Pick Up Analyst

2018.1.24

リソース不足はスポーツ界全体の課題 システムやツールで解決のお手伝いをしたい

佐宗 龍

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第12回はSAPジャパン株式会社でスポーツビジネスの立ち上げを担当した佐宗龍氏に聞きました。佐宗氏はSAPの製品を用いて、サッカーやバレーボールの「チーム強化」や「マーケティング活動」の支援を行っています。

きっかけはサッカードイツ代表のW杯優勝

 

−アナリストになったきっかけを教えてください。

会社では「エンタープライズ・アーキテクト」と「スポーツイノベーション推進」という2つの肩書きがあります。「エンタープライズ・アーキテクト」はスポーツとは関係なく、企業のお客様に対してビジネス要件や業務プロセスからシステムの最適化を図り、弊社のソフトウェアを使っていただけるようにデザインするのが仕事です。「スポーツイノベーション推進」はドイツの本社で開発しているアプリケーションや、スポンサーシップの中で共同開発・研究しているアプリケーションの日本での展開、それらのアプリケーションを利用し、日本のスポーツチームや選手をサポートするような活動です。

スポーツに関しては、普段の仕事のプラスアルファとしてやっています。2014年のサッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会でドイツ代表が優勝しましたが、テクノロジー面をSAPがサポートしていたことが話題になった頃から携わるようになりました。そこからスポーツ業界だけではなく、スポーツ業界からヒントを得た他業種・業態を含めた多くのお問い合わせをいただくようになりました。

仕事でデータ分析をするソフトウェアを販売する技術営業を担当していましたし、個人的にも野村克也さんのID野球とか配球論が好きで、データスタジアム社への転職を考えたことがあるくらい(笑)、データやスポーツが昔から好きでした。なので、「スポーツイノベーション推進」の仕事もそこまで敷居は高くなかったですし、業務量が増えても苦にならなかったですね。

 

―アナリストとしてやりがいを感じる瞬間は?

会社の仕事としては、協会やチーム、もしくは大会に対してライセンス、もしくはサービスやコンサルティングを販売することがゴールになるので、最終的にはそこへつながらないといけないという思いがありますし、それが会社の評価に繋がるので、ひとつのやりがいです。ただ個人としては、選手やチームの課題をお聞きして、それが自分たちの製品で解決できる事が分かったり、一緒に検証していく中で正解が出ているような解析ができた時は非常にうれしいです。

ただ、私たちの活動が直接勝利に貢献するとか、メダルを獲るということが短期的には少ないので、そこは悩ましいといえば悩ましいですよね。

 

−「スポーツイノベーション推進」担当として、一番大変なことは?

一番は社内で勝手に名乗っていた役職が、いつの間にか普通に仕事として社内外で認知されていることでしょうか(笑)。

真面目な話をすると、個人として大変ということではないのですが、チームや協会に自社の製品を提案したときに、使いこなす「人」と「時間」が不足しているというお話をよく聞きます。リソース不足の話を聞くとスポーツ界全体の課題として、大変だなと感じますね。

皆さんプレーデータやスタッツに触れる機会はあり、重要なものだと認識されていると思うのですが、溜まったデータで何をしたらいいのかが分からなかったり、日々の業務に追われていて、そこに新たなリソースを割くことができないのかなと思います。そのような状況の中でうまくシステムでお手伝いできないかなというのは思っています。

 

−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?

社内にはサッカーのドイツ代表やバイエルン・ミュンヘン、ホッフェンハイムにずっと帯同してチームのニーズを聞き、そのニーズを元にアプリケーションを共同開発している人がいます。一方でドイツの4部リーグのような小さなクラブにも導入していただいているので、SAP社内にはグローバルのさまざまなナレッジが蓄積されています。そういう情報をキャッチアップするためのコラボレーションツールが社内にあるので、それが一番の欠かせないツールになっていると思います。

あと、SAPはお客様に製品をイメージしていただくために動画を作成しています。プレゼンをするときはパワーポイントで作成した資料をお見せすることが多いですが、動画をご覧いただくとお客様に腹落ちしていただけるので、製品紹介や活用事例の動画も欠かせないですね。

SAPJAPANの「YouTube」公式チャンネル

「的確な情報」を「限られた時間」で「いかに伝えるか」

 

