Pick Up Analysts

2019.9.25

アナリストは「繊細」「敏感」「他者の感 情を理解できること」が大事

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画『Pick Up Analyst』。第24回は、日本バレーボール協会の伊藤健士氏に聞きました。

伊藤氏はバレーボール男子日本代表のアナリストとして、中垣内祐一監督やフィリップ・ブランコーチをサポートしています。

「データバレー」との出会いが運命を大きく変えた

 

―アナリストになったきっかけを教えてください。

まずバレーボールとの出会いは、中学校で部活を選ぶときに兄がやっていたので私もバレーを選んだという単純な理由です。中学校では陸上もやっていましたし、高校はすごく弱い学校でした。だいたい1回戦で負けて、次の試合で審判をやって帰るというような、普通の都立高校でしたね。

大学は体育教師になりたくて筑波大学に進学しました。私は知らなかったのですが、当時の筑波大学は日本一強かったんです(笑)。バレー部の考えは「来る者拒まず、去る者追わず」という感じ。日本一強い大学なわけですから、推薦で有名な選手が入ってきます。一般入試で入ったのは私を含め同級生で9人いましたが、1年が終わるまでに7人が辞めてしまいましたね。その後、2年生になったときにマネージャー業務をやる路線と、データ班をやる路線がありまして、その岐路に立ったときにもう1人がマネージャーをやったので、私はなんとなくデータ班という感じで分かれていきました。それまでデータを見る習慣もなかったですし、データに興味があったわけでもありません。なぜこの道を選んだかというと「たまたま」としか言えないですね。

―そこから日本代表チームのアナリストになるきっかけは?

当時から筑波大学では「データバレー」というソフトウェアを使っていたのですが、使い始めたのが企業チームよりも早かったんです。「データバレー」は世界的にもかなりのシェアを占めていて、現在では日本でもかなり使われているソフトウェアなのですが、その頃は日本ではあまり使われていませんでした。そんな中で筑波大学が先行して使い始めていて、データ班で分析をしていたというのが大きいと思います。

私は大学院まで進んだのですが、4年生で引退してからは「データバレー」が使えるということで毎年Vリーグ期間に東レアローズに呼ばれて入力の手伝いをするようになっていました。そこから社会人になるときも東レに就職したという流れです。

たぶん当時はアナリストという役職はなかったんじゃないですかね。分析は監督やコーチが手作業でやっていたぐらいです。アナリストとしては、渡辺(啓太/JSAA代表理事)君や僕らが最初の世代ではないでしょうか。筑波大学では私の2つ上の方がバレーボールチームに進んでいまも活躍されています。1つ下の後輩も女子チームに行きましたね。「データバレー」という特殊なソフトウェアが使えるということで、当時は企業チームから引っ張りだこでした。

そして日本代表チームには東レでの8年目が終わった2014年に入りました。当時パナソニックパンサーズの監督だった南部正司さんが全日本の監督になるタイミングで私のことを誘っていただきました。すごく興味がありましたし、やってみたいと思ったので東レを退社して代表チームに進む決意をしました。

―東レと全日本でアナリストとして仕事や役割の違いはありますか?

東レでは、アナリストですけれどコーチングもやっていました。東レの最後のシーズンはコーチングスタッフが私1人でコーチとアナリストを両方やっていました。戦術ミーティングや練習メニューも私が決めていました。

代表チームともなるとそれぞれのプロフェッショナルが集まっていますから、現場のスタッフに情報提供するという段階の作業が多くなりましたね。中垣内体制になってからはブランコーチとほぼ同じ行動をしています。前の日の練習の映像は全て彼と一緒に見てフィードバックしますし、選手の動きやトスのタイミングなどさまざまな項目をチェックしています。試合の時期になると対戦相手の特徴なども話しますし、打ち合わせを重ねまくっています。

日本代表チームでは戦術面や練習の組み立てはブランコーチがメインにやっているので、彼と一緒に行動することで彼のサポートになればいいと思っています。ブランコーチは選手として世界選手権でMVPを獲得、2014年の世界選手権ではポーランドのコーチとして優勝しているし、長年フランスの代表監督も経験されている方ですから、彼と話すことで私自身すごく勉強になるんです。その他にも代表のアナリストはいろいろなスタッフと関わることができるので、貴重な経験になっています。

勝敗より、選手の小さな変化にやりがいを感じる

勝敗よりも選手の動きが改善されたときにやりがいを感じると話す

―アナリストとしてやりがいを感じるのは?

