第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。特にスポーツアナリストを目指している人たちに伝えたい内容になっています。
第8回は、オランダの名門サッカークラブ、AFCアヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストを務め、2016年からはオランダ代表U-13、U-14、U-15専属アナリストとして活動している、白井裕之氏に聞きました。白井氏はヨーロッパサッカーの現場で活躍している、数少ないスポーツアナリストです。
−アナリストになったきっかけを教えてください。
元々オランダサッカーに憧れていたので、2004年に単身オランダに渡りました。2011年にオランダのU-17のアマチュアクラブで監督をやっていた時に、別のクラブにヘッドハンティングされました。その方はオランダのUEFA Aライセンスの指導教官をされていて、彼がアヤックスのサードチーム(アマチュアチーム)に引き抜かれた時に、一緒にアヤックスに加入することになりました。
当初はアシスタント・コーチとして契約する予定でしたが、契約するのは難しいと言われました。ですが、当時アヤックスのビデオ分析アナリストだったミケール・サントーニから、「日本人はパソコンが得意だろうから、ビデオ分析が出来るだろう」と言われ、ビデオ分析アナリストをやることになったのがきっかけです。最初はアヤックスのジャージも渡されず、私服で仕事していましたが、3ヶ月後にはクラブ内で認められて、今にいたります。
−アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?
試合に勝利した時は嬉しいですが、僕が分析から得た知見を、チームのスタッフ、選手と共有し、みんなが納得して実践し、やり遂げてくれた時にやりがいを感じます。自分が話した事が必ず当たるとは限らないので、いつも試合開始から15分間は緊張します。
−これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?
ビデオ分析のフォーマットがなかったことです。例えば、「ビルドアップの問題点を3つ取り出せ」と指示されても、どこのエリアのビルドアップなのかによって、フォーカスするポイントが異なります。まずは、ビデオ分析するにあたって、フォーカスするポイントを定めるため、どこを、どのように分析すべきかを定型化したフォーマットを作る事が必要でした。
問題点を抽出するには、監督が試合に向けて、選手に練習させていた事を前提として、試合を分析しなければなりません。アナリストが主観で判断した情報だけを基に判断するのは、分析ではありません。試合までの準備のプロセスがわからないと、どんなにフォーマットがよくても、分析による答え合わせは出来ません。
−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?
パソコン、カメラマンが撮影してくれた映像は欠かせません。映像を分析するツールとしてはSportscode、またはSoccerLABを使っています。何より必要なのは、映像を分析するためのフォーマットです。フォーマットはデジタルで用意されていて、必要な情報を入力することが出来るようになっています。
将来は、機会があれば日本で仕事してみたい
−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?
アナリストは、誰もがスポーツを理解出来るよう「フォーマット」を作るのが、仕事だと思います。
−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?
フェンシングのようにサッカーとは全く違うスポーツのアナリストに興味があります。あるいは、野球、バレーボール、卓球のように、「ボールが自由ではないスポーツ」のアナリストをやってみたいです。
−アナリストになってなければ、何をしていた?
サッカーの指導者をしていたと思います。僕は、元々指導者になりたくてオランダにやってきたので、自分自身がアナリストだとは思っていません。機会があれば、アシスタント・コーチや監督もやってみたいし、アナリストの仕事で得た知見を今後のキャリアに活かしていきたいです。
ちなみに、僕はFCポルトの戦術分析担当から監督になって、ヨーロッパリーグを制した(アンドレ・)ビラス・ボアスが最高の見本だと思っています。彼は僕と同じ年齢です。
−今後の目標、夢は何?
普段は何事もきっちりしていると思われがちですが、実は人生設計はいきあたりばったりです。ただ、どんなチャンスが来るか分からないから、常に準備はしています。準備していたからこそ、オランダサッカー協会のアナリストというチャンスをもらえたのだと思います。
将来は、機会があれば日本で仕事してみたいですね。20代、30代はヨーロッパでガンガンやりたいと思っていましたが、最近は日本の良さを再確認する機会が増えました。チャンスがあれば、ヨーロッパで学んだことを日本に還元したいと思っています。
ロジカルに説明する能力は、仕事を通じて身につけられる
−どんな人がスポーツアナリストに向いていると思いますか?
スポーツの中で起こった事象を分析して、伝えるのが仕事です。スポーツに関する知識があったほうがいいと思いますが、監督によって要求されることは異なるので、一概に「こういう人がスポーツアナリストに向いている」とは言えません。
僕は、ロジカルに説明する能力は、アナリストとしての仕事を通じて身につけられる能力だと思っています。
例えば、2010年の南アフリカワールドカップでオランダ代表のキャプテンを務めていたマルク・ファン・ボメルは、以前に解説者をしていた頃、自分の経験、感覚に基づいて解説していたので、僕は彼の言葉が理解出来ませんでした。しかし、ファンボメルは指導者の資格を取得する過程で、分析論を勉強したことで、ロジカルにサッカーを分析し、説明出来るようになっていました。
−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?
なろうと思ったらなれる仕事だと思います。ただ。分析するスポーツをプレーしたことがない人は、効果的な事に気がつきにくいかもしれませんね。
(インタビュアー:西原雄一)
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