Pick Up Analysts

2016.8.19

データはただの「材料」。調理して食べられるようにするのが、アナリストの仕事

クリス佐々木氏

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。

第二回はWOWOWでNBAアナリストとして解説を務める佐々木クリス氏に聞きました。メディアとして情報を伝える立場のアナリストはどんなことを考えているのでしょうか。

データとは材料

−アナリストになったきっかけ、データとの出会いは?

元々は中学3年生ぐらいまでバスケットのトレーディングカードとかを買っていました。カードにボックススコアとか、選手のスタッツが載っているので、そこで選手の特徴とかを勉強しました。選手たちの強みや弱みを知ることで、コート上のパフォーマンスを見るときに奥深さが出てきたんです。

あとはWOWOW NBAに携わるようになったころ、SportVu(STATS社によるトラッキングデータ)がNBAで一般公開され始めた時だったので、それは衝撃でした。出始めたタイミングが自分と少しずれていたらこんなにうまくいかなかったと思うし、SportVuを用いたアメリカの記事を読むと「その視点でくるか」みたいな発見があったので、そういった記事は自分の辞書代わりになっています。

−スポーツでITを活用して分析することの目的は?

目で見たものだとか経験則だけでは見えてこない、隠された事象にスポットライトを当てるのが一番の目的です。印象論だけではなく、具体的な裏付けをする。今まで光が当たらなかったところに光が当たるという面白さもあります。

−分析結果を伝える際に気を付けていることは?

データとは材料だと思っています。データを野菜だとすると、取れた材料をそのまま出すのではなくて、きちんと調理して出すということです。データを投げ出して、勝手にどうぞではレストランとして成立しないので、「こういうふうに味わうとおいしいです」という視点を加えます。なぜこのデータが面白くて、なぜこのデータが試合に影響を与えるのか、それが伝わるよう料理するということですね。

−佐々木さんはメディアとして、データを活用する立場にいます。チームがパフォーマンスを分析するためのデータと、メディアが人に伝えるためのデータは違う?

NBAのチームの場合はもう少し細分化されていて、シチュエーションごとにブレークダウンしているものが多いと思います。例えば、日本でデータを用いる場合、「彼は4割の確率で決める3Pシューターだから気を付けよう」ということで終わる印象があります。

それ以上に数字が用いられることが少ないので、現場によりアナリティクスを浸透させるためには、先ほど言ったように何か食いつきやすい情報を添えて選手に伝える必要があると思います。選手やコーチにも有益と感じてもらい、納得して取り入れるための工夫は必要ですね。

クリス佐々木氏

−よく見ているサイトやブロガー(プロ・アマ問わず)を教えて下さい。

僕が好きでWOWOWの放送に携わるようになって見るようになったのは『TrueHoop TV』です。現在ではアメリカのテレビ局ESPNに買収されてしまったのですが、元々は単独のブロガーが始めたものです。動画の絡め方もうまいし、podcastなども使って総合的に見せるのがうまいです。

日常的に『Bleacher Report』『SB Nation』『Slam Online』『Basketball is Life』などの総合サイトは一通り押さえています。あとはこちらもやはりESPN系ですが統計的な視点から事象を読み解く『FiveThirtyEight』は面白いですね。

あとは『The Daily Thunder』とか番記者の記事を読みます。僕は数字だけを扱うアナリストではないし、NBA”総合“アナリストと考えてもらいたいです。例えば、番記者たちが書く、数字とは関係ない選手たちのロッカールームの話をまとめた記事とかも面白いですよね。絶対に(データとデータ以外の情報の)両方を楽しまないとダメだと思います。

NBAの場合、コーチを目指している人がアナリティクスを用いる

−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

今(取材は2016年6月に実施)はサッカーのUEFA EURO 2016 サッカー欧州選手権を見ています。シュート本数ではなく、シュートが枠内に高い確率で蹴ることができる選手を評価するのは面白いですよね。ヒートマップを見るのも面白いですし、どこでボールをタッチしているのかといったデータは興味があります。走行距離とかスピードは必ずしもパフォーマンスとは一致しないと思います。

−アメリカにおけるスポーツアナリストの立ち位置と、日本との違いは?

NBAの場合、コーチを目指している人がアナリティクスを用いています。チームの中にスポーツアナリストを置くというよりも、コーチやビデオコーディネーターレベルで(アナリティクスを)使っていますね。スポーツアナリストというポジションが存在しているわけではなく、アナリティクスを取り入れている人がGM(ゼネラルマネージャー)やスカウトも含め、バスケットボールオペレーションの各ポジションにいる印象です。

−アメリカにおけるスポーツアナリティクスの現在の市場規模、今後の展望は?

市場規模となると、アメリカはファンタジースポーツの経済効果が大きいと思います。スポーツベッティングが、データへのニーズを駆り立てている。日本のtotoは結果だけを予想するものなので、パフォーマンスベースの予想になると、よりエンゲージメントが大きくなると思います。

そのほかでは、SNSだとかインフォグラフィックの使い方がNBAは上手だと思います。スポーツの世界に統計の専門家などが入ってきていることを考えると、まだまだ成長分野だなと思います。

アナリストに必要なのは、「理論的に考える力」「好奇心」「様々な視点」

−どんな人がアナリストに向いている?アナリストに必要な資質は?

ある程度「理論的に考える力」は必要になると思います。考察、検証、確証データの抽出となりますので、きちっとした組み立てが必要になります。そうすることで、初めて説得力が生まれる訳です。

それ以外に挙げたいのは、「好奇心」「様々な視点」でしょうか。好奇心は探究心にもつながり、探究心をもっていればAと言われている事象も、本当はBもしくはA’なのではないかと考えさせてくれるはずです。

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
この答えを僕は持っていません。なので、子供の頃に観た映画の台詞をご紹介します。

『あなたが朝目覚めて歌う事しか考えられなかったらあなたはシンガー(歌い手)なんだよ。』

現実は甘くないけれど、僕は「そんなの無理」という人の言葉にいっさい耳を貸さずに進んできました。

(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)

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