−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

私自身は、協会やクラブに対してアプリケーションの導入などのサポートを行っていますが、クラブで実際にツールを使うコーチとお話することはあっても、選手個人に対して直接サポートやお話をすることはほぼありません。なので、「スポーツアナリスト」よりは1、2歩引いている立場だと思っています。やはり、現場で選手と直接的な絡みがあるというのがひとつ重要な要素ですね。

私はリオデジャネイロ五輪までバレーボール全日本女子チームのプロジェクトをサポートしていました。その中で携わった渡辺啓太さん(JSAA代表理事)たちの仕事を見ていると、膨大なデータが取得できる中で、「的確な情報」を「限られた時間」の中でうまく伝えるという点がすごいと思いました。情報分析するだけではなく、「いかに伝えるか」。そこまで考えられる人が「スポーツアナリスト」だと思います。

 

−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

バレーボールに加えて、サッカーと野球は仕事で携わって分析したことがあります。今、興味があるのは「セーリング」ですね。10月に日本で初めてセーリングのW杯が開催され、SAPの分析の仕組み「SAP Sailing Analytics」を使われる予定です。

セーリングワールドカップ2017 愛知・蒲郡大会 

SAPの製品で風と位置情報をリアルタイムにトラッキングできますが、それに加えて、過去のレースデータを元に、現状の風、波のだったらどんなコース取りをすれば最速のタイムが出せるのかシミュレーションもできるようになっています。元々は海に出たらどの艇が勝っているのか分かりにくいので、ファンエンゲージメントのために可視化する製品だったのですが、技術的な進歩によってこういった活用もされるようになりました。

 

−アナリストとして現在の仕事をしていなければ、何をしていた?

先ほどもお話しましたが、転職を考えたときにデータスタジアム社を選んでいれば、サッカー関係のデータを分析する仕事をしていたかもしれないですね。

現在の仕事は業種・業界を問わず様々なお客様にお会いする機会があります。日本のスポーツ界全体が変わろうとしている中で、私たちがその方達にスポーツ界の現状をお伝えしたり、別業界の常識やノウハウをスポーツ界に持ってくることで、何かスポーツ界が発展するお手伝いになればいいなと思っています。

佐宗 龍

求められる多様な能力、可能性は広がっている

 

−アナリストに必要な資質は?

「スポーツアナリスト」の方々の活動を見ていると、意外と体力的に「タフ」じゃないとできない仕事だなと思いました。それは「情熱」があるからかもしれませんが。

あとは「データや情報を読み解く力」は必要ですし、選手や監督への伝え方を見ていると、「コミュニケーション能力」も必要でしょうね。現状ないものを作るためには「コーディングやプログラミングの力」もいるでしょう。世界の最先端の情報を得ようと思ったら「言語能力」でしょうか。

データ分析も数字の羅列で表現をするだけでなく、「可視化・ビジュアル化」ができるとよりいいでしょうし、「AI」のような機械学習、統計解析のような「数学の力」も必要になるんでしょうね。

すべて必要だとするとかなり敷居の高い職業になってしまいますが(笑)、これらが全部あればどこでも就職できますよね。すべて必須ではないと思いますが、あると役に立つ能力だと思います。

 

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?

SAPにはスポーツアナリストではありませんが、アナリストやコーチの横にいて彼らに求められるデータやレポートを作っている人はいます。アナリストの補佐のようなイメージで、私が女子バレーでやっていたのもそれに近い仕事です。

われわれのパートナー会社の中でも、スポーツに関する事業部を作られている会社がここ最近は増えてきていますので、スポーツクラブや協会ではなく、一般の事業会社でもスポーツアナリストや、それに近い仕事をやるチャンスは増えてきているのかなと思いますよ。

 

(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)

アナリストプロフィール

アナリスト

佐宗 龍 氏

SAPジャパン株式会社 ソリューション統括本部 デジタル・エンタープライズ・プラットフォーム部 エンタープライズ・アーキテクト 兼 スポーツ・イノベーション推進担当

普段はエンタープライズ・アーキテクトとして、「企業のIT全体戦略の構想策定支援」、「ビジネスプロセスやアプリケーション・アーキテクチャーの最適化」、「IT基盤の統合・最適化」等を支援するアーキテクトとして活動。2014年のSAPジャパンにおけるスポーツ事業立ち上げ期から、ドイツ本社のスポーツ&エンターテイメント部門と連携し、グローバルでの取り組み事例を日本で展開。また日本ではチーム・選手強化向けの支援をしている。その取り組みの一環として、リオ・オリンピックまでの約2年、全日本女子バレーボールチームにも帯同。

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