Pick Up Analysts

2017.6.19

チームの方向性の中に、自分自身の役割がピースとしてはまり、その中でいい手助けができているか

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第10回は、バスケットボール日本代表のテクニカルスタッフの末広朋也氏(日本バスケットボール協会)に聞きました。東海大学バスケットボール部時代に代表チームのビデオ撮影を手伝ったことがきっかけで、卒業後の2011年から同協会に勤務。7年目の現在は男子U19(19歳以下)日本代表を中心に担当しています。

ツールよりも試合を見る目を養うことが重要

-アナリストになったきっかけを教えて下さい

本当に巡り合わせ、運がいいなと思います。東海大学が大学バスケ界で日本一を争うチームで、そこで学生コーチとして活動していたことが最も大きかったですね。協会への就職は、監督さんあってのものです。本当は卒業後、地元で教員をしながらバスケのコーチをすることを考えていたので、アナリストという職業があることを知って驚いた記憶があります。

分析業は昔から興味を持っていて、特にプロ野球の野村(克也)さんのID野球の考え方が好きで、本をよく読んでいました。きっとバスケにも活かせるだろうなと。どうしたら勝つ確率が高まるのかなと考える日々は、自分に合っている仕事かなと感じています。

-やりがいを感じる瞬間は?

非常に難しい質問ですね。何か結果が出た時にやりがいとかは感じやすいのかなと思いますが、この仕事って、チームが勝ったとしても、自分の仕事がどれくらい勝利に貢献したのかは数値で計れないものなので、やりがいというのはチームの結果とは別のところにあるのかなと思っています。

仕事をするときに意識しているのは、コーチが目指す方向性に合わせること。それに即したデータや映像の手助けをすることです。データは取ろうと思ったらどこまででも取れますし、何か意見しようと思ったらなんとでも言える。なので、そういう人にはならないようには気をつけています。やっている感は出そうと思えば出せますが、本当にチームに貢献しているというのはそういうことではないのかなと。チームの方向性の中に、自分自身の役割がピースとしてはまり、その中でいい手助けができているかどうかが重要かなと思いますし、その中にやりがいが生まれる気がします。

-これまでのアナリストの仕事で一番大変だったことは何ですか?

大変という言葉が当てはまるかわかりませんが、あまり英語が得意じゃないので、外国人コーチとやり取りする時に難しさを感じます。自分が言いたい100パーセントは伝わってないなと思うことがあります。伝えたい単語は言えても、深みのニュアンスというか、ズバッというんじゃなくてやんわり言いたい時とか、うまく伝えられていないなと思うことは多々あります。

-担当種目の分析に欠かせない情報やツールは?

分析というのは着眼点や切り口が大事だと思っていて、この感覚がない人というのは、高価で機能に優れたソフトに恵まれていたとしても、結局のところ分析に時間がかかると思うんですよね。逆に言うと、ソフトに恵まれていない人でも、着眼点さえ良ければ、素早く良いものを作り出せるということですよね。

なので、私自身、ツールよりも試合を見る目を養うことが重要だと思っていて、この目をこれまでは多くのコーチと一緒に試合を見てバスケット観を教えてもらって培ってきたのですが、今はJSAAのイベントで知り合ったNBAアナリストの佐々木クリスさんのコラムやテレビの解説を見て勉強することが多いですかね。チームや選手の強み、弱みの着目の仕方から、データを使ったわかりやすい伝え方まで全てが本当に勉強になります。

自分が工夫して何か考えて、伝えて、人と喜びを分かち合える仕事が好き

-自身が考える「スポーツアナリスト」の定義は?

質問に答えられているかわかりませんが、「脇役の立場をちゃんと把握しながら、そのチームの強化に必要なデータとか情報を的確に出せる人」ですかね。「的確に」というのが、自分の中では大きなところです。

過去には私も立場を超えて出すぎたり、データを集めることが素晴らしいアナリストだと思ってコレクターになって満足していた時期がありました。しかし今では、それではいけないと感じていますし、チームに必要なデータを必要なタイミングで出せるアナリストになりたいと思って意識しています。

-自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

うーん。どの競技のアナリストもやりたくないですね。というのも、ある競技のアナリストをやる場合、その競技のことを知っていることが、非常に重要な気がしているので。今でも難しさを感じているのに、他競技なんてなおさら難しいと思います。アナリストの方々の中には、自分がやっていない競技のアナリストをやっている人もいるじゃないですか。それは本当にすごいなと思います。

-アナリストになっていなければ、何をしていた?

学校の先生になっていますね。バスケを教えるだけでなく、学校行事などの学校の雰囲気も好きなので。教育実習に行ってさらにそう思いました。あと、(故郷の)宮古島でタクシーの運転手をやりたいなと思ったこともありますよ。バスガイドでも良いですね。

今の仕事もそうですけど、自分が工夫して何か考えて、伝えて、人と喜びを分かち合える仕事が好きですね。そういう仕事だったら、どんな仕事でも夢中になる気がします。

-今後の目標、夢は何?

直近の目標では、担当する男子U19のワールドカップでメダルを取ることです。分析の分野で言うと、指導者が着目しやすい、より勝ちにつながるデータや着眼点を見つけて、共有していけたらなと感じています。特に学校の先生とかは時間がない中で指導もやっているので、そんな中でも使いやすい、かつ強化に重要なこれというデータがあれば便利だろうなと考えたりしています。

着眼点、データや情報を料理する力、コミュニケーション力の三位一体

−アナリストに必要な資質は?

着眼点(切り口)とデータや情報を料理する力、あとコミュニケーション力が重要なのかなと思います。三位一体というか、一つでも劣ると、良いものも作れないし伝わらないかなと。

あとは、情熱ですかね。特に情報に溢れている今の時代は、自分の努力次第で、有益な情報が得られたり、新しいアイディアが生まれたりといろんなことができると思うので、常にそれを探究する情熱は大事なのかなと思います。

−どうしたらスポーツアナリストになれるのか?

なりたいと思って行動を起こしたら、その道に近づけるんじゃないんですかね。その競技の尊敬するアナリストに会いに行って、どうやってなったのかを聞いて、同じルートをたどる。それが近道だと思います。その人に会いに行き、話を聞いたら、スポーツアナリストが自分にとって天職かどうかも確認できると思いますしね。

もちろん同じルートをたどらなくても、アナリストの道を切り開いた人も何人か見ましたよ。遠いところから、わざわざ訪ねて来た人もいますし、そういう情熱を感じて、代表チームの分析活動を手伝ってもらっている人もいます。環境を言い訳にせず努力し、プロのアナリストになった人もいます。要は、情熱次第なんでしょうね。

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アナリストプロフィール

アナリスト

末広朋也 氏

公益財団法人日本バスケットボール協会 男子日本代表チーム テクニカルスタッフ

1987年生まれ。2011年東海大学体育学部卒。小学4年からバスケットボールを始め、沖縄・宮古高から東海大に進む。在学中に、学生コーチとなり、映像や数値を使って分析するスキルを習得。大学のヘッドコーチから日本バスケットボール協会のスタッフを紹介され、代表チームの分析に携わる機会を得た。卒業後の2011年4月より、同協会に所属し、日本代表テクニカルスタッフを務める。これまで、2014年仁川アジア大会、2016年FIBA男子オリンピック世界最終予選などに代表チームスタッフとして参加。2017年からU19男子代表を中心に担当している。

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