Pick Up Analysts

2019.1.19

学生がスポーツアナリストになるためには「トライできる環境」が大事

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第20回は、筑波大学蹴球部パフォーマンス局データ班に所属するスコット・アトム氏に聞きました。

『Pick Up Analyst』初となる学生アナリストのスコット氏は、スポーツアナリティクスジャパン(SAJ)2017で「『ジャイアントキリング』に必要なアナリティクスとは」というセッションに登壇。2018年には「JSAA Analytics Challenge Cup」に出場し、優秀賞を受賞しています。1月26日(土)に開催されるSAJ2019にも登壇予定です。

きっかけは高校で行った自主研究

−アナリストになったきっかけを教えてください。

僕の高校は少し変わっていて、国際バカロレア(国際バカロレア機構が認定する教育プログラム)がある学校でした。中高一貫校で、高校1年から毎年自主研究をやるんです。1年のときはスポーツのトレーニングメニューやコンディショニング、戦術などをまとめた120ページぐらいの本を書いたんですけれど、科学的ではないことが書いてあったので先生からの評価がかなり低かったんです(笑)。

自主研究で書いた本

次の年は先生がハイスピードカメラを買ったので、それを使って自分のサッカーのキックを分析しました。自分がうまくなりたいというのが大前提でしたが、今度はしっかり自分のために課題を設定して、科学的に、誰が見ても「こうしたほうがいい」という理想の蹴り方を探したかったんです。

ハイスピードカメラの映像を1フレームずつ分析するのはすごく大変だったので、「先生と一緒にプログラムを書いて作業を楽にするか」という話になりました。そこからプログラミングの勉強も始めて、自分のキックを分析するためのツールを作りました。それらを研究としてまとめて筑波大学に提出したらAC(アドミッションセンター)入試に合格したので、受験らしい勉強はしなかったですね。

ハイスピードカメラを用いた当時の分析映像

大学入学後に戦術の分析などもやりたくて蹴球部に入りました。今でも覚えているのですが、筑波大学のサッカー部は入ってくる1年生に対して本当に厳しいんですよ。入部したての1年生は「フレッシュマン期間」といって、3カ月地獄の朝練が毎朝5時45分集合であるんです。最初にフレッシュマンスタッフという先輩と1対1で面談をする機会があって、「なんでお前はこの部活に入るんだ?」という話をしました。「ここはサッカーと本気で向き合う組織だからな」ということを言われましたね。

僕はサッカーを分析するために、もっとサッカーを知らないといけないという理由が固まっていたので入部理由も明確に伝えることができました。なので、入部してからもスムーズにデータ班に入ることができましたね。データ班では試合をイベントごとに分けてスタッツを取り、レポートシートを作って監督と話し合ったりしています。

データ収集は大変だが、最適なやり方を模索して試行錯誤している

−スポーツアナリストとして、一番大変なことは?

データ収集ですね。特にサッカーは複雑なスポーツなので、データとして何を取るのかというところから始めます。監督が何を知りたいのかを考えるのですが、監督も何がデータとして取れるのかや、どこまで取れるのかという限界が分からないですから。

自分たちでどこまで取れるのかというのを考えて、お金もないので試行錯誤しています。例えば、パスをした選手と受けた選手の背番号をメモしておいて、GPSのデータとあとで照らし合わせて、どういう軌跡でパスを出していたのかというのをプログラムで書きだしてみました。そうすることで、自分のチームがどのエリアで多くのパスを出していたのかなどが分かったんです。他のソフトを使っていたら気付かないと思うので、やはり自分たちに特化した、最適なやり方があるんだなと感じました。

 

―アナリストとしてやりがいを感じる瞬間は?

やりがいというか、分析をした次の試合を見るのは楽しいです。データも分かっていて、前の試合からの改善が見られるので。小井土(正亮)監督はJリーグでもテクニカルな仕事をやっていたので、意欲がすごいというかすごく積極的です。私が「これやってみたい」と言うと、「ぜひやってくれ」みたいな感じですから。自分の仕事がどう活かされるのかを知るのは楽しいです。

 

−担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?

