それまで、JISS(国立スポーツ科学センター)の映像分析の講習会に出たこともありましたし、試合に出ない時は大学のチームのために撮影や編集をしていました。2011年に入って、3か月間はアルバイトとして、4月からは正式にロンドン五輪に向けた日本スポーツ振興センターのマルチサポート事業(現在のハイパフォーマンス・サポート事業、メダルの獲得が有望な種目に対し、集中的に専門的な支援を行う事業)の一員としてやっていく形になりました。最初の頃は、JISS研究員の方からビデオや分析ソフトの使い方を習い、選手やコーチとの接し方もその人たちの姿を見て学んでいきました。

 

-アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

もちろん、試合に勝った時はうれしいです。オリンピックや世界選手権でのメダル獲得や、2014年のトマス杯(男子国別対抗戦)の優勝のシーンなどははっきりと覚えています。でも、やりがいを感じる瞬間というと少し違うかもしれません。

試合中はビデオのスイッチを押した後に、いろいろと考えながら見ているのですが、代表の選手たちがいつもと戦い方を変えていることが分かった時など、「提供した情報が役に立ったのかもしれない」と思える瞬間があります。リオデジャネイロ五輪で早川賢一、遠藤大由組の試合を見ていた際には、コーチがあの時に映像を使ってこんなアドバイスをしていたなとか、それまでの4年間で積み重ねてきたこと、過去の歩みが見えて胸が熱くなりました。

もう一つは、選手とコーチに映像を見せながら話をしている時に、「あ、気付きがあったな」という反応があった瞬間です。選手やコーチは日々、自分たちで試合の映像をチェックして各大会に臨んでいます。でも、リクエストを受けて私が映像やデータを編集し、必要な情報を絞ってデータを提供してみると、「やっぱりこうだったな」「いや、ここは違ったな」など新たに気が付くこともあるようです。分析をしている最中は、それが本当に選手やコーチにとって有効なデータとなるのか、不安な気持ちになったりするので、選手やコーチからのポジティブな反応は励みになります。

分析の方法は発展途上。選手やコーチの要望に応じて

 

-これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

バドミントンの分析の方法は、まだ発展途上だということですね。私がこの仕事を始める前は、JISSの映像サポートの方が様々な競技の映像を撮っている中の一つとしてバドミントンがあって、年に1、2回は撮影と分析をしてもらっていたと聞いています。その方法をベースにしつつ、どのようにして、どんな情報を出せるのか、どうすればそれをわかりやすく見せられるのかということは、今も日々模索しています。以前は数字のデータと映像を一緒に見るというのが簡単にはできなくて、数字を入れたExcelの表に映像をリンクさせることを手作業でやったこともありました。今はソフトやアプリが進化して、かなり直観的に操作できます。

バドミントンの場合、サービス、サービスレシーブの場面や得点の決まり方、打球のコースなどが基本的な分析項目ですが、応用としてはその都度、その都度の選手やコーチのリクエストに応じて項目を変えています。

 

-分析に欠かせない情報やツールは?

ビデオとパソコン、それからスポーツコードというソフトです。スポーツコードは自分で分析コードを追加したり、組み合わせたりすることができるので、リクエストに応じて分析内容を変えている私たちには必須のツールとなっています。例を挙げると、相手コートの右後ろから自分のコートの左前に来たらどこに打ち返しているのかの傾向を分類して見せたり、ある選手の調子がいい時と悪い時の映像を並べて、比較して見せたりすることもできます。

私は数字だけでなく、映像も併せて提供することを心掛けていて、サーブなど同じ状況の映像をまとめて見せると、コーチは打球コースの傾向はもちろん、選手の体の動きなどから傾向や手掛かりを発見することがあります。選手やコーチが疑問に思っていることをはっきりさせるために「こういう情報が欲しい」と要望されて、それを解決できるような情報を提供するのが私の役割ですが、映像を編集する中で「こういう発見がありました」という提案をするようにもなってきました。例えば、同じ相手に対して、日本のあるペアは勝率が高いのに、あるペアはなかなか勝てない場合、戦い方で何が違うのかを探るといったことです。

平野 加奈子

意思決定するための判断材料を揃える仕事

 

-自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

コーチや選手が意思決定するための判断材料を揃える仕事だと思います。試合の映像を編集せずに渡すのも判断材料ですし、加工して渡すのも材料です。アナリストというと、自分が考えた戦術をチームが使う、というくらいのイメージを持っていますが、私自身はそうではないなと思います。

分析した結果を映像で見てもらって、解釈を引き出したいんです。なぜそれが起こったのか、そこにどんな意図があったのか、私には分からないことも多いです。一つのショットに対しても、対策の選択肢はたくさんあります。分析をする、作戦を立てるのは、コーチや選手というのが私のスタンスです。

