Pick Up Analysts

2018.9.12

「こういうものが欲しい」と求められることがやりがい

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第17回は、1人の選手が水泳、フェンシング、馬術、レーザーラン(射撃+ランニング)を1日でこなし総合点を競う近代五種の日本代表を支える手塚賢二氏(日本オリンピック委員会専任メディカルスタッフ、同強化スタッフ)に聞きました。

近代五種は、五輪競技として100年以上の歴史を誇りますが、国内では競技人口が40人ほど。しかし、近年は徐々に国際舞台での実績を積み重ねています。手塚氏は、アナリストのみならず、トレーナーや強化スタッフなど複数の役割をこなしながら、年代別を含めた代表の合宿や遠征に同行しています。

-アナリストになったきっかけを教えて下さい

専門学校でアスレチックトレーナーの資格を取ってさらに鍼灸を学びながら、陸上の実業団などでサポートをしていて、翌年卒業するというタイミングで、学校の方に近代五種の協会がトレーナーを探しているという話がありました。アスレチックトレーナーの資格や陸上での経験など求めている条件に合うということで、2012年4月から日本オリンピック委員会スタッフという形で同協会での仕事を始めました。

最初は事務局での作業などをしていて、同年のロンドン五輪が終わって新体制となるタイミングで、トレーナーとして働くようになりました。それまでは(銃を扱うため)自衛隊と警察の所属選手ばかりだったのが、ロンドン五輪で初めてそれ以外の選手が代表に入ったということで、トレーナーも民間から探そうということになったそうです。

アナリストというか、ビデオ撮影を手伝うようになったのは、一人の選手からの要望がきっかけでした。現場にいるスタッフは限られています。フェンシングで対戦する相手の映像を見たいということで、スタンドから撮った映像をすぐに選手のiPadに送る形で始めました。

それから、馬術で使う馬は大会側が用意し、選手は抽選で決まった馬に乗って競技を行うのですが、馬の様子を撮影しておいて、特徴がわかるようにすることもやっています。今は、フェンシングの映像は対戦相手や大会名で検索して見られるようにしていますし、ランニングや水泳のフォームを撮影することもあったり、幅は広がっています。

 

-アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

やはり、競技の成績に反映された時でしょうかね。

フェンシング(1分間一本勝負の総当たり戦。勝率70パーセントを250点とし、得点が増減する)でポイントを落とさなかった時や、馬術(障害飛越で、300点から障害物を落とすごとに減点される)で大きなミスなく選手が帰ってきた時とか。リオデジャネイロ五輪の時は、出場する全選手の映像を集めてリスト化して、移動中や宿舎でも見られるようにしていました。その結果、女子は過去最高の12位(朝長なつ美)でしたし、男子も途中まではいいところにいました。

選手やコーチから「こういうものが欲しい」と求められることも嬉しいです。フェンシングの映像は、ポイントが決まった場面のスロー再生も加えているのですが、それは自分の感覚と比較できるということで喜ばれていますね。

一人何役も、現場では時間との勝負

-これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

ずっと一人でやっているという物理的なところでしょうか。最初の頃は、トレーナーの仕事とどう兼務していくのかが悩みでしたし、今も映像は一人で、撮りためて、分類のためのタグ付けをして、管理している。時間があれば、本当はもっと整理したりもしたいのですが。

試合の時も、日本の選手のグループが分かれて別の会場で競技をすることがあり、どちらを優先するのかを相談したり、コーチに頼んで映像を撮ってもらったりすることもあります。

あと、試合の時は、選手からは「映像を早く見たい」というプレッシャーが…。その気持ちはわかるので、種目の合間の時間にパソコンに取り込んで、できるだけ編集・加工して、試合の映像は、その翌朝にはすべて見られるようにしています。作業のスピードは昔より速くなっていますが、選手の体のケアをしっかりしてから取り掛かるので、夜遅くまでかかることもあります。

-分析に欠かせない情報やツールは?

パソコンとビデオカメラです。遠征にはマッサージベッドなどトレーナーとして必要な用具一式も持って行くので、飛行機で重量超過にならないように、カメラはコンパクトなものを。動画編集も(Apple社の製品にデフォルトで入っている)iMovieを使っています。撮影と編集のワークショップで学んだ当時はいろいろなことをやってみたくなりましたが、現場では時間との勝負になります。

つくりをこだわるよりも、やるべきことは決まっているので高価なソフトでなくても十分です。動画はYouTubeに限定公開でアップロードしています。映像リストもExcelで作成し、リンク先を張っているシンプルなものです。

ニーズに合わせて、できるだけ早く提供できる人

-自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

選手やコーチが求めるニーズに合わせて、映像やデータをできるだけ早く提供できる人、という感じでしょうか。

フェンシングの映像にスローを入れたのは、YouTubeで見たいところに戻すのはズレたりして意外と大変という声があったからですし、検索しやすいように映像のタイトルに、日付、大会名、選手名を入れるようにも変えました。自分の調子が良かった時のランニングや射撃の映像が見たいという選手もいますし、フェンシングで自分と同じ剣、スタイルで海外の強い選手の映像を参考にしたいという要望もありました。「こういうのない?」と聞かれた時に、「できますよ」と答えられるかどうかが問われますね。

 

-自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

そうですね。テコンドーのTV番組を見たことがあって、興味が沸いたことがあります。蹴りにもいろいろな技があって、その体の使い方やトレーニング方法を追求するのも面白そうですし、対戦相手を分析するという要素もあります。(技の種類により決められたポイントを多く獲得した選手が勝つ戦いなので)試合中は、力も使いながら、自分と相手のポイントを頭を使って考える作戦も重要で、奥が深そうです。

 

-アナリストになっていなければ、何をしていた?

