Pick Up Analysts

2018.11.21

コーチの先読みをして、勝てるアナリストに

Photo by Aki NAGAO

第一線で活躍しているスポーツアナリストに対して、10の質問で自らの仕事への思いや考えを語ってもらう連載企画、『Pick Up Analyst』。第19回は、ジャパンラグビートップリーグの強豪、サントリーサンゴリアスで分析を担当する須藤惇氏に聞きました。

ラグビーは日本の中で、アナリティクスが最も進んでいる競技の一つと見られています。須藤氏は帝京大時代に手探り状態から分析を始め、サントリーではトップリーグで2016-17シーズン、2017-18シーズンと2連覇に貢献するなど、日本一を豊富に経験しているアナリストです。

 

-アナリストになったきっかけを教えて下さい

小学4年からラグビーをやってきましたが、2009年に帝京大に入る時に選手としては限界を感じ、レフェリーになろうと思って、ラグビー部の門をたたきました。岩出雅之監督からレフェリーの仕事にプラスして、分析をやらないかと言われたことが、そもそものきっかけです。当時は4年生の先輩一人が映像を撮ったりしていて、いろいろ教わりました。幸い私が入った年に全国大学選手権で初優勝し、その後も連覇しました。

2年生になると、先輩がいなくなったので自分がやるようになって、ゲームブレーカーというソフトで映像編集をしたりと、少しずつ内容を増やしていきました。当時はスタッフでの入部希望の部員は少なく、3年次に後輩が入ってくるまでは一人でやっていました。どちらかというと相手チームの分析よりも、自分たちのラグビーができているのか、というレビュー(振り返り)のスタッツをつけることが多かったです。方法は体系化されていなかったので、何を数えるのか、新しく何ができるのかを考えるのは手探り状態でした。ネットで検索したらヒントになるものが出てくる時代でもなかったですし。

大学卒業後に、データスタジアム株式会社で2年ほど働きました。フットボール事業部でラグビーを担当して、専用のツールを使ってデータを提供し、いろいろなチームをサポートする役割をしたりしました。その後、サントリーに入って、アナリストを続けられています。レフェリーは大学時代からサントリーに入って1年目までは並行して続けていましたが、今はラグビーに関わるメインがアナリストになって逆転していますね。

選手が力を発揮できる環境をつくる

-アナリストとして一番やりがいを感じる瞬間は?

やはり、優勝した時でしょうね。有難いことに、帝京でも、サントリーでも日本一を経験できています。ただ、優勝しても翌日からシーズンのレビューをするので、すぐにスイッチは切り替えるのですが。

監督や選手とのやりとりはありますが、最後は選手がやるものです。勝つためにやることが100あるとしたら、僕は0.1くらいのことしかしていません。(選手の)力が発揮できる環境をいかにつくれるのかが僕の役割で、優勝した時はそれがつくれたということになります。

3~4か月続くシーズン中は、土曜日に試合がある場合、日曜日から月曜日にかけて、自チームが終えた試合のレビュー、次に対戦する相手の分析のアップデート、翌週に対戦する相手の分析という3つの仕事を進めます。月曜の朝にコーチ陣に報告を上げます。火曜日から金曜日にかけては、それぞれのミーティングでコーチが話す内容に合わせて、映像やデータを用意します。

木曜日からは試合の日に見せるモチベーションビデオもつくります。試合当日は会場に同行し、試合中は監督の横で映像を出せるようにしたり、何か聞かれたら数字を伝えたりしますし、終わったら選手がすぐに試合の映像を見られるようにアップします。

 

-これまでのアナリストの仕事で、一番大変だったことは?

大変だと思ったことはないですね。大学では分析の方法や体制を一からつくったのかもしれませんが、当時はそれが当たり前だったので、苦労したという印象はないです。サントリーに入った時も、かつては分析担当者がいたそうですが、自分一人しかいませんでした。

ラグビーは(人やボールの位置など)似た状況の再現性がほぼないスポーツで、そういうものを分析する方法を学ぶのは、もしかしたら大変なのかもしれません。今も学んでいる最中ですし、ヘッドコーチからは、こういう風に見たらいいとかアドバイスをもらいながら日々やっています。将来、あとから考えたら、今やっていることが大変だったと思うのかもしれませんね。

Photo by Aki NAGAO

-分析に欠かせない情報やツールは?

まず、映像は絶対になければいけない。映像があれば、だいたいのことはできるのではないかと。トップリーグの試合映像はリーグで共有されるので、自分で撮るわけではありません。あと、データスタジアムから送られてくるデータスクラム(同社が独自に開発したラグビーデータ・映像閲覧ソフト)の情報も必要です。

練習では自分で映像は撮って、監督から、こういうものを数えて欲しいなどと依頼があります。あと、ドローンを毎日使っています。もう4年くらいになりますかね。アプリで簡単に操作できて、(攻守の)30人全員がなるべく映るように、ボールの動きに合わせて前後左右に動かしながら俯瞰した映像を撮りますが、選手の動きがわかりやすいですし、レビューもしやすいです。何より、選手が面白がって映像を見るようになったのが大きな効果です。

あと、インターネットの環境が整っていないと、かなりしんどいですね。データスタジアムからのデータにアクセスするのもそうですし、映像をチームで共有するのもYouTubeの限定公開やDropboxを使っているので。選手がいつでも、どこでも見られるような環境をつくりたかったんです。

間に入って、つなぐ

-自身が考えるスポーツアナリストの定義は?