欠かせないツールは、先輩が作ってくれたエクセルのシートと言いたいですけれど(笑)、それを作る能力そのものが欠かせないんだと思います。特に学生が分析するためにはツールやお金など、ないものがけっこう多いので、「ないなかでもやっていける能力」ですね。

僕の場合、それがプログラミングだったんのですが、蹴球部の例で言えば、分析ではないかもしれないけれど、スポンサーをお願いする能力を持っている人がいました。チームで分析し、それを広報するのでツールを使わせてくださいと営業したんです。それがあればプログラミングが書けなくてもいいと思いますし。ツールや情報がない状況でも、それを打破する力が必要だと思います。

データ班が分析する様子

JSAAの考える「スポーツアナリスト」の定義に共感

−自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

データスタジアム社のアナリスト養成講座に参加したのですが、そこで聞いた日本スポーツアナリスト協会(JSAA)の考える定義がすごく印象に残っています。「選手及びチームを目標達成に導くために、情報戦略面で高い専門性を持ってサポートするスペシャリスト」です。まったく自分の言葉ではないんですけれど(笑)、僕はこれでいこうと思いました。自分がスポーツアナリストを定義できるほどの仕事をまだやっていないので、この理想像に近づけるよう活動しています。

 

−自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

僕は球技系が好きなので外せないですね。サッカーにも通じるものがあるので、特に多くの人が関わりあって動くものが好きです。なのでラグビーとかアメフトですかね。あとはテニスも面白いと思いします。

 

−アナリストとして現在の仕事をしていなければ、何をしていた?

何をしていたんですかね(笑)。たぶん、プログラムを書いていると思うんですけれど、何を対象に分析をしているかがなかなか思いつかないですね。もしかしたら宇宙科学をやっているかもしれないです。高校のときに、宇宙飛行士の山崎大地さんが講演に来たのですが、彼の話を聞いてすごくワクワクした覚えがあります。

そういう“ぶっ飛んだこと”に関わっている人はやっぱりぶっ飛んでいるので面白いなと思いました。いまも宇宙開発系のことをやっている会社の情報はフォローしていて、夢いっぱいだなと思いますね。

プレーヤーを引退し、今後はアナリストとしての活動に専念する

−今後の目標、夢は何?

昨年度までは選手をやりながら、筑波大学でサッカーのアナライズとデータ分析を行っていたのですが、今年はデータ分析1本に絞っています。大学生最後の年はサッカーを徹底的に分析することに専念したいと思い、長年続けていたプレーヤーを引退しました。

目標はとにかく蹴球部が今までよりも強くなるようにIT・データ面で全力でサポートすることです。14人もいるデータ班を引っ張っていく立場になったので、「大学生でも、これだけできるぞ!」ということを見せ、サッカー界のデータ分析を牽引していきたいです。

スコット氏は「スポーツアナリストになるためには環境がすごく大事」と語る

「ないなかでもやっていける能力」がある人が向いている

−アナリストに必要な資質は?

大学生の場合、先ほど言った「ないなかでもやっていける能力」がある人はすごく向いていると思います。あとはやっぱりスポーツが好きというか、スポーツを見てなんでそうなっているんだろうという興味を持つこと。探究心がすごい人がスポーツアナリストになるんだと思います。

他にも「人のために頑張れる人」が向いているかもと思ったのですが、私自身が10段階で表すと6ぐらいなので、人のためにも自分のためにも両方頑張れる人がいいと思います。両方やらないと中途半端な仕事しかできないと思うので。

 

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?

スポーツアナリストになるためには環境がすごく大事だと思います。大学生であれば、なるべくいい選手がいるところで、監督になるべく話を聞いてもらえる環境。チーム全体でいろいろな視点でスポーツを見るという体制が整っているところに行かないと、やはり自分がやっていることが生かされないですから。トライできる環境に行くべきだと思います。

【動画】筑波大学蹴球部 勝利を支えるデータ戦術

(インタビュアー:豊田真大/スポーツナビ)

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JSAAでは現役スポーツアナリストも多く集まる日本唯一のスポーツアナリティクスカンファレンス「SAJ2019」を2019年1月26日(土)に開催致します。ご興味ある方は是非こちらをチェック!

アナリストプロフィール

アナリスト

スコット・アトム 氏

筑波大学蹴球部データアナリスト

1997年(イギリス・ロンドン)生まれ。国立東京学芸大附属国際中等教育学校卒業。 筑波大学情報学群情報科学類でデータ分析の方法を学びながら、蹴球部の分析担当を務めている。SAJ2017では、「『ジャイアントキリング』に必要なアナリティクスとは」というセッションに登壇。2018年には「JSAA Analytics Challenge Cup」に出場し、優秀賞を受賞した。

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