コーチとのコミュニケーションは、「こういう情報が必要」と言われることもあるし、もっとぼんやりとした話からいろいろとやり取りをする中で、必要な情報を集める道筋が見えることもあります。コーチによって様々です。昔はビデオ係に徹していましたが、2013年頃から自分から質問を投げかけるようになりましたね。そうすると、「以前と同じことを課題にしているな」とか、「コーチが言っていることに変化がある」などと感じられますし、求められていることがよりわかるようになりました。

 

-自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

難しい質問ですね。パッと思い浮かんだのは、格闘技系というかレスリング、柔道のような競技ですね。タイムなど記録を争うものではなく、球技でもなく、団体競技でもないもの。対人スポーツですが、道具を使わないものをやってみたいですね。駆け引きの部分が大事な競技に関心が高いというか、自分は数字よりも映像で見て何かを発見するということに興味を持っている気がします。分析はとても難しいだろうなとは思いますけれども。

 

-アナリストになっていなければ、何をしていた?

スポーツに関わる仕事がしたいとは思っていて、体育の教員というのは、その選択肢の一つとして考えていました。スポーツに関わる仕事といっても、当時はあまり知らなかったというところもありました。当初はロンドン五輪を区切りにして、その後は教員になると言っていましたが、終わってみると気持ちはすっかり変わっていて、さらにアナリストを続けることにしました。この仕事を通じて視野が広がりました。毎月のようにある海外遠征では、他国のコーチやスタッフも結構オープンに話をしてくれますし、日本のナショナルチームのコーチも韓国、インドネシア、中国の出身者がいて、いろいろな国のいろいろな話を聞くことができます。そういう環境に巡り合えたことは、本当に恵まれていると感じています。

 

-今後の目標、夢は何か?

2020年の東京オリンピックまでは、代表チームのサポートを頑張っていきます。全種目で、メダルのチャンスがあると思っているので、地道にこつこつと頑張っていきたいです。今の契約はそこまでで、その先のことはわかりませんが(取材時は2017年12月)、将来的には、海外に行って仕事をすることは挑戦してみたいことの一つです。

ナショナルチームのコーチにもいろいろな国籍の方がいて、考え方の違いは面白いなと思います。JOC(日本オリンピック委員会)の国際人養成アカデミーにも参加させてもらい、英語を学んだり、様々な競技の国際部がどんな活動をしているのかを聞いたりしました。アナリストではないかもしれませんが、バドミントンに関わることはやっていきたいと思っています。

選手やコーチの考えを知るコミュニケーション力が重要

 

-アナリストに必要な資質は?

私の定義したアナリストで言うと、「コミュニケーション力」ということになるのでしょうかね。何を分析するのかが大事で、コーチや選手が考えていることがわからないと、それは出せません。やり取りを重ねていく中で、見つけ出していくことが必要です。また、伝えたいことがある場合に、相手の状況や伝えるタイミングを考えることも重要です。

それから、自分に欲しいのは何らかの専門性です。私は大学までバドミントンの選手経験があったことで採用してもらえたと思っていますが、学術的なバックグラウンド、例えば、バイオメカニクスや統計学などの知識があるとよかったのに、と思うことがあります。アナリストの中には、その専門的な内容をいかにわかりやすく伝えるのかに優れている方々がいます。説明すること、伝えることが大事な仕事だと感じています。

 

-どうしたら、スポーツアナリストになれるのか?

他のアナリストの方と同じですが、なろうと思えばなれるものだと思います。他競技では、インターンの形でアナリストをやっている学生もいますので、そういう形で経験を積むのも選択肢の一つですよね。実際にやってみないとわからないことが、たくさんあります。あとは、探求心も必要な資質の一つかもしれません。自分なりの考えを持ちながら継続していかないと発見はありません。

女性のアナリストは、まだ少ないかもしれませんね。時々、「女性アナリストだからこそ気づくことはありますか」という質問をされることがありますが、自分なりの明確な答えは出ていなくて。バドミントンでは、私よりも後に韓国とマレーシアにも女性がアナリストに採用されました。国内では、バスケットボールやバレーボールなどにも女性アナリストがいて、「女子アナ会」というつながりも作ろうとしています。まだ知り合っていない方もいますし、もっと仲間が増えて欲しいですね。

(インタビュアー:早川忠宏)

アナリストプロフィール

アナリスト

平野 加奈子 氏

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンス・サポート事業 映像・分析

1988年香川県生まれ。10歳から筑波大学卒業時までバトミントンの競技経験があり、全国大会にも出場。2011年から現在まで、バドミントン日本代表チームに向けた映像分析サポートを担当し、年間ほとんどの国際大会に同行。2012年ロンドン五輪での女子ダブルス銀メダル獲得を皮切りに、2014年トマス杯(男子国別対抗戦)優勝、2016年リオデジャネイロ五輪女子ダブルス金メダル・女子シングルス銅メダル獲得、2017年世界選手権での金1、銀1、銅2のメダル獲得などに貢献した。日本オリンピック委員会 情報・科学サポート部門 部門員

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