昔は勝ったらうれしいと思っていたんです。でも、私も40歳手前になってきて、それだけがやりがいではないのかなと思うようになりました。僕らが考えた勝つための作戦だとか、日々の練習の中で提供している選手の動きの改善や修正点、こちらの提供した戦術がはまったとき、選手ができないことができるようになったとき、というような小さなことのほうがやりがいを感じるようになりました。

私はデータがいいから勝ったとは全然思っていなくて、バレーボールの場合、試合に勝つ要素の中でデータが占めるのは10%ぐらいしかないのではと思っています。それよりは日々の練習での強化、選手のパフォーマンス、ポテンシャルの方がウェートは高い。勝ち負けは最終的な結果ですから、勝ったとしてもあまりやりがいを感じられないこともあります。プレーヤーを支えるのが好きなので、僕らが提供しているフィードバック情報などに基づいて選手の動きが改善されたとしたら、それが最もやりがいを感じることです。

―アナリストの仕事で一番大変なことは?

大会のときはアナリストとして行武広貴さん(パナソニックパンサーズ)が帯同してくれますけれど、小さな大会は1人でやることが多い。1日の試合数が多いと、どうしても作業が多いので大変です。私がどんなに頑張っても2時間半の試合のデータ入力には2時間半かかるんです。どうしてもマンパワーが必要ですし、時間の制約があるのは大変ですね。収集したデータを分析するとか、人と話す、プレゼンすることが大変だと思ったことはないのですが、1日ずっと体育館にいるのは大変です。

―アナリストの仕事として「収集・分析・プレゼン」という話をよく聞きます。その「収集」の部分でしょうか?

そうですね。「収集」の内容もすごく細かくなってきているので、入力内容も多い。ソフトウェアが進化していて、僕らが最初に使い始めた頃のバージョンで入力できる項目からかなりバージョンアップしています。大変ですけれど、それによってすごく優位になることもありますから。

日本は他国と比べても、かなり「データバレー」を使いこなせていると思います。一般的な項目に加えて、独自に入力できるコードなども追加していますから。他国と情報のシェアもしますが、彼らの情報を見るとそこまで深いところまではやっていない、(データ活用が進んでいるのは)イタリアやポーランド、アメリカ。イタリアのアナリストがいろいろな国で活動していることが多いです。

―分析に欠かせないツールや情報は?

やはり「データバレー」はもちろんですね。相当細かい項目まで、いろいろなフィルターをかけて調べることができますから。バレー界では90%以上がこのソフトを使っていますから、かなり優秀なソフトであることは間違いないですね。

資料を作る際にはExcelをよく使います。現場にいると凝ったものを作るのは難しいので、Excelで単純なグラフや図形を加工して資料を作成しています。選手がイメージしやすいような映像をチョイスしたり、伝える工夫をして資料作成の時間を短くしながら、分析にかける時間を多くしています。「データバレー」とExcelがあれば今はなんとかなります。

「データバレー」は優秀なソフトですし、我々としては使い慣れている部分もありますけれど、工夫次第では「データバレー」が使えなかったとしてもいくらでも分析できると思います。私たち(日本バレーボール協会)はアナリストセミナーを毎年やっているのですが、高校生も来てくれますし、昨年は北海道から中学生が来てくれました。僕らが始めた頃では考えられないぐらい裾野は広がっていますし、定着していることに驚きますね。

常に選手目線で考えることが大事

どんなにいい分析をしても理解してくれなければ意味がない

―伊藤さんの考える「スポーツアナリスト」の定義を教えてください。

アナリストですから、コーチと何が違うのかを考えると、やはり「情報戦略の面でスペシャリストである」ということでしょうか。分析の仕方は映像を使ったり、動作分析であったり力学の要素を使ったりと方法論はいろいろあるでしょうね。そういった情報戦略の部分で専門性高くやっている人ということでしょうか。

私は大学で体育専門学群だったので、一般的な運動理論や運動生理学、運動力学を学んでいたことがすごく役立っています。ベクトルの考え方であったり、骨格や筋肉のつき方は選手それぞれ違うわけで、ベクトルを考えると強く打てるのはどういうときか。ある選手が特定のコースに強くスパイクが打てているのはなぜなのかを分析する中で、映像を見て助走や腕の振り方、筋肉のつき方や肩幅などいろいろな情報を含めて考えられる。そういった分析のベースとなる部分では、大学で学んできたことが生きているのかなと思います。

戦術ミーティングは気を付けないと同じような話になりがちですから、それだけでは選手に普段と同じ刺激しか脳に入らない。もう少しインパクトを与えるために、伝え方を常に工夫しています。そういう意味で力学や数学の知識がもう少しあれば、いろいろできたかなとは思います。

結局、僕らは選手がどれだけ理解して吸収してくれるかが大事なわけです。どんなにいいデータがあっても、どんなにいい分析をしても理解してくれなければ意味がない。選手もミーティングで論理的に説明して納得してもらっても、試合中に考えられるのは○か×か、多いか少ないか程度の限られたことなんですよね。特にバレーボールでは瞬間の判断が重要ですから。ミーティングでも選手が理解して行動に移すことが大事なので、常に選手目線でこちらも考えることが大事だと思います。