これが定義なのかはわかりませんが、僕がやっているのは、hub(英語で車輪の中心部の意)みたいな仕事が多いです。ヘッドコーチの考えていることをコーチに伝える、コーチが選手に伝えたいことをわかりやすくするために映像を加工する、マネジャーからの連絡事項を選手全員に送る方法を考えるというように、間に入ってつなぐことが多いですね。

アナリストは、データだけ見ていてもダメ、映像だけ見ていていてもダメで、データからその先をやらなければなりません。このチームでは、僕自身がプレゼンすることはありません。コーチをサポートする方がいいんです。「こういう映像を探してほしい」と頼まれたりとか、「こういうプレゼンをやろうと思う」と言われて、見せるスライドの内容を変えたりします。選手の力を引き出すのがコーチで、コーチのサポートをするのがアナリストだと考えています。

 

-自分が他競技のアナリストをするとしたら、どんなスポーツか?

正直に言うと、あんまり想像できません。競技の経験がないと難しいというのは、ラグビーですごく感じています。じゃあ、競技経験を持っているアナリストと他の競技で同じレベルでできるのかというと、最後のところでは違いが出ると思います。

なんでもやってみていいというのなら、F1のレースストラテジスト(ラップタイム、天気の変化、タイヤの消耗など様々なデータを基にレース戦略を考え出す専門職)を選びますかね。(米プロフットボールの)NFLなども見ますが、作戦や展開を先読みしていくスポーツに興味があります。

Photo by Aki NAGAO

-アナリストになっていなければ、何をしていたか?

ラグビーに関わる方法は見つけていたに違いないと思いますね。大学に入ってレフェリーを目指したのは、当時はそれしか知らなかったからですし、ラグビー以外の世界で生きていこうとは思わなかったですね。実は就職活動もほとんどしていなくて、Twitterでデータスタジアムの募集広告を見つけて履歴書を送って、大学4年の夏合宿中に(長野県の)菅平から往復して面接を受けました。

僕の場合は、データスタジアムに入れたことが大きな転機でした。2年間、生のデータを扱えましたし、チームにデータを納品する仕事をしたり、社内で入力する人を教えることもしました。データがどのように作られているのかを知っていることで、このデータはどう探せば見つかるのか、こういう数字を取っているので、これとこれを組み合わせれば出せるはずとか、どういうブレが出るかもわかるし、ダメなブレもわかる。こういうことを知っているのは、チーム側のアナリストとしても大きいです。

 

-今後の目標、夢は何か?

日本代表のアナリストは一つの目標です。7人制日本代表アナリストの中島正太さんとは一緒にやってみたいなと思います。サントリーの沢木敬介監督は(日本代表のコーチングコーディネーター時代に)正太さんとやっていて、「やっぱりすごい」と言っていますし、イングランド代表のアナリストからはその仕事ぶりが「クレージー」と言われたらしいです。

「勝てるアナリスト」になりたいですね。それになれているのかはまだ怪しいですけど、サントリーのような勝てるチームにいるからこそ、学べることはたくさんあります。自分だけでやるのではなく、パソコンとにらめっこでもダメで、チームの中でいかに貢献するのか。心掛けているのは、コーチの先読み、先回りをするということです。今日のミーティングではこういうことを話したいはず、と考えて、前もってデータを準備しておく。始まる10分前に「これ出して」と言われることもありますけど、すぐに出せるようにしておく。仕事のクオリティにはこだわっていかなければ、と思っています。

Photo by Aki NAGAO

一発で察することが必要

-アナリストに必要な資質は?

コミュニケーション能力ですね。先読み、コーチが求めていることを察すること、一発で相手の言いたいことを察することができないといけません。言語というよりは、感じ取らなければいけないことが結構あります。コーチの頭の中には具体的な場面や像があるはずですが、ふわっと言ってくることもあります。それをいかにつかむのか。

それから、オタク的な気質も必要でしょう。長い時間映像を見るのが苦でないとか、ラグビーのことを考え続けるのもそうだし、パソコンの知識も必要です。新しいことを取り入れたいなら、アイデアを思いつくために幅広い情報に敏感であることも大事です。毎日のミーティングの準備でも細かいところを詰めてやっています。

 

-どうしたら、スポーツアナリストになれるのか?

僕にとっては、データスタジアムに入ったことが大きかったです。大学でやっていたものとは全くの別ものという感じで、例えば、ExcelのVBA(Microsoftが提供するアプリケーションで使用できるプログラミング言語。「マクロ」とも呼ばれる)を知った時には衝撃を受けました。

学生でも、映像とExcelがあればできることはたくさんあるはずで、難しいソフトを使わなくても、今持っている素材で何ができるのかを考えることが大事です。このチームでもお金をかけなくて映像を共有できるようにYouTubeを使っていますし、ノートに書くことでもいい。まずは、何かを始めることだと思います。

 

(インタビュアー:早川忠宏)

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アナリストプロフィール

アナリスト

須藤惇 氏

サントリーサンゴリアス 分析担当

1991年神奈川県生まれ。小学4年からラグビースクールに通い始め、神奈川・桐光学園高まで選手。2009年に入った帝京大ラグビー部では、レフェリーを兼務しながら分析担当を務め、1年時から4年時まで大学選手権を連覇。大学卒業後の2013年4月から2年間、データスタジアム株式会社フットボール事業部で働く。2015年4月より、サントリーサンゴリアスに加入して分析担当を務めている。

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