第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。
第三回はプロ野球を分析し続けているデータスタジアム株式会社の金沢慧氏にお話を聞きました。
分析の結果が事実に近かった時にやりがいを感じる
−アナリストになったきっかけ、データとの出会いは?
スポーツとデータの関係に注目し始めたのは、Numberで「イチロー対野村ID野球」に関する記事で、アソボウズが特集されたのがキッカケでした。
元々、小学校の頃から、野球に関するデータを調べたり、映像を分析したりするのは好きでした。高校時代、野球部を引退した後、8ミリビデオで後輩の試合を撮影して、一時停止した映像を1コマ1コマ写真にして、渡していたこともあります。
大学時代に、「野球小僧」という雑誌のアナリスト講座を受講したのですが、アナリスト講座の講師をしていたのが、データスタジアムの社員でした。
「野球小僧」アナリスト講座を受講していた時は、「野球小僧」のライターをやりながら、選手名鑑を作る仕事などをしていました。大学卒業後は筑波大学の大学院でスポーツ経営学の研究をしていたので、就職を考え始めた時、最終的にはスポーツの仕事をしたいという希望がありました。一般の企業と迷いましたが、うちを受けないかとお話のあったデータスタジアムに就職することになりました。
−アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?
分析の結果が事実に近かった時です。
イベントやテレビ番組で、野球解説者の方と解説させて頂くこともありますが、野球選手の経験はないので、経験談を基に話すことは出来ません。一方で、これから起こりそうなことをデータをもとに予測して、根拠のある形で表現することはできます。その予測がすべて当たるわけではないのですが、見ている方に「それなりに正しいな」「なるほどな」と思っていただければ、私が出て行く意味もあるのかなと思います。
−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?
2014年の日米野球で、テレビの解説をやった時は大変でした。そもそも、元プロ野球選手以外の人が、解説をするというのは、前例がありません。地上波で松井秀喜さんが解説されていて、裏番組的な扱いとはいえ、3時間喋らなきゃいけないのは、想像以上にしゃべる量が多く、きつかったです。
ただ、テレビの視聴者にデータを伝えるという経験を積んだ後、大抵のことでは緊張しなくなりました。
−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?
自社のツールであるベースボール・アナライザーとMicrosoft Accessは欠かせません。データを組み合わせて、独自のデータを作る必要があるとき、Microsoft Accessを使ってデータを加工しています。
なお、ベースボール・アナライザーは、プロ野球からアマチュアまで幅広くご利用いただいているスコアブックアプリケーションです。入力されたデータはデータベースで管理され、過去のデータでも簡単にご参照いただけます。また、データと映像をリンクさせることもできます。
スポーツアナリストは料理人
−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?
スポーツアナリストは料理人みたいなものだと思っています。料理を自分のために作る人、家族のために作る人もいれば、プロの料理人のようにお金を頂いて作る人もいますが、材料を集めて調理をするという行為は同じです。そして、料理が美味しいかどうかは食べる人の評価次第であり、絶対的な価値はありません。この辺りもスポーツの分析に似ています。
現場でアスリートのために分析する人はスポーツアナリストですが、テレビを観ながら好きなスポーツを分析する人も、居酒屋でスポーツについて語る人も、広い意味ではスポーツアナリストだと思います。個人的には、スポーツが好きな人、観る人、分析する人は、みんなスポーツアナリストなんだと思っています。
−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?
バスケットボールのアナリストをやってみたいです。もともとバスケットボールを観るのが苦手だったので、ゼロから積み上げるということに興味はあります。
−アナリストになってなければ、何をしていた?
何かしらデータを扱う仕事をしていたと思います。ちなみに、就職活動していた時には、企業信用調査の会社から内定をもらいました。
−今後の目標、夢は何?
スポーツを軸とする企業がもっと増えて行くように、努力をしていきたいと思います。
個人的にはSAJ(スポーツアナリティクスジャパン)の実行委員などもやらせていただいていますので、最先端の事例をキャッチアップしつつ、幅広い領域に関わっていきたいと思います。
野球の分析という領域でいえば、マニアックな分野のなかでのジェネラリストを目指していきたいです。セイバーメトリクスの領域ですごい人だけでなく、トップレベルのスコアラー、エンジニア、選手、監督、解説者、経営者、研究者などなど、こうした人々と同じ目線での相談相手になれることが、僕の理想です。
スポーツアナリストは特別な職業ではない
−どんな人がアナリストに向いている?アナリストに必要な資質は?
要領がよくて、根気強い人だと思います。あわせて、担当するスポーツを深く理解し、テクノロジーに対する知識、特に映像系のテクノロジーに対する知識、技術を身につけている必要があります。
あとは、どんな仕事にも必要なスキルだと思いますが、ロジカルな思考と、コミュニケーション力が求められる仕事だと思います。
−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
そんなに特別なものだとは思っていませんので、なりたいと思って努力すればなれると思います。
自分が意識していた努力の方向としては、他の人よりも少し優れている領域を3つ以上持つということでした。日本で100万位程度の能力でも、考え方によっては1億人の中のトップ1%なので、独立したトップ1%の能力や経験を3つ持っていれば、日本に100人しかいない人材になります。
自分の場合は、「1つ2つ勝てる程度の高校で野球をやれていたこと」「統計検定2級程度のデータ処理能力があったこと」「野球のライターをやっていたこと」。大学時代までにこの3つをしていたことでしょうか。どれも単体ではたいしたことのない能力や経験なのですが、3つすべて持ち合わせる人の数はそれほどいないようです。
最終的に最も大切なのは、「スポーツを深く知りたい、仕事にしたい」という気持ちだと思います。その気持ちをないがしろにせず、持ち続けることが、なにより大切だと思います。
(インタビュアー:西原雄一)
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