-自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

僕はすごく人間を観察するのが好きなんです。試合中も相手のコンディションや顔色、誰と誰がよく話をしているのか見ています。仲がいい人とはよく会話するでしょうし、そうでもなければ少ないだろうと。ということは、大事な場面で信頼するのはどちらかを考えたり、いろいろな物語を作るんです。そういうコミュニケーションやその日のコンディションに注目して、人間的な駆け引きであったり、仕草を観察するのが好きなんです。

例えば格闘技だとか、1対1の対戦型の種目は生きるか死ぬかの瀬戸際でやるスポーツだと思うので、追い詰められた際によりクセや本能が出てくると思うんです。そういう競技の分析をしてみたいですね。その選手にとって本能的に身体に染み込んでいることが傾向としてよりはっきりと出てくる気がするんです。

―アナリストになっていなければ、何をしていた?

将来的にはコーチングを極めていきたいと思っています。コーチだけれど、「データバレー」が扱えるとか、アナリスト的な仕事もできる。そういうスタイルを目指しているので、コーチになると思います。

監督も興味はあるのですが、僕は表に出るのが好きではなくて、裏に回って仕事をしていたいタイプなんですよね。でも、選手にうまくなってもらいたいという思いが第一です。選手がアスリートとしての短い競技生活の中で、よりよい考え方だったり、より成熟した選手となる助けをしたいので、そこに携わることができればなんでもいい。

バレーボールにも関わっていなかったら、元々なりたかった教員でしょうか。それでも、バレー部の顧問とかやってるかもしれないですけどね。

―今後の夢、目標は?

一番手前の目標は東京五輪で日本代表が活躍することです。その先もできれば代表チームに携わっていきたいですし、アンダーエイジカテゴリーの選手にももう少し若い頃からデータの見方であったり、戦術を教えていく仕事をしてみたいです。できるだけ長くバレーボールに関わって、面白い選手の成長に役立っていきたいです。

日本では大学4年間を経てプロになるケースが多いのですが、海外では高校を出てすぐに活躍したり、トップで揉まれている選手がほとんどです。大学のレベルが低いわけではないですが、普段対戦する相手も大学生ですから。同じレベル同士でやる4年間と、トップレベルで揉まれる4年間で差が出てしまうのかなと思います。トップレベルが採用している戦術などをもっと早く体験できれば、もう少し成長のスピードが変わると思います。

ただ「高く飛んで上から打つ、相手のブロックが高くなると通用しません」ではなく、戦術の幅を早い段階で身につけることができれば、成長の度合が変わってくると思うんです。

アナリストとして「プラスワン」がないと難しい

伊藤氏はアナリストとして「プラスワン」の武器を持つことが重要という見解を示した

―アナリストに必要な資質は?

いろいろな人がいるので一概には言えませんが、私たちは選手の人生を決める選択をしていると思っています。僕らが集めたデータが数値化されて、それを基に選手の評価がされていくわけですから。評価に関わるということで正確な仕事をしなければいけませんし、私の仕事が信頼されないといけないですよね。なので「勤勉」であるということ、選手に「感情移入」できるかが大事かなと。机の上で考えた良いと思う戦術が自分のチームにすべて当てはまるわけではないですからね。僕のモットーが「神は細部に宿る」という言葉です。自分の仕事で細かい部分までこだわらないと良い仕事はできないと思っています。だから「繊細」で「敏感」で「他者の感情を理解できる」ということがアナリストとして持ってもらいたい資質です。

―どうしたら、スポーツアナリストになれると思いますか?

アナリストに限らず「運」と「縁」、「タイミング」が大事なのは間違いない。日本の社会を見るとこれは外せないですよね。

バレー界の話をすると、国内のアナリストはほとんどが関東や関西の強い大学でアナリストをやっていた人たちです。最近はどのVリーグチームにもアナリストがいますから、そのアナリストのサポートから始めて、その企業にそのまま入社するという流れが一番多いと思います。また導入されているシェアが高いので、「データバレー」の習得は必須条件だと思います。

ただ、アナリストになるだけであればなれるかもしれませんが、一流としてやっていくとか、アナリストだけで飯を食うとなると、それだけでは到底不十分ですし、この先もないと思います。「データバレー」の情報などはAIなどに取って代わられる時代もすぐに来るでしょう。そんな中でも生き残るにはそれ以外の親学問であったり、専門性の高い知識、特別なスキルが必要だと思います。僕の場合はそれがコーチングでした。アナリストとして、何か「プラスワン」がないと難しい時代が来ると思いますね。

(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)

アナリストプロフィール

アナリスト

伊藤健士氏 氏

公益財団法人日本バレーボール協会

1981年生まれ。筑波大学大学院を修了後、東レに入社。東レアローズ男子バレー部でアナリストを務める。2014年に東レを退社し、男子日本代表のアナリストに就任。チームの戦術や練習内容、試合中の選手交代や代表選手の選考など、男子日本代表に関わる多岐に渡る内容を分析している。

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