トレーナーの仕事を本職としてずっとしていたでしょう。ただ、映像は昔から好きでした。中学から大学まで陸上の長距離をやっていて、箱根駅伝や日本選手権、世界選手権のビデオを撮りためて、どうしたら速く走れるのかを考えたりしていました。でも、自分自身はケガが多くて、なぜだろうと思ったので、専門学校に行ってトレーニングやリハビリの勉強をすることにしました。在学中からランニングクラブや実業団のサポートに入ったのですが、映像でフォームを客観的に見られた方が話をしやすいのかなと思っていたところ、iPadが出始めて、アプリでフォームの比較などもしやすくなりました。

自分は、パフォーマンスを上げるアスレチックトレーナーとマッサージや鍼を打ってケアをする両方をやっています。例えば、「腰痛がひどいです」と言う選手のフェンシングの映像を見たら、前傾が前よりも深くなっているので負担がかかっているなとわかったり、今日の試合を撮影していてこういうシーンが多かったけど、ここをかばっているんじゃないかと感じるとか、撮影とトレーナーの仕事がリンクすることもあります。近代五種のアナリストという形ではなくても、映像を使うスタイルでやっていたとは思いますね。

日本人が世界でメダルを獲れない競技ではない

-今後の目標、夢は何か?

まずは2020年の東京五輪でメダルを獲ることが一番の目標。それに向けて、強化委員の一員として、基盤づくりを進めています。以前は自衛隊や警察に入ってから近代五種を始めた選手が多かったのですが、今は中学や高校からこの競技を始める選手も出てきているので、次の世代につないで、東京の後の五輪もよりよい色のメダルが獲れることを目指しています。

近代五種は、日本人が世界でメダルを獲れない競技ではないと思っています。例えば、2017年の世界選手権で優勝した韓国の男子選手(チョン・ジンファ)は日本人と体格はほとんど変わらないです。あとは、いかに技術を鍛えるかということですが、その選手が28歳でメダルを取った時に近代五種を始めて15年と聞きました。中学生の年代から五種目をやっていれば、メダルの可能性は高いと考えられます。タレント発掘から、育成、強化をうまく組織としてまとまっていければもっとよくなるはずです。

 

-アナリストに必要な資質は?

コミュニケーションが一方通行にならないことです。自分から主張するよりは、現場とのコミュニケーションで、撮って、つくって、提供できるかだと思います。

映像を撮ることやソフトを使うことは、ある程度やっていけば覚えられますが、競技を知って、選手やコーチと話して、どういうふうにそれを使っていくのか、競技力向上につなげることを理解してやっていけなければ難しいです。

自分の場合は、コーチとのコミュニケーションは、陸上以外については経験者のコーチから教わりながら、自分が知っている機械や方法を使って、こういうことをやってみましょうかと伝えて、試しながらやっている感じです。馬術のコーチとコミュニケーションを取る中で、騎乗している選手のヘルメットに小型カメラをつけて撮影してみるとか。

また、(近代五種で)撮影を始めたきっかけは一人の選手から「撮って下さい」と言われたことでしたが、それが一人だけサービスのボリュームアップのようにならないように、チーム全体となるように配慮しました。

 

-どうしたら、スポーツアナリストになれるのか?

分析したいスポーツにいかにのめり込めるのかというか、愛着がないとアナリストとしてはやっていけないと思います。自分は近代五種は奥が深いし、可能性もあると思っています。撮影しながら、これをどう加工しようとか、今ここでこう動いていれば勝てたかなとか、いろいろ考えています。

まずは、アナリストとして関わるその競技を知ろうとすることが大事です。近代五種はナポレオンの兵士が、敵陣を偵察して、剣や銃で戦って、川を泳いで渡って、走って、馬に乗って、帰ってくるという物語を競技にしています。

そういうルーツを知ると、なぜ馬術で乗る馬が抽選なのかというと、自分の馬がやられた時には相手の馬を奪ってでも帰ってこなければいけないから、どんな馬でも乗りこなせないといけないとわかります。だから、くじ運のいい悪いではなく、どんな馬も乗りこなす技術の問題と考えると見方が変わってきます。他にも、その競技が好き、面白いなというのがあると、いろいろな見方ができると思いますね。

(インタビュアー:早川忠宏)

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アナリストプロフィール

アナリスト

手塚 賢二 氏

日本オリンピック委員会(JOC)専任メディカルスタッフ(トレーナー) 日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ(医・科学スタッフ)

1983年東京都生まれ。中学から帝京大を卒業するまで、陸上長距離の選手。東京スポーツ・レクリエーション専門学校スポーツトレーナー科でアスレチックトレーナーの資格を取得した後、東京メディカル・スポーツ専門学校鍼灸師科へ進む。卒業した2012年から日本近代五種協会で仕事を始める。2014年仁川アジア大会や2016年リオデジャネイロ五輪に選手団の一員として同行した。

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