Pick Up Analysts

2016.11.30

ただの”数値屋”さんにならないために、コーチングの理解が不可欠

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第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。

第6回は、リオデジャネイロ五輪で柔道の複数メダル獲得に貢献した石井孝法氏(了徳寺大学)に聞きました。

主観と客観的事実のギャップを埋めていく

−アナリストになったきっかけを教えてください

大学を卒業して社会人になった後も現役で選手をしていたということもあり、自分自身のパフォーマンスに関する勉強がしたいと思い、方向転換をして筑波大学の大学院に入りました。その時に、恩師から全日本柔道連盟の科学研究部を紹介されました。最初は一緒に研究をしようという話だったのですが、科学研究部に入ったらどうだと誘っていただいたのがきっかけですね。

ただ、難しいところですが私は自分をアナリストと思っていません。コーチというスタンスで活動していて、「コーチの中でアナリストの視点を持っている人」という感じです。

−アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

私は、データを用いることでコーチの主観と客観的事実のギャップを埋めていくことが重要だと考えていますので、それがはまったときです。例えば、その人にとって印象的だと思うシーンは頭の中に残りやすいため、選手やコーチが感じたこと(主観)と実際の数値(客観)は異なることがあります。そういうギャップのある部分をすり合わせていく中で、いいアドバイスができて結果が出たときはやりがいを感じますね。

−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

いつも大変ですが(笑)、一番苦戦したのは日本代表で「チームとしてサポートすること」です。リオオリンピックまでの4年間、私はサポートの責任者的な役割をやってきました。サポートスタッフは専門家として個人で行うサポートには慣れていますが、チームになると難しい部分が出てきます。一番は、選手に伝える情報量やその内容です。サポートスタッフは、一生懸命頑張っているのでたくさんのことを選手に伝えたいと感じます。しかし、選手に伝える情報を一本化しないと選手が情報過多になって迷ってしまうので、チームの中で一番信頼関係のあるコーチから伝えてもらうようにしてきたことです。

−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?

ツールとしてはスポーツ庁が行ったハイパフォーマンスサポート事業で、筑波大学と共同で研究開発した「GOJIRA(ゴジラ、『Gold Judo Ippon Revolution Accordance』の頭文字から)」というシステムを使っています。なぜそれが必要だったかというと、一般的な分析ツールは高額ですし、トレーニングしないと使えない。「GOJIRA」はどこでも誰でも使えるようにしていますし、操作も直感的ですごく簡単です。現状は主に代表チームで使用していますが、今後はもっと広げて一般的に使われるところまで持っていきたいと思っています。

情報としては一定の正確さを保つことが重要になります。分析する項目とその見方が異なっていては比較できないので、すべて同じ基準で分析できるようになったという意味でも「GOJIRA」は重要ですね。指標としては「(「指導」などの)罰則」や「有効」「技あり」「一本」などポイントに関わるところを見ていきます。

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アナリストにもコーチングの理解が必要

−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

僕の中ではどのスタッフも実はコーチだと思っているんです。なぜそう見ないといけないかというと、アナリストが数値屋さんになってしまうと失敗するケースがあるからです。しっかりとコーチングの理解を持ってアナリスト的な活動をしなければいけません。コーチの言動を読み解き、客観的な分析が実施できるコーチングスタッフがスポーツアナリストだと思います。

−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

チーム競技で、ですかね。チームを組織的に動かしていくこともかなり情報が重要になってくると思います。特にバスケットボールがやってみたいです。それも監督として。自身の弱点になる技術的なところは専属のコーチを雇えば補うことができますし、他の分野のコーチや監督も勉強すればおもしろいことができそうです。これまで、テニス、ハンドボール、空手などの関係者から講習をやってほしいという依頼を受けたこともありますので、可能性はゼロではないかと思います。

−アナリストになってなければ、何をしていた?

元々はコーチを主にやっていきたいと思っていました。今も了徳寺大学では監督をしていますし、実業団でコーチもしていますが、その他と言われれば母校の監督でしょうか。

−今後の目標、夢は何?

教育や育成に力を入れていきたいです。現在、科学研究部は東京オリンピックに向けて新体制でどうするかを話し合っています。その中で、皆が研究者として一人前にならなければいけないという話をしています。そういう人を育てていくことが柔道のためにもなるかなと。まずは、自分自身の力をつけないと、ですね。

アナリスト的な立場として、リオデジャネイロオリンピックまでは、定量的な分析にたくさんのスタッフが関われるようにインフラを整えてきました。今後は定性的な部分で、質の高い分析ができるようにしていかなければいけないと思います。定量分析と定性分析の両方がないと良いパフォーマンスにはつながらないと思うので。

ただの”数値屋”さんになるとまったく使えない

−アナリストに必要な資質は?

アナリストというのは科学者に近い方がベストだと考えています。情報をまとめて数値を出すのは誰でもできますが、それだけではダメだと思います。これまでの常識を批判的にみたり、課題は何で、それを解決するためには何が必要かを考えたり。そういった中から、分析してちゃんと伝えられるところまでできなければいけないと思います。

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
なろうと思えばなれると思います。でも、ただの数値屋さんになるとまったく使えないということになりかねませんので、コーチングの目線がないと厳しくなってくると思います。これは「日本の現状を考えると」です。ですので、コーチングもきちんと勉強した方がいいと思います。

(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)

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アナリストプロフィール

アナリスト

石井孝法 氏

了徳寺大学 准教授

1980年生まれ。2006年筑波大学大学院修了。6歳から柔道を始め,選手時代は100kg級の全日本強化指定選手として活躍。2005年から全日本柔道連盟科学研究部としてナショナルチームのサポートを実施。現在は、了徳寺大学の准教授として教鞭をとり、研究者(柔道バイオメカニクス)、柔道部監督としても活動。2013年からのリオシーズンにおいては、ハイパフォーマンス事業の一環として筑波大学と共同開発した『GOJIRA』システムによる独自の分析技術を用いて、海外の強豪選手や審判に関する情報を詳細に分析。リオ五輪では過去最多となる12個のメダル獲得に貢献した。東京五輪に向けて、世界をリードするサポートを追